2023.06.07

成長の功労者…ドラ1候補ウェンバンヤマのトレーナーが健康とフィジカル強化の秘訣を語る

223センチ95キロと、身長の割に細身なビクター・ウェンバンヤマ [写真]=Getty Images

 ドラフト史上最高峰の逸材と評されるフランスのビクター・ウェンバンヤマ(メトロポリタンズ92)は、長身センターの常識を覆すスキルセットを兼ね備える一方、体の線の細さが不安視されている。毎試合、屈強なビッグマンと対峙しながら過密スケジュールを消化するためには、周到に強化されたフィジカルと回復のプロセスが必要不可欠となる。

 しかし、ウェンバンヤマがこれほどまでに飛躍的に評価を高めた背景に、彼のフィジカルトレーナーの存在があることはあまり知られていない。

『ESPN』がスポットライトを当てたトレーナーの名前は、ギヨーム・アルキエ氏。ウェンバンヤマはアスヴェル・バスケットに所属していた昨シーズン、8週間の離脱を含む背中のケガや、右肩の問題、指の骨折により、国内リーグでわずか16試合、1試合平均18.4分のプレーにとどまった。だが、アルキエ氏をパートナーに迎えた2022年9月以降は、1試合も欠場することなく、リーグ戦では同32.1分のプレー時間を確保した。

 フランス南西部で育った30歳のアルキエ氏は、2015年に地元クラブのEBポー・オルテズでトレーナーキャリアをスタートさせた。ユースアカデミーやラグビーチームでの経験を経てフランスリーグのLNBまで上り詰め、ポー大学ではスポーツおよびコンディショニングの修士号を取得。前所属球団やトニー・パーカー(元サンアントニオ・スパーズほか)氏主催のアカデミーキャンプで地元の有望選手たちと密接な関係を築き、関係各者からも厚い信頼を置かれていた。しかし、オルテズが財政難で3部降格の危機に直面。その状況下でアルキエ氏に声を掛けたのが、ウェンバンヤマの代理人を務めるブーナ・ンジャイ氏だったという。

 アルキエ氏とウェンバンヤマによるパートナーシップは、ウェンバンヤマの身体経歴や、これまでのコーチ、医師、専門との行動、そして目標設定などを振り返る3時間の座談会から始まった。アルキエ氏は、ウェンバンヤマとのファーストコンタクトについて、「初めて会った瞬間から、彼が自分のプロジェクトに非常に積極的であることが伝わってきました」と語った。

 アルキエ氏の哲学は、ウェンバンヤマを柔軟に保つだけでなく、自然な動きを維持しながら、調整に細心の注意を払い、体を活性化させることに焦点を当てている。ウェンバンヤマが長時間ベンチに座る際、ベンチ横でスクワットやジャンプなどのエクササイズを行い、体を動かし続けるのも、こうした考えに由来するものだという。

 ウェンバンヤマは定期的にウエイトトレーニングを実施しているが、重要なのは時間を掛けて筋力をつけることであり、大幅な増量ではない。特に、彼の体格は未だ自然に発達している段階にあり、アルキエ氏も筋肉増力を目的としていないという。

NBAに適応するため強化を進めているという [写真]=Getty Images

「彼は少しずつ体重を増やしていますが、それは毎月、5キロから10キロというペースではありません。もし、大幅な体重増を敢行すると、彼の運動制御や膝、関節に負担をかける可能性があります。我々はできる限り最善の方法で、彼のフィジカルを構築しようと努めています」

 アルキエ氏は、弱点を改善するためのエクササイズを調整しながら、セット間に視覚と肉体の協調を鍛える総合的なプログラムなど、ユニークなセッティングを組むが、フィジカルトレーニングを素足で行うことも特徴の一つに挙げられる。これにより、ウェンバンヤマの足を強化し、着地とジャンプの両方で安定性を向上させることができるという。

「足が強ければ、通常、関連するものすべても強くなります。床に着地する時にはまず、足が地面に触れます。足が強くなければ、着地にリスクが伴い、その後にパワーを放出することも困難です。最も重要なのは、バスケットボールをプレーするために、足の力を向上させることです。インサイドでプレーするため、ディフェンスをするため、ポストアップをするため、これらのすべてにおいて、足の力を発揮する必要があります。その後、コアの活性化があり、最後に予防の対策を講じるのです。シーズンをとおして健康でいるために、最善の方法を取るよう心掛けています」

 ウェンバンヤマの試練は、NBAの過密スケジュールに対応するところから始まる。そして、指名球団は史上最もユニークな才能を育成するという重要な任務が課せられることになる。

 そのような環境において、長期的な健康と適切な成長は最重要課題であることから、ウェンバンヤマの体に精通し、コンディション維持でも成功を収めているアルキエ氏が何らかの形でNBA入りをする可能性もあるだろう。

 インタビューの最後に、アルキエ氏はフランスが生んだ逸材の勤勉さを讃え、フィジカル向上の準備ができていることを強調した。

「彼(ウェンバンヤマ)は成長したいと思っています。本当に集中していて、我々がやっているすべてを理解しようとしているのです。なぜそれを行う必要があるのかを知り、理解すれば、間違いなく、より積極的にトレーニングに取り組むことができるのです」

文=Meiji

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