2024.03.14

「TOGASHI」に沸いたセブ島…日本勢が初制覇したEASLの現在と未来【井口基史の現地レポート前編】

EASLで無敗優勝を果たした千葉ジェッツ[写真]=EASL
バスケットボールコメンテーター

■ Bリーグ勢初のEASL制覇

 コロナ禍の制限が解かれ、初めてホーム&アウェー方式となった2023-24シーズンの東アジアスーパーリーグEASL)で王者に輝いたのは、日本のBリーグ・千葉ジェッツ。なんとグループラウンドから土つかずの「undefeated(無敗)」の優勝で、アジア全体からリスペクトされる存在になりました。

 フィリピンのセブ島で行われたファイナル4の前日記者会見には、移動中の千葉Jが不在だったものの、各選手が口々に「TOGASHI」「トガシ」「とがし」。大会を通じて千葉Jと富樫勇輝が“危険な存在”であると、アジアに知れ渡ったことがうかがえました。

左からオ ジェヒョン(ソウルSK)、レンツ・アバンド(安養正官庄)、ジョセフ・リン(新北)[写真]=EASL

■ 本丸中の富樫からアジアのTOGASHIへ

 全チームから警戒され、ほぼ全試合で相手ベストディフェンダーにフェイスガードされる。それでもなお、スコアしてくる日本のエースが大会MVPに選出されました。試合終了直前には、日本ではなかなか見られない会場全体からの「MVP!MVP!」チャントが起きるなど、本丸中の富樫からアジアのTOGASHIになった瞬間が見られました。

 もちろんその背景には、選手たちが称えたように“朝日町のデマーカス・カズンズ”こと荒尾岳のインサイドでの貢献をはじめ、すべての選手がアジア最強にふさわしい仕事を見せたことを忘れてはいけません。また、原修太はセブ島開催のEASLファイナル4に辿り着けなかった琉球ゴールデンキングスにも言及。「琉球の分まで」と、Bリーグ勢で挑んだ戦いだったことを再認識させてくれました。

EASLファイナル4 試合結果】

・2024年3月8日(金)
<準決勝>
千葉ジェッツ 92-84 新北キングス
ソウルSKナイツ 94-79 安養正官庄レッドブースター

・2024年3月10日(日)
<3位決定戦>
安養正官庄レッドブースター 78-76 新北キングス

<決勝>
千葉ジェッツ 72-69 ソウルSKナイツ

現地ファンから「MVP」コールを受けた富樫勇樹[写真]=井口基史

■ Bリーグと「賞金」を比較すると…

 彼らがモノにした賞金もアジア最強だ!前回の2022-23大会は、新型コロナウイルスの影響を受け、ホーム&アウェー方式ではなく、宇都宮と沖縄のみの集中開催と縮小。賞金額も変更されていました。今回は正真正銘の優勝賞金100万ドルとなり、その大会規模の大きさがわかります。

【2023-24大会の賞金】
・優勝 100万USドル(約1億4700万円)
千葉ジェッツ

・準優勝 50万USドル(約7350万円)
ソウルSKナイツ

・3位 25万USドル(約3675万円)
安養正官庄レッドブースター

※レートはファイナル時点:1ドル=147円計算

【2022-23大会の賞金】
・優勝 25万USドル(約3400万円)
安養正官庄レッドブースター

・準優勝 10万USドル(約1360万円)
ソウルSKナイツ

・3位 5万USドル(約680万円)
ベイエリアドラゴンズ

※レートはファイナル時点:1ドル=136円計算

【国内の賞金】
・B1年間優勝 5000万円
・B1年間準優勝 2000万円
・B1年間ベスト4 750万円
・B1チャンピオンシップ出場 500万円
・B1カンファレンス優勝 1000万円
・天皇杯優勝 3000万円

■ 各国の強豪が参戦

 東アジア最強を決める大会の名の通り、日本からは昨年のファイナルチームである琉球(1位)、千葉J(2位)が出場。各国も国内1位、2位が出場していますが、フィリピンだけは事情が違いました。

 年間を通してリーグ戦を行うのではなく、3つのカップ戦でそれぞれ優勝チームを決める構造のため、一番権威のあるフィリピンカップ(外国籍選手出場不可)の上位2チームがEASLに出場することに。しかし、今回は優勝したサンミゲル・ビアメンが未発表の事情により不出場。同準優勝のTNTトロパンギガと、同ベスト4のメラルコボルツが参戦しました。

 また、フィリピン勢にとっては自国開催のファイナル4でしたが、いずれもグループラウンドで敗退してしまうという、バスケ大国としては悲しい事態に。バスケ大好きワンマンオーナーが多いリーグのため、EASLのコントロールが効かない苦労もみられます。

【出場チーム一覧】
・日本 Bリーグ
琉球ゴールデンキングス(1位)
千葉ジェッツ(2位)

・韓国 KBL
安養正官庄レッドブースター(1位)
ソウルSKナイツ(2位)

・台湾 PLG
台北富邦ブレーブス(1位)
新北キングス(2位)

・フィリピン PBA
TNTトロパンギガ(2位)
メラルコボルツ(ベスト4)

過密日程のなか国際大会を勝ち抜いた千葉ジェッツ[写真]=EASL

■ 過密日程は今後の課題

 国をまたいで移動をしながらリーグ戦、EASL、天皇杯と3大会を並行して戦うタフスケジュールの影響が話題になりました。

 最大試合数かつ連戦があるのは日本のみと、コンディションでは日本勢が一番厳しい環境だったことは事実ですが、5日間で3試合という逆境を跳ね返し、アジア最強を日本にもたらした千葉Jには本当に頭が下がる思いです。

 それと同時に、優勝したことで見落としてはいけないのは、今後のタフスケジュール回避について。関係者への取材によると、千葉Jは選手負担軽減のため、水曜ゲームを別の週に動かせないか。EASLに向けては移動日直後の試合を避け、土日開催の可能性を申し出ていたそうです。

 アリーナ整備が進み会場確保がしやすくなれば、今後は解消されるとはいえ、選手を守るためのスケジュール調整も、彼らの名誉のためにも覚えておきたい課題でした。

EASLファイナル4へのスケジュール】
3月6日(水)B1第25節:千葉-群馬
3月7日(木)フィリピン・セブ島へ移動
3月8日(金)EASLセミファイナル
3月9日(土)クッション日
3月10日(日)EASLファイナル

【各国の主な試合数】
BLG 60試合+プレーオフ+カップ戦
KBL 54試合+プレーオフ+カップ戦
PLG 33試合+プレーオフ
PBA 30試合+プレーオフ
NBA 82試合+プレーオフ+カップ戦決勝

 EASL現地レポートの後編では、日本にゆかりのある選手・コーチのコメントや、来シーズンのEASLの展望について紹介します。

取材・文=井口基史

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