2020.10.08

日本人初のKBL選手として開幕を迎える原州DB中村太地。「今は早く試合がしたい!」

背番号は0。「타이치」(タイチ)としての挑戦が始まる [写真]=小永吉陽子
スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者に。国内だけでなく、取材フィールドは海外もカバー。日本代表・Bリーグ・Wリーグ・大学生・高校生・中学生などジャンルを問わずバスケットボールの現場を駆け回る。

前哨戦となるKBLカップで15得点のデビュー

DBの走るバスケットで鍛えられている中村太地 [写真]=KBL/原州DBプロミ


「韓国では思い描いていた毎日を送っています。今は早く試合がしたいですね」

 10月上旬、インタビューの画面越しに聞こえる中村太地の声は前向きで表情も明るかった。7月10日に韓国に入国し、2週間の隔離生活を終えてチームに合流。入国から約3カ月が過ぎた今はチームに馴染み、10月9日の開幕に向けて気持ちは高ぶっている。

 デビュー戦となった、9月末のKBLカップ(プレシーズンマッチ)では大健闘したと言っていいだろう。初戦のSK戦では、27分38秒出場で15得点4リバウンドを記録。「チームで一番若いので動き回ることを意識した」というダイビングルーズやドライブをねじこむハッスルプレーを披露し、イ・サンボム監督から合格点をもらう上々のデビューを飾った。だがチームは74-84で敗戦。

 続く2戦目の相手は組織的な攻防が売りの電子ランド。中村は相手のディフェンスに苦戦して20分で4得点3アシスト4ファウル。チームもいいところがなく81-109で完敗。2連敗でKBLカップを終えた。

 昨シーズン、韓国代表のセンター、キム・ジョンギュ(207センチ/29歳)をFAで迎え入れ、SKとともに同率1位を走って優勝候補の筆頭だったDBだが、今季はKBLカップで2連敗する現状を見ても、チーム作りには苦戦しているといえるだろう。というのも、主力に負傷者が多く、外国籍選手の合流が1名遅れていることが原因だ。KBL全10球団の中で外国籍選手の合流が遅れているのはDBだけであり、「KBLカップではベンチメンバーを鍛えるのが目的だった」とイ・サンボム監督が言うほど、戦力は整っていなかった。

(※DBは昨季も活躍したNBA経験者のチアヌ・オヌアクと再契約したが、オヌアクが個人的な理由で合流しなかったことにより契約を解除し、新外国籍選手を迎えたばかり)

 特に、中村の競争相手であるポイントガードに多くの負傷者が出ている。しかしこの状況は、チームにとってはピンチでも、中村にとってはチャンスでもある。開幕までにはメインガードのドゥ・ギョンミン(184センチ/29歳/韓国代表)は復帰予定だが、昨季、司令塔として著しい成長を見せたキム・ヒョノがアキレス腱を断裂するアクシデントに見舞われたことからも、中村の出番は増える可能性がある。

「今はチームのシステムに慣れることが先決。そこから太地の身長を生かした良さが出てくるはず」(イ・サンボム監督)という指揮官の思いが、KBLカップでの積極的な起用につながったのだ。

 KBLカップを終えて中村は「1戦目は相手も僕に対しては手探りだったけど、2戦目は僕を止めに来ました。マークが厳しくなったときにどう対応するかが課題で、激しいディフェンスで当たられることが開幕前にわかったことは良かった。課題は攻めることとパスを出すタイミングの区別と、ゲームを読む力をつけること。実際に試合をしながら力をつけていきたい」と現状を前向きに捉えている。

試合のほうが楽。オールコートを走る練習に鍛えられる毎日

チームメートとは積極的に会話をしている。中央にいるのが大黒柱のキム・ジョンギュ [写真]=Will co.ltd


 オフコートに目を移すと、衣食住でも快適な毎日を過ごしている。中村の住まいはチームが用意したアリーナ近くのマンションだが、アリーナに隣接しているクラブハウスがお気に入り。クラブハウスには休憩ができる自室があり、「居心地が良くて練習場が近くて楽」という理由で、ほぼクラブハウスで寝泊まりしているという。また、DBのクラブハウスの食事はKBLの中でも評判が高く、日本人の中村も絶賛するほどの美味しさで「毎日かなりの量を食べています」と食事に関しての不安は一切ない。

