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『B MY HERO!』
今春に仙台大学附属明成高校を卒業し、アメリカ留学を発表した山﨑一渉と菅野ブルース。山﨑はNCAA(全米大学体育協会)ディビジョン1(D1)のラドフォード大に進学。菅野はNJCAA(全米短期大学体育協会)のエルスワース・コミュニティカレッジに進学し、短大からNCAAへの編入を目指す。
2人のアメリカ進出までの道のりは険しいものだった。ともに入学当時より留学の意志を持ち、2メートル級のサイズで日本では将来性を期待されている選手だが、アメリカではまったく知られていない無名の存在。そんな選手が、D1チームからフルスカラシップ(全額免除される奨学金)待遇のオファーをもらって進学することは容易なことではなかった。
しかも時はコロナ禍である。この2年はNCAAのリクルートにつながるU16とU18のアジア選手権、U17ワールドカップ等の国際大会に加え、国際的なキャンプが相次いで中止になり、アピールの場を失った。山﨑と菅野は高1のときにNBAグローバルアカデミー・オーストラリアが主催する「デベロップメントキャンプ」の招待を受けて渡豪しているが、当時はまだアピールできるほどの力量には達していなかった。
その後、高3の夏にはU19ワールドカップが開催されて代表選手に選ばれるも、日本はそれまでの実戦不足が響いて最下位と結果は出せず、大会直後のD1オファーには結びつかなかった。それでも、U19代表として世界舞台に立ったことは2人の意識を大きく変えるものとなり、「アメリカで自分の限界にチャレンジしたい」(山﨑)「自分の殻を破りたい」(菅野)という意志のもと、NCAAへのチャレンジを改めて決意したのだ。
その後、2人は附属の仙台大の協力を得て、部活動の傍ら英語の猛勉強を開始。それまでも独自で勉強はしていたものの、アメリカ留学に必要な英語の対策を進めていくことになる。明成バスケ部としても、「アメリカでプレーしたいと入部してくれた選手を育て、責任を持って送り出したい」(佐藤久夫コーチ)との考えのもとで、これまで築き上げた人脈を生かし、様々な人たちの協力を得て売り込みをかけていった。それはU17ワールドカップで注目されて、D1強豪校からオファーが舞い込んだ八村塁(ワシントン・ウィザーズ)のケースとは異なり、日本の高校から独自ルートで切り拓いてNCAAへ送り込むという挑戦でもあった。
正直なことを言えば、留学準備を始めるには遅いスタートだった。しかし、コロナ禍で先行きが不安であり、国際大会が次々に中止になった状況では致し方ないところもあった。また、進学決定までに時間を要した理由はほかにもある。2人の留学の窓口となった明成の高橋陽介アシスタントコーチ(アスレティックトレーナー)は説明する。
「NCAAのコロナ禍の措置として、選手の4年間のエリジビリティ(試合出場資格)のうち、コロナ禍の1年をカウントせず、もう1年プレーができるようになりました。また、数年前からはトランスファー(転校)した直後のレッドシャツ(公式戦の出場不可)が免除されたことにより、今まで以上によりよい環境を求めてのトランスファーが増えています。こうした状況を踏まえると、新入生、それも英語が思うように話せない留学生にはフルスカラシップの枠はなかなか回ってきません。NCAAのシーズンが終わり、上級生の枠が確定するまで待つ必要がありました」
そして5月上旬、明成の寮に残りながら練習と勉強を続けていた2人はNCAAの各大学が定める英語の点数をクリア。山﨑一渉はいくつかオファーをもらった中から「自分のシュート力を評価してくれた」という理由でラドフォード大を選択。菅野は興味を示したD1チームがあったものの、最終的にはオファーに結びつかなかったことから、「1年でD1に送りたい」と熱烈コールを受けたエルスワース・コミュニティカレッジに進むことになった。2人は6月中旬には渡米して新生活をスタートさせているが、すでに菅野はいくつかのショーケースやキャンプに招待されており、NCAA編入に向けて自身をアピールする場を得ている。
山﨑と菅野は「NBA選手を目指す」とそろって目標を口にする。今はそのスタートラインに立ったばかり。2人は「持ち味の3ポイントを生かしながらプレーの幅を広げたい」(山﨑)「1年でD1へ」(菅野)と意気込む中、自分たちと同じように日本の高校からアメリカへの留学を希望する選手たちへ、このようなメッセージを送ってくれた。
「アメリカの大学でプレーするには英語のスコア(TOEFL、Duolingo等)が重要になります。自分と一渉は2年のとき、寮で英語だけで会話をする『英語部屋』を作って勉強をしていたのですが、本気で必死に勉強を始めたのは、U19ワールドカップに出て『アメリカの大学に行く』と決意を固めてからでした。目標のスコアを達成できたときはうれしかったですが、取り掛かるのが遅れていた分、必死に集中して勉強しました。英語のスコアが良ければチャンスは広がるので、早くから英語の勉強をして準備をすることが大事です」(菅野)
「自分はU19ワールドカップに出て最初はフィジカルの強さに驚いてしまいました。でも2、3試合やると慣れてきて、自分に足りないフィジカルの強さとか、チャレンジすることの大切さを学びました。自分はU19代表でそのことを気づけたので、日本では経験できないレベルのバスケが海外にあるということを、中高生のうちから知っておくことは大事だと思います。試合でもキャンプでも、早くから海外の選手と対戦する場があれば、ぜひチャレンジしてほしい」(山﨑)
取材・文・写真=小永吉陽子