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6月12~20日、ブラジル・サンパウロでは車いすバスケットボールの男子U23世界選手権が開催された。男子U23日本代表は予選リーグを4位通過し、決勝トーナメントに進出した。しかし決勝トーナメントでは3連敗を喫し、最終順位は8位。日本としては3大会ぶりにメダルラウンド進出を逃す結果に終わった。だが、チームとしては厳しい結果を突きつけられ続けながらも、個々には大きく躍進した選手たちも少なくなく、彼らにとっては今後につながる大きな経験となったはずだ。そして日本車いすバスケが進むべき方向性を再確認した大会ともなった。
「メダルラウンド進出」という目標達成への足がかりとして、予選リーグで日本が目指していたのは「2位以上での通過」だった。そこで最大のポイントとしていたのが、第3戦のアメリカとの一戦。そのため、大会前の強化合宿ではアメリカ戦を想定した戦略に多くの時間を費やした。
そのアメリカ戦を前に、日本は現地で修正したことがあった。ディフェンスだ。ハーフコートで守る際、それまではボールマンに厳しくチェックしていた。しかし、どの強豪国もボールマンとディフェンスとの間に割って入るようにしてスクリーンをかけてきていた。すると、無理にチェックにいこうと飛び出してもボールマンへのプレッシャーにはならず、それどころかかえってインサイドにできたスペースを狙われてしまう。
そこで中井健豪ヘッドコーチは、初戦後にディフェンスを修正することを決断。「シュート力がある欧米のチームでもアウトサイドからでは確率は50%は超えてこない。それよりもゴール下で確実に得点される方が厳しくなる」と考え、スクリーンを回避できない場合は無理にボールマンにチェックせずに、インサイドを守ることを優先する戦術に変更したのだ。
アメリカ戦はディフェンスで手応えを得るも…[写真]=斎藤寿子
結果的に、アメリカ戦でそれは奏功した。1クォーター、試合開始早々に先制のシュートを決められたものの、その後は約3分間、失点ゼロに抑えるという最高のスタートを切った日本は、4クォーター前半まで互角に渡り合った。最後は引き離され、39-60と大差で敗れたものの、60点に抑えたディフェンスは機能していたと言ってよかった。
問題はオフェンスだった。中井ヘッドコーチも「想定通りの展開になって、実際に勝敗のラインに入った時に勝ちにもっていけなかったのはオフェンスの部分で打開策を見いだせなかった私の責任」と反省の弁を述べた。実は、主力の一人が体調不良で欠場し、アメリカ戦でのポイントの一つとしてきたラインナップが使えなかったという苦しい事情もあった。ただ、“たら・れば”は競技の世界では禁物。シュートチャンスを作ることができなかったのは、事実だった。
チーム最長のプレイタイムを獲得した高校2年生の久我[写真]=斎藤寿子
さらに世界レベルのシュート力を見せつけられたのが、予選リーグ最終戦のイタリア戦だった。試合序盤は日本のディフェンスに苦戦をしていたものの、徐々にアウトサイドからも高確率にシュートを決め、難なく得点を伸ばしてきたのだ。日本も2人もしくは3人をフロントコートに上げるディフェンスでなんとか打開しようとしたものの、差は開くばかりだった。
結局、39-66でイタリアに敗れた日本は、通算成績2勝3敗で4位。ぎりぎりで予選リーグを通過したものの、決勝トーナメントでは3連敗を喫した。最後ブラジルとの7、8位決定戦では1ポゼッション差の激闘が繰り広げられた結果、残り25秒から3度あったゴール下でのシュートチャンスを決めることができず、48-49で競り負けた。
チームとしてはふがいない結果に終わったが、それでも個々には活躍した選手も少なくはなく、大会期間中にヨーロッパのクラブチームからオファーの連絡がきたという選手たちもいたほどだ。全試合で高い集中力を見せていたのが、ゲームキャプテン谷口拓磨(2.0)と小山大斗(3.5)だ。
アメリカ戦でも得点源として活躍した谷口[写真]=斎藤寿子
谷口はもともとの守備力だけでなく、磨いてきたシュート力も遺憾なく発揮。40分間フル出場したアメリカ戦で10得点を挙げるなど8試合中2試合で2ケタ得点をマークした。一方、4試合でチームのトップスコアラーとなった小山は8試合でチーム最多の99得点を挙げた。また岩田晋作(4.5)も5試合でダブルダブルをマーク。リバウンド部門ではランキング3位に入った。
また、新戦力として初めて国際大会に出場した3人もそれぞれの持ち味を発揮。スピードを生かした守備力に定評のある高校2年の久我太一(1.5)は、3試合で40分間フル出場し、8試合でチーム最長のプレイタイムを誇った。高校1年の中澤煌河(3.5)はタイ戦でフィールドゴール成功率70%とするなど高確率でシュートを炸裂。チーム最年少、中学3年の森岡煌陽(2.0)はチーム一のエネルギッシュなプレーを見せ、大事な局面で起用されるなど指揮官からも頼りにされた。
今大会で多くの学びを得たと語る中井HC[写真]=斎藤寿子
全ての試合を終えて、中井ヘッドコーチはこう振り返った。
「私自身の見立てが甘かった。とにかく世界を知らなかったなと。もちろんビデオでは見ていたものの、それでも現地で実際に見て、戦わなければわからないことがたくさんありました。でも、だからこそ日本に持ち帰るものもたくさん得られたと思っています」
指揮官が痛感した一つが、ディフェンスだ。男子日本代表のトランジションバスケを継承しつつも、この世代の特性を引き出そうとした結果、U23日本代表が磨いてきたのはハーフコートディフェンスだった。U23AOCではその成果が出たものの、世界レベルでは海外勢のサイズに太刀打ちできなかった。
「世界で日本が勝つためには、やはりトランジション。ハーフコートディフェンスでは受け身でしかなく、アグレッシブなプレーにつながらない。オプションの一つとしてハーフコートも用意しつつも、やっぱりメインになるのはオールコートで、広いスペースの中でスピードとアジリティでどう24秒を守るか。そうしなければ、U23でも世界レベルではどうにもならないということが改めてわかりました」
今大会の敗戦は、トランジションの速さを武器にオールコートで戦略を組み立てる日本のスタイルの正しさを示したとも言えるのかもしれない。単にU23日本代表の経験というだけでなく、日本車いすバスケ界にとっての糧としたい。
[写真]=斎藤寿子
取材・文=斎藤寿子