2022.09.29

【JBA審判グループに聞く!(後編) 】注目!「ヘッドコーチチャレンジ」と「世界で活躍する日本人レフェリー」

[写真]=B.LEAGUE
バスケットボールコメンテーター

開幕前の恒例インタビューJBA審判グループに聞く!このインタビューは新ルールやJBA審判グループの取り組みについて紹介し、リスペクト文化醸成のためにスタートした企画の第3回。今回は新シーズンに向けて「新シーズンのFIBAルールについて知っておくべきポイント」について解説していただきます!
※各項⽬の映像・URL・文章は新シーズンへのルールの理解を深めていただく⽬的で使⽤しています。本インタビューで紹介している事象、選⼿、審判を批判や評価する⽬的のものではありません。


取材・文=井口基史

取材協力

上田篤拓(日本バスケットボール協会 審判グループ シニア・テクニカル・エキスパート)
静岡県出身。bjリーグのプロレフェリー時代にはNBAレフェリーを目指し、日本人としては初となるNBAサマーリーグにてレフェリングを経験した。現在はJBA審判グループ シニア・テクニカル・エキスパートと国際バスケットボール連盟(FIBA)レフェリーインストラクターを務める。

高森英樹(日本バスケットボール協会 審判グループ アシスタントマネージャー)
神奈川県出身。新潟アルビレックスBBにて通訳~強化部まで13シーズンに渡り従事。現在はプロチーム所属経験を活かし、JBA審判グループにて審判派遣、研修などの運営を担当し、コートの外から全カテゴリーのバスケットボールを支える。

ヘッドコーチチャレンジ(HCC)とは?

――新シーズンでファン・ブースターから注目が集まるのがFIBAの新ルール「ヘッドコーチチャレンジ(HCC)」だと思いますが、解説をお願いします。

高森 ヘッドコーチチャレンジ(HCC)導入の趣旨は、映像を使用することでより正確な判定を求め、レフェリーだけでなく違う角度から試合を見ているヘッドコーチからもインスタントリプレーシステム(IRS)の使用をリクエストできるようにすることで納得感を高め、ゲームをより魅力的にするということです。決してレフェリーが下した判定の誤審を見つけ出すというものではありません。

 B2B3WリーグはIRSがありませんが、むしろIRS環境がないゲームの方が、高いプレッシャーを受けているとも言えます。レフェリーの粗探しのために映像を使うわけではありませんので、バスケットボールの技術が向上し、映像でなければ確認できないような難しい判定をレフェリーがリアルタイムで行っている事を理解していただければと思います。

上田 FIBA(国際バスケットボール連盟)が新採用するヘッドコーチチャレンジ(HCC)をトップリーグで直ちに適用し、国際試合に順応するためにいち早く導入します。下記が主な詳細ルールになります。

●詳細ルール
・適用はB1のみ(IRS使用環境があるのはB1のみのため)

・各チームのヘッドコーチは1度だけHCCを実施することができる

・IRSレビューは、HCC対象の状況が起きたあと、ヘッドコーチがHCCを審判員にジェスチャーと声で請求し、その後いずれかの理由で審判がゲームを止めたとき速やかに行われる。

・HCCはあらゆる時間帯で請求することができる

・HCCの対象となる主な状況(審判員によってIRSを使用する対象となる状況と同じ)
1)成功したフィールドゴールのショットでカウントされる得点が2点か3点か。
2)成功しなかったフィールドゴールのシューターがファウルをされた場合、与えられるフリースローが2本か3本か。
3)パーソナルファウル、アンスポーツマンライクファウル、ディスクォリファイングファウルがそれぞれの判定基準を満たしているかどうか。あるいはアップグレードまたはダウングレードされるか、テクニカルファウルとみなされるかどうか。
4)ゲームクロックもしくはショットクロックの誤操作が起こった場合、正しく修正されたあとにそれぞれのクロックに表示される時間はどれだけか。
5)正しいフリースローシューターの特定。
6)あらゆる暴力行為の間のチームメンバー、ヘッドコーチ、ファーストアシスタントコーチ、チーム関係者の関与の特定。

上田 映像を使う目的はより良いゲームを提供するため、精度上げるためのものです。ファンの皆さんにも「審判が間違ってた! HCが合っていた!」という議論ではない事を前提に楽しんでいただければと思います。またFIBAとしても新しい取り組みですので、世界中で運用していく中で想定していなかったケースが起きることもあるかもしれません。随時より良くするためのアップデートが行われると思いますので、FIBAのルール改正についてファンの皆さんにも興味を持っていただきたいです。

――他競技にあるチャレンジ成功すると、持ち越しなどはFIBAルールにはなく、各チーム1回ずつ認められたチャレンジということですね。しびれる試合や判定の機会が増え、バスケの魅力が増してほしい!

