2020.07.09
今から約1年前の2019年6月21日(現地時間20日、日付は以下同)は、NBAドラフトが開催された日であり、日本の至宝、八村塁がワシントン・ウィザーズから1巡目9位で指名された記念すべき1日だった。
明成高校(宮城県)でウインターカップ3連覇を達成し、NCAAトーナメントの常連校、ゴンザガ大学でベンチプレーヤーからエースへと成長を遂げた八村はこの日、日本人史上初の快挙を成し遂げた。
サマーリーグ、トレーニングキャンプ、プレシーズンゲームを経て、ウィザーズで先発パワーフォワードの座を実力で勝ち取った八村は、ここまで41試合に出場して平均29.7分13.4得点6.0リバウンド1.7アシストにフィールドゴール成功率47.8パーセント、フリースロー成功率82.9パーセントを記録。昨年12月中旬に鼠径部を痛めたことで約1か月半の戦線離脱を余儀なくされたとはいえ、NBAのルーキーとして存在感を示していると言っていい。
ここからは、6月21日に地元メディア『NBC Sports Washington』へ掲載された、チェイス・ヒューズ記者による“ワシントン・ウィザーズの八村塁から我々がこれまでに学んだこと”について紹介していきたい。
■見落とされている好選手を見つけたウィザーズ
毎年、NBAドラフトは複数のメディアで予想が展開されているのだが、必ずしも正しいものではない。多くのファンから見れば、八村の指名順位は高すぎるという印象であることは否めない。デューク大学のキャメロン・レディッシュ(1巡目10位指名/アトランタ・ホークス)を指名してほしかったと主張したファンもおり、八村は1巡目20位あたりの指名が妥当だと思われていた。
だがウィザーズのフロント陣は、ワンアンドダン(大学1年次終了後にアーリーエントリーする選手)をしていない、見落とされている好選手を見つけ出した。八村が最終的にスターになるかどうかは今後の展開を楽しみに待とう。だがドラフトの時点で、彼の指名はファンが理解できるものではなかったのである。
それでも、レディッシュはオールスター後の10試合で平均16.4得点をマークしたものの、シーズン平均(26.7分10.5得点3.7リバウンド1.5アシスト)ではいずれも八村が上回る結果となっている。
■ウィザーズの新人としてウォール、ビールに次ぐ好記録
おそらく、ここまでの八村に関して最も周囲を驚かせているのは彼が持つ安定性ではないだろうか。出場した41試合のうち、実に30試合で2ケタ得点を残している。2004年以降で見てみると、ウィザーズのルーキーとしてはジョン・ウォール(60試合)、ブラッドリー・ビール(39試合)という2枚看板に次ぐ好記録だからだ。
ただし、今後もっと安定性を高めてほしいのは試合の後半。特に第4クォーターはここまで平均1.9得点、フィールドゴール成功率32.7パーセントにとどまっている。
■いまだ定まっていないポジション
203センチ104キロの八村は、スモールフォワード(SF)とパワーフォワード(PF)を交互にこなしている。ウィザーズにケガ人が続出した時期はセンターも務めたように、ポジションレスバスケットボールという現代NBAにおいて、八村は完璧にフィットする。
だがその一方で、ウィザーズは八村と共にプレーできるフォワードを探し求めている。PFでプレーさせるために有能な3ポイントシューターを必要としているのか? それともSFでプレーすべく、リムプロテクター兼リバウンダータイプの選手が必要なのか? それについては、八村が攻防両面において自身のゲームを確立させるまで、興味深い疑問になるだろう。
八村は今季、シューターのダービス・ベルターンス、ディフェンダーのイサック・ボンガ、スラッシャーのトロイ・ブラウンJr.らとフォワードとしてプレーしてきたが、試合中にスイッチすることで両フォワード、あるいはセンターをこなしてきた。今後ウィザーズが八村をどのように育成していくのかは楽しみだ。
■3ポイントは要改善
八村の弱点として挙がるのは、3ポイントシュート。ゴンザガ大学3年次は成功率が41.7パーセントだったものの、試投数は平均約1本に過ぎず、多投するタイプの選手ではなかった。だがドラフト指名されてから、着実に向上していることが分かる。
今季は平均1.8本放って成功率は27.4パーセント。大学では1試合で3本決めたことはなかったものの、昨年10月31日に行われたヒューストン・ロケッツ戦では3本全てを成功。さらに、オールスター後は38.9パーセントまで成功率を上げていることから、今後もシュートレンジを広げて精度を高めることで、オフボールでもより効果的な活躍ができるだろう。
■ディフェンス向上にも期待
ほとんどのルーキーと同様に、八村もディフェンスに苦しんでいる。その理由の1つとして挙がるのは経験不足という点。1対1の状況だけならまだしも、チームディフェンスやスイッチした時の守り方も強化する必要がある。彼はPFの中で背が低い方であり、多くのSFと比べると決して機敏な部類には入らないからだ。
もっとも、これから先、身体が成熟し、経験を積んでいくにつれて相手の特徴や癖を学ぶことでディフェンスは向上することだろう。現時点で、八村のディフェンシブ・レーティング(100回のポゼッションにおける失点)はチームワーストの117.8。これはチームとしてもリーグワーストの115.8を記録している点、そしてチーム2位の平均29.7分という長い時間帯でコートに立っていることも影響しているのかもしれない。
とはいえ、八村は持ち前の身体能力の高さを活かしてペイントエリア内でカバーに入ったり、ウィークサイドのヘルプに入ったりとコート上を動き回って奮戦している。だが残念なことに、結果として自身のマークマンに得点を許している部分もあるため、数字としてはあまり良くないものが残っているのだろう。カワイ・レナード(ロサンゼルス・クリッパーズ)と長い間比較されるのであれば、オフェンス面だけでなくディフェンス面においてもさらなる成長を期待したい。
現在、24勝40敗でイースタン・カンファレンス9位のウィザーズは、プレーオフ出場圏内にいる7位のブルックリン・ネッツ、8位のオーランド・マジックと6.0ゲーム差にあり、7月31日から再開されるレギュラーシーズン8試合で大きく勝ち越すことができれば、プレーオフへ出場できる可能性が残されている。
昨年のドラフト前日に行われた会見で「チームの中で役割を与えられると思うので、それにすぐ対応できるような選手になりたいと思います。そしてチームに貢献したいと思います。どのチームに行くのかわかりませんが、プレーオフに出てプレーしたいと思っています」と話していた八村。
安定性のあるルーキーとしてチームに貢献してきた八村が、ルーキーシーズンからプレーオフという大舞台でプレーできるチャンスは残されている。今季の“第二幕”でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。楽しみに待ちたいところだ。
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