6時間前

ウインターカップを経験した洪有純と大角地黎が韓国の地で新たな挑戦

原点はウインターカップとも言える洪有純(左)と大角地黎 [写真]=WKBL
フリーライター

新人の新記録を打ち立てた期待のルーキー・洪有純

インサイドの主力として活躍し、ルーキー記録も打ち立てた洪有純 [写真]=WKBL


 12月16日、韓国のWKBL(Women’s Korean Basketball League)で新しい記録が生まれた。それは新人選手として初となる4試合連続ダブルダブル達成というもの。その記録を打ち立てたのが新韓銀行S-birdsの洪有純(ホン・ユスン)だ。

 今年の新人ドラフトで1位指名を受けた洪は、大阪生まれの大阪育ち。両親が韓国人で自身も韓国籍を持つ。残念ながら今回は出場できなかったが優勝経験を持つ地元の大阪桐蔭高校出身であり、当時は全国大会も経験した。

「高校3年生ぐらいから(WKBL)に行きたいなと思っていました」という洪は、「こういう道もあるというのを知り、国籍を変えたくないというのもあって韓国でプレーしたいと思いました」と、WKBLを選んだ理由を語る。

 そのため、高校卒業後の進路は、いずれWKBLに挑戦することを伝えた上で関西女子学生連盟1部リーグに属する大阪産業大学に進学。大学入学後はバスケット部で活動をしていたが、韓国の知人から大学卒業後よりも今年ドラフトにエントリーすることがベストではないかとアドバイスを受け、ギリギリまで悩みはしたが19歳というタイミングで海を渡る決断をした。

 迎えたプロ1年目のシーズン。洪は開幕戦から出場を果たしたが、序盤は「普段はAチームの練習に入れてもらっているのですが、試合だと緊張などでいつものプレーができてなくて。それでプレータイムをもらえないことがあるので、気持ちの部分からしっかりしたいです」と、出場時間も10分を満たない試合も多かった。しかし、12月に入ると存在を大きくしていき、12月5日のハナ銀行戦での14得点10リバウンドを皮切りに、4試合連続で得点とリバウンドのダブルダブルをマークしたのだ。この4試合のうち3試合で勝ちを収めており、洪の活躍が勝利に結びついているともいえるだろう。

「リバウンドなどを最後まであきらめないというのは、ここ(WKBL)でも生かせると思います」と言うように、飛び込みリバウンドや何度も跳んでボールを奪い取るなど、ボールへの執着心には目を見張るものがあり、ほかにも足を使ったディフェンスやルーズボールでも冴えを見せる。それは「高校で学んだことが一番の土台」と、洪自身が言うように、「ディフェンスでも粘り強く最後まであきらめない、シュートが入らなくてもリバウンドなど細かいところをまで頑張ること」といった大阪桐蔭高校で培ったものが大きい。

 アジアクォーター制度で加入したチームメートの谷村里佳からは自ら聞きに行って教えてもらうことも多いそうで、加えて「見て学ぶことも多いです」という。また、開幕戦でマッチアップした韓国女子バスケット界の顔でもあるキム・ダンビ(ウリ銀行ウリウォン)には刺激を受けたようで、「どこからでも攻めることができるし、体が強かったので、私ももっと鍛えないといけないと思いました」と、目を輝かせた。

 179センチで走力を持ち合わせるオールラウンダーは、「走れる、韓国にはいないようなスタイルの選手になりたいです」と、今後に向けての思いを語った。

スピードが自慢の大角地黎はチームで生かせる武器を模索中

次第にレベルアップし、出場チャンスを獲得している大角地黎 [写真]=WKBL


 もう一人、洪と同じ新人ドラフトでWKBL入りを果たしたのがKBスターズ(8位指名)の大角地黎(おおかくち・れいり)※だ。新人ドラフトは韓国籍選手が対象だが、両親、祖父母のどちらかが(過去ないし現在で)韓国籍を保有していればエントリーできるため、韓国人の母を持つ大角地は韓国バスケットの世界へと足を踏み入れた。
WKBLでの登録名はイ・ヨミョンだが、ここでは大角地で表記する

 大角地は、今大会も優勝候補の一角である岐阜女子高校(岐阜県)の出身。高校3年生の冬にはスターターとして決勝の舞台に立ち、桜花学園高校(愛知県)に競り負けはしたものの40分間フル出場。準決勝では24得点を挙げるなど銀メダル獲得に大きく貢献した。

 高校卒業後は松蔭大学に進んだが、途中でバスケットから離れることに。しかし、バスケットへの未練が残っていたころ、「たまたまウインターカップでの私のプレーを見て、私がハーフだということを知った韓国の方が連絡をくれた」と、新人ドラフトにエントリーできる資格があることを知る。それから自身でもWKBLについて調べ、「これは私にしかできないこと、ほかの選手にはない特別な機会」と感じ、挑戦に踏み切った。大学4年次には大学の交換留学生として1年間、語学習得にも励み、WKBL入りに向けた準備を進めていった。

「日本と韓国との違いで感じるのは、韓国はパワープレーというか、フィジカルがすごく強いこと。逆に日本のようなスピードバスケットはそこまで見られないなと感じるので、スピードゲームに持っていけるように、そこから良い流れを作っていけるようなプレーをしていきたいなと思っています」と、抱負を語る。

 ケガなども含めて約3年間のブランクがあることから、シーズンの開幕当初はベンチを温めていたが、中盤からは徐々にコートに立つことも増え、12月13日時点で5試合に出場。また、12月17日〜20日の期間で行われたフューチャーズリーグ(若手選手が対象)では全3試合に出場し、優勝を経験した。

 KBにはアジアクォーター制度で永田萌絵、志田萌の2人がいるが、「上手で日本語も通じる先輩が2人もいるし、(志田)萌ちゃんはガードで同じポジション。日本のプロでもやっていたし、アメリカの経験(大学でプレー)もあるので、そういう技術的なことも同じのコートで見られるのは、すごく刺激をもらいます」と、言う。

 今はまだ自身の強みについて「研究中」という大角地。「今のチームカラーで自分が生かせることが何かをまだ発見できてないと思うので、それを少しずつ見付けていけたらいいなと思います」と、そこに焦りはない。高校時代、3年生の夏はバックアップメンバーだったが、努力を重ねて冬にスターターの座を射止めた。今もまた、あの時と変わらず、大角地はチームの勝利のため、そして自身のレベルアップのために研鑽を磨いているところだ。

 12月23日より、日本では高校バスケット界の総決算となるウインターカップが始まる。洪も大角地も経験した舞台だ。自身の渡韓のキッカケともなったウインターカップについて大角地は「将来の土台となるようなところだと思うので、頑張ってほしいです」と、後輩たちにエールを送った。

 WKBLの世界で奮闘する洪と大角地。“日本バスケット”で育った2つの才能は、新天地で新たな花を咲かせようとしている。

文=田島早苗