その他のインスタントリプレイシステム(IRS)の追加運用

[写真]=B.LEAGUE


上田 IRSについてもルール変更があり、主なものは下記のとおりです。

●2点か3点かの確認
 これまでは成功したショットが2点か3点かのIRSによる確認は、次にゲームが止まった時点で行っていましたが、疑いがある場合はショットが成功した時点で、レフェリーが自発的にIRSをできることになりました(HCCがあったかどうかに限らない)。

●暴力行為の可能性があった場合について
 あまり多く起きるケースではありませんが、暴力行為があったと思われるシーンについては、その時点でファウルをコールしていなかったとしても、その後にレフェリーがゲームを止めてIRSで確認ができるようになった点もポイントです。

 プレーを遡って判定するため、暴力行為があったと思われるシーンのあとに起きた事象について、例えば得点などすべての起きたことは有効となります。処置としてはIRSでの検証の結果、コールされていなかった事象がアンスポーツマンライクファウルであれば2ショットなどの罰則を、ボールポゼッションを除いて起きた順番で行い、ゲームを止めた時点からゲームの再開となります。

――なるほど。後半タイムアウト3回ずつ。オフィシャルタイムアウト1回。両チームがHCCを使用した場合は最大14回ゲームが止まることになり、ゲームが変化するきっかけになりそうです。

世界で活躍する日本人レフェリーたち

――この夏の期間は世界大会でも日本人レフェリーが活躍している姿をいくつか見ました

上田 新型コロナの影響により、ここ数シーズンは実施がなかった海外派遣も徐々に復活し、世界の舞台でも日本人レフェリーは活躍しています。審判を生業にしているプロフェッショナルレフェリーは加藤、漆間の2名だけですので、特にそのほかのレフェリーの海外派遣には職場やご家族、各都道府県協会のご協力により実現しています。

高森 海外派遣されたレフェリーには帰国後に担当試合のレポートを作成してもらい、全国の登録審判員に共有することで貴重な経験をシェアして全体のレベルアップに努めています。

――選手同様に世界で活躍する日本人レフェリーのニュースをもっと取り上げ、リスペクト文化の醸成に役立てたいですね。

●日本からレフェリーが派遣された国際大会
大会期間/大会/開催国/派遣審判員
6月12〜19日/FIBA U16 Asian Championship/カタール/岩井遥河
6月27日〜7月5日/FIBA World Cup 2023 Qualifiers Window 3/ニュージーランド/加藤誉樹
7月2日〜10日/FIBA U17 Basketball World Cup/スペイン/漆間大吾、上田篤拓
7月6日〜10日/FIBA 3x3 Asia Cup 2022/シンガポール/名越龍男
7月9日〜17日/FIBA U17 Women’s Basketball World Cup/ハンガリー/熊谷久美子
7月12日〜24日/FIBA Asia Cup 2022/インドネシア/加藤誉樹
8月23日〜28日/FIBA 3x3 U18 World Cup 2022/ハンガリー/名越龍男
8月29日/FIBA World Cup 2023 Qualifiers Window 4/フィリピン/加藤誉樹
8月29日/FIBA World Cup 2023 Qualifiers Window 4/インド/漆間大吾
9月5日〜11日/FIBA U18 Women’s Asian Championship 2022/インド/細田知宏
9月22日〜10月1日/FIBA Women’s Basketball World Cup オーストラリア/漆間大吾
※2022年9月15日時点

[写真]=B.LEAGUE


JBA(日本バスケットボール協会)審判グループでは、ルール認知度向上を目指し、アンダーカテゴリーの選手たちに向けた審判ライセンス取得を促す動きにも取り組んでいるとのこと。ルールを知ると競技力向上に役立ち、もっとバスケを楽しめるはず。NBAでは長年選手として活躍したリチャード・ジェファーソンがサマーリーグでレフェリーに挑戦し、色々なミスが起きたが、それだけレフェリーは簡単じゃないとポジティブに報じられた。スポーツくじ導入・HCC運用開始と高いプレッシャーのかかるレフェリー達の環境にもファン・ブースターと共に注視していきたい。

今回解説いただいた点などをまとめた、主な変更点サマリーはコチラ
2022 FIBAルール 主な変更点サマリー20220810 (japanbasketball.jp)

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