2021.09.02

空論ではなく真実だった車いすバスケ男子日本代表の“史上最強説”

“史上最強”を証明すべくパラリンピック初の準決勝進出を果たした車いすバスケ男子日本代表 [写真]=Getty Images
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 1日、車いすバスケットボール男子日本代表が準々決勝でオーストラリアを61-55で破り、史上初のベスト4進出を決めた。2年前のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)では、第4クォーターの残り20秒で逆転して逃げ切ったが、今回は前半からのリードを守り続けての勝利。なかでも、日本の強さがうかがえたのは、第1、3クォーターにあった。

課題から武器へと変わったハーフコートディフェンス

 試合終了のブザーが鳴った瞬間、男子日本代表の新たな歴史の扉が開かれた。過去11大会で成し遂げることができなかったメダルゲームへの挑戦権を、ついに獲得した日本。“史上最強説”は空論ではなく、真実だったことが証明された瞬間でもあった。

 同じアジアオセアニアゾーンのライバル同士の対戦となったこの試合、ポイントとなったのはハーフコートディフェンスを敷いた第1クォーターと第3クォーターの攻防にあった。

「今大会、オーストラリアは第1クォーターで大量得点して勢いに乗って勝っているので、とにかくここはとんとんでいくぞ、という話はしていました」

 京谷和幸ヘッドコーチが話すとおり、オーストラリアはグループリーグの5試合中4試合、第1クォーターで20点以上を挙げていた。その第1クォーター、日本はハーフコートディフェンスで凌ぎ、14-14と狙いどおりの展開に持ち込んだ。スタートでオーストラリアを勢いづかせなかったことが、まず最初のポイントであったことは間違いない。

 そしてもう一つ、相手に試合の流れを引き渡さなかった大事な局面と思われたのが、第3クォーターの前半だった。スタートからプレスディフェンスを敷いてきたオーストラリアに対し、日本はなかなかゴール前にボールを運ぶことができず、得点チャンスを作れなかった。

 3分以上も得点できない我慢の時間帯となったが、ここもハーフコートのディフェンスで相手の得点を抑え、一時は2点差に迫られながらもリードを死守。この前半でのディフェンスが、後半での得点につながり、8点差にまで広げた要因となった。

 これまで日本は、プレスディフェンスを武器とし得意とする一方で、ハーフコートディフェンスを課題としてきた。しかし、ローテーションやスイッチの速さが格段に上がり、今大会ではペイントエリア内をしっかりと守ることができている。

 さらにもう一つ挙げるとしたら、やはり相手がシュートした後のボックスアウトを徹底していることが要因だろう。そのため、準々決勝でのリバウンド数はオーストラリアが34に対し、日本は41。特にディフェンスリバウンドは、オーストラリアが24に対し、日本は35と上回っている。

 実は2年前のAOCで勝利を挙げた時も、日本はオーストラリアの28を大きく上回る42を誇り、ゴール下を制したことが勝因の一つとなっていた。つまりこの1年半で、オーストラリアは対応の術を持てなかったということでもある。

 リオパラリンピック以降、日本は世界を震撼させるほどのスピードで成長し、トップクラスのチームとなった。しかし、2017年AOC、18年世界選手権、アジアパラ競技大会、19年AOCと、公式戦での結果はいずれも納得できるものではなかった。

 それでも自分たちの力を信じ、東京パラリンピックでの史上初のメダル獲得という目標は一度もブレることはなかった。これまでの敗戦をすべて糧にし、成長へとつなげてきた男子日本代表が、いよいよメダルゲームへと挑む。

文=斎藤寿子

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