2024.03.18

小川麻斗「ジョンさんが求めているのは…」千葉J圧勝劇で示した飛躍の兆し

2冠達成の千葉Jで存在感を示している小川麻斗[写真]=伊藤大允
フリーのスポーツ専門編集者&ライター

 3月16日、さいたまスーパーアリーナで行われた「第99回天皇杯 全日本バスケットボール選手権大会」決勝は、千葉ジェッツが117-69でライバルの琉球ゴールデンキングス相手に歴史的圧勝劇で天皇杯2連覇、通算5度目の優勝を果たした。

 Bリーグを代表するビッグチーム同士の頂上決戦ゆえ、48点差をつけての千葉Jの「爆勝」を予想した者はほぼ皆無だっただろう。「(試合の)どこをどうしていれば(違う結果になった)、というレベルの話ではなかった」と琉球のエース、岸本隆一が諦観するほど千葉Jのバスケットボールは攻守両面で非の打ちどころがない領域で展開されていた。

 その要因は、MVPに輝いた富樫勇樹の力だけではない。富樫がシーズンを通して求め続けきたチーム全員によるバスケットボールを、ほぼ100パーセント実践できたからにほかならない。

 そしてその象徴的な存在のひとりとして挙げられるのが22歳のポイントガード、小川麻斗だった。

■ 会見で思わず出た言葉

ベンチスタートから20分出場し、14得点3アシストを記録した小川麻斗[写真]=伊藤大允


 ついに、吹っ切れたのかもしれない。ワンサイドの展開になったとはいえ、この試合、小川はBリーグの公式戦含めて今シーズン自身最多の6本の3ポイントを放ち、富樫に次ぐ4本成功、計14得点をマークした。

 印象的だったのは、第3クォーター最後の攻撃。すでに勝敗は決していたが、コート上にいる千葉Jの5人は自分の役割に徹し続けるなか、左コーナーで待機していた小川は、西村文男からのパスを受けると、迷うことなく3ポイントを放つ。ボールがネットを抜けたのを確認すると雄叫びをあげて喜びを爆発させた。

 会見で優勝の喜びについて感想を求められた小川は、思わず「大学(のバスケ部)を辞めて、良かったぁ」と発した。同席したチームメイトも思わず吹き出したが、本人の意図は日体大が嫌だったわけではもちろんない(むしろ貴重な時間だった)。その言葉は、プロ選手としてジェッツと契約してからの約1年間、抱き続けてきた葛藤、その反動の大きさの表れではないだろうか。

■ 「僕がアメリカで体感したことでもあるし…」

若手選手たちの成長に期待を寄せる富樫。琉球戦では小川とともに流れを呼び込んだ[写真]=伊藤大允


 大黒柱の富樫は、シーズンを通して「若手の台頭」をチームがステップアップするためのポイントとして挙げ続けてきたが、それは、主に小川と20歳の金近廉のふたりに向けたメッセージでもあった。

 シーズン序盤、千葉JはBリーグ公式戦のみならず、並行して東アジアスーパーリーグ(EASL)が組み込まれる過密日程のなか、主力の戦線離脱に加え、若手の台頭が思うように進まず苦戦が続いていた。そのころ、富樫はプロとして、ふたりへの強い要求を会見の場で口にしていたことがあった。

「僕が海外でプレーした経験も含めて思うのは、やっぱり信頼という部分。僕がパスを出すのはその選手に対して信頼がないと出せないわけで、単にノーマークだからパスを出すということではない。それは僕がアメリカで体感したことでもあるし、(小川)麻斗にしても(金近)廉にしても、そういう信頼を(自分に)見せられるようにしなければ」

EASLに続き天皇杯も制した千葉J[写真]=伊藤大允

 それは2024年に入り、チーム状態が良化し始めてからも続いてきた。

 小川自身が富樫との直接的なやり取りを明かしたわけではないが、同様のことをジョン・パトリックヘッドコーチから求められ、試行錯誤しながら答えを探し求めてきた。リーグ戦とトーナメント戦の天皇杯の違いはあるものの、琉球に敗れた昨シーズンのBリーグファイナル2試合では9本のシュートを1本も決められず、無得点に終わった悔しさも忘れてはいなかった。天皇杯の決勝、小川は自らのパフォーマンスで本当の意味での自信をつかんでみせたのである。

「(シーズンの)最初の方は、勇樹さんを見たりパスの意識が強かったんですけど、自分から得点を取りに行くことを意識してプレーするようにしてきました。ジョンさんが求めているのは、ディフェンスとリングへアタックすること。守備では相手の嫌がること、攻撃ならリングに向かう姿勢、ノーマークなら打っていく。それができればプレータイムが増えることがわかった。この1年間、シュートが決まらず、メンタル的に消極的なシュートになったこともありましたけど、シューティングもたくさんやってきたし、こうやって天皇杯で決めきれたので良かったです」

 もともとは得点力を備えている選手。チームの柱は日本トップのポイントガード。その選手が「打て」と言うなら打てばいい――そんな気持ちがさらに芽生えてくれば、小川はまた一つ上のステージで、新たな自分を見出せるはずだ。

取材・文=牧野豊

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