 言葉については通訳を介しているため「分からないことは割り切るしかなく、ゼスチャーと片言の英語を使いながらプレーしています」と言うが、コミュニケーションにおいては、早くも先輩たちを「ヒョン」(韓国語で兄の意味で、男性が年上の男性に対して使う呼び方)と呼びながら、スマートフォンの翻訳アプリを片手に会話を楽しんでいる。そして何より、韓国に来たことを痛感するのが「予想していたとおり厳しい」という練習の毎日だ。

「Bリーグだと、これまで僕が所属した4チームはセットオフェンスの練習が多かったけど、ここではディフェンスもオフェンスもオールコートで走る練習ばかり。切り返しも速いし、コンタクトも激しい。ディフェンスではプレスやゾーンの種類がたくさんあって、頭も体も使うので、1回の練習がすごく疲れます。試合のほうが楽ですね」と練習環境を明かしてくれた。

 イ・サンボム監督のバスケは優勝した安養KGC時代(2011-12シーズン)から不変で、ある程度の約束事はあるものの、オフェンスの自由度が比較的高い。フリーの形を作るオフボールでの動きが重要になるため運動量も多く、ディフェンスでもフルコートを織り交ぜるために走力も必要とされる。こうしたバスケをするには各自の判断力が必要で、安養KGC時代にはキム・テスル(現在DBのベテランガード)、現在はドゥ・ギョンミンといったクリエイトできる国家代表の司令塔たちが『イ・サンボムバスケ』を束ねてきた。中村もイ・サンボム監督の下、『判断力とシュート力のある長身ガード』になるべく海を渡った。だからこそ、多くの先輩ガードから学んでいる今は「やりたいことが実現している」と毎日が充実しているのだ。

「パフォーマンスが上がった」との手応えあり

KBLカップではチームを代表してメディアデーに登壇した [写真]=KBL/原州DBプロミ


 ここまで書くと、DBの練習がKBLの中でもハードのように聞こえるが、練習量においては上を行くチームはたくさんあるという。むしろDBは「チーム全体の練習量は少ない」とイ・サンボム監督は言う。チーム全体練習は午後の1回で1時間半から2時間。しかし、午前と夜間にはウエイトトレーニングやシューティング、コーチが指導するワークアウトがあり、中村はこのワークアウトで徹底的に個人スキルを鍛えられている。

「2週間の隔離後に合流したときはまったく動けませんでした。でも、強度の高い練習を毎日ムチ打ってやったことにより、今では去年より動けているし、パフォーマンスは上がっている手応えはあります」という状態までコンディションを上げてシーズンを迎える。

 現状はベンチスタートで、どれくらい出番があるかは「自分がやれるスタイルを証明しないとプレータイムがもらえないのがこのチームのカルチャー」と本人が言うように、コート上で信頼を勝ち取る必要がある。第一に求められていることは、当たりの激しい中でボールを運び、速い展開に持ち込むこと。まずはそこをクリアしてから、自分の持ち味を出すチャレンジとなる。まさしく、海を渡った理由「異国の地での経験」を積み上げていくときが来た。ケガ人さえ復帰すればDBは有力チームの一つ。シーズンを通した仕上がりを楽しみにしていきたい。

「練習でも高い強度の中で先輩たちとやり合えているので、抜群に最高の環境です。あとは公式戦の中でどれだけできるか、対応力をつけることを目標にチャレンジします」

 DBの開幕戦はKBL全チームのトップを切って、10月9日(金)14時開始。当面は無観客の中でスタートする。

KBL情報
【試合方式】
ホーム&アウェー
レギュラーシーズン/54試合(6回戦総当たり)
プレーオフ/6強戦&セミファイナル:3戦先勝方式、ファイナル:4戦先勝方式

【チーム】(  )はホーム都市
原州DBプロミ(ウォンジュ市)
仁川電子ランドエレファンツ(インチョン市)
高陽オリオンオリオンス(コヤン市)
安養KGC人参公社(アニャン市)
ソウルサムソンサンダース(ソウル市)
ソウルSKナイツ(ソウル市)
全州KCCイージス(チョンジュ市)
昌原LGセイカーズ(チャンウォン市)
蔚山現代モービスフィバス(ウルサン市)
釜山KTソニックブーム(プサン市)

【選手登録/外国籍選手ルール】
ベンチ登録12名。外国籍選手は保有も登録も2名でオンザコート1。「アジア枠」は外国籍選手としてカウントされない

【KBL視聴方法】
今季のKBLはYouTube の「KBLTV」と「SPOTV」で生中継される予定
◆KBL TV
https://www.youtube.com/user/onkbl/

◆SPOTV
https://www.youtube.com/user/spotv

文=小永吉陽子

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