2018.11.29

【W杯予選スカウティングレポート】若返った新体制で臨む『中東のクセ者』カタール。果たしてその戦力は?

チームを一新して日本戦に臨むカタール(写真はアジア競技大会から) [写真]=小永吉陽子
スポーツライター

「FIBAワールドカップ2019 アジア2次予選Window5」で男子日本代表が11月30日に対戦するカタール。チームはすでに現地入りし、試合会場となる富山市総合体育館で汗を流した。このカタール、Window5を前にヘッドコーチが更迭されるなど、チームを一新して日本戦に臨んでくるという。日本代表のフリオ・ラマスヘッドコーチも「試合が始まってみないと分からないことが多い」と警戒の色を強める。そのカタールの最新情報を小永吉陽子氏のスカウティングレポートでお伝えしよう。

文・写真=小永吉陽子

8月アジア競技大会では勝利した相手だが、チームが一新

 11月30日、Window5で初対戦となるのが、Fグループ最下位(2勝6敗)のカタールだ。8月のアジア競技大会では82-71で勝利している相手であり、日本にとって忘れられないカタールとの対戦は2015年アジア選手権(現:アジアカップ)の準々決勝。81-67で快勝したことにより、日本は20年ぶりとなる4強入りを果たすとともに、リオ五輪行きをかけた世界最終予選の切符を手にしたのだ。

 ただ、それ以前は相性が悪く、2013年のアジア選手権では74-75、2014年のアジア競技大会では71-72と、どちらも1点差で敗れている。身体能力が高い帰化選手の1対1を中心に、時折コントロールしてくるスタイルの前になかなか走らせてもらえなかったのだ。2015年は日本が仕掛けたゾーンディフェンスが成功し、先手を取って走ることができた。今回もトランジションゲームで主導権をつかみたい。

8月にインドネシアで行われたアジア競技大会からもチーム構成が変わったカタール [写真]=小永吉陽子


 Window5でのカタールについては、フリオ・ラマスヘッドコーチが「情報がない」と発言しているように読めないところがある。Window4以降、ヘッドコーチと選手構成が大幅に変わっているからだ。今回は21~22歳の選手を7名招集して一気に若返っている。その背景にあるものを、これまでのカタールの歩みから紐解いていきたい。

大勢の帰化選手を擁することが国の強化策

 アジアの中でもっとも帰化選手が多い国、それが『中東のクセ者』カタールだ。2000年初頭からアフリカ系の帰化選手を多く起用してアジア上位に浮上。2006年には自国開催のアジア競技大会で準優勝を遂げている。

 国際大会で帰化選手がプレーできるのはチームに一人まで。それなのに、なぜ多くの帰化選手を登録できるかといえば、10代の若い選手をカタールに移住させて国籍を取得しているからだ。FIBAの規定である16歳以前に国籍を取得することで、帰化枠を適用せずに自国の選手へと育成しているわけだ。こうした事情を教えてくれたのが、2012年~2013年にカタール代表のヘッドコーチをしていたトーマス・ウィスマン(現:横浜ビー・コルセアーズHC)だ。

「カタールが金銭で選手を買っている(帰化させる)ことは他の国から見れば批判されることだろう。だが、カタール人からすれば規則の範囲内での強化。国に足りないものを豊富な財源で補っている」(ウィスマンHC)

 そしてウィスマンHC自身も「カタールはガードが弱い」という理由で、帰化枠としてNBAでのプレー歴があり、NBL時代に日立に所属していたクリントン・トレイ・ジョンソンを呼び寄せている。ジョンソンは得点力のある司令塔で何度かカタール代表としてプレーしているが、1次予選では崖っぷちだったWindow3で救世主のごとく招集されている。ジョンソンがリーダーとなったカタールはイランに1ゴール差(75-77)まで迫り、イラクとの延長を制している。この結果によりカタールは、2勝4敗の4位で1次予選を突破した。

Window5では強力ガード陣とエースのンゴンボが不在

 1次予選をなんとか突破したカタールだが、その後は苦戦を強いられている。まず、Window3で大活躍したジョンソンと、得点源のアブドルラハマーン・モハメド・サードが不在となったアジア競技大会では、日本とチャイニーズ・タイペイに敗れてグループラウンド敗退している。

 サードはエジプト出身の22歳で、次期エースといっていいほどの逸材。3x3の国際大会で1対1を磨いていることも強みだ。このサードとジョンソンのガードコンビの爆発こそが、1次予選を突破した要因だったにもかかわらず、ともにWindow3以降は代表入りしていないのだ。とくに痛手だったのがWindow4でフィリピンに逆転負けを喫したことだ。フィリピン戦は乱闘事件の処分によって主力が欠けていただけに、勝利を逃したショックは計り知れない。

 これらの不振を受け、10月にはヘッドコーチが更迭されている。これまでは、NBL時代に日立を率いたことがあるティム・ルイスが指揮を執っていたが、Window5からは、キプロス代表でヘッドコーチの経験を持つセルビア人ヘッドコーチのもとで再出発することになった。

 そして、強力ガードコンビが抜けた中でエースになったのが、コンゴ出身のタンガイ・ンゴンボだ。Window4では帰化枠としてジョンソンに代わって起用され、アジア競技大会の日本戦では36得点を荒稼ぎしている。

 ンゴンボは2011年にはNBAドラフト2巡目57位で指名されたほどの実力の持ち主。だが年齢詐称疑惑が浮上したためにNBAでプレーできないばかりか、その後しばらくはFIBAの大会から消え去っていた。最終的には年齢詐称ではなく、1989年生まれであることを証明して3x3の大会で復帰。健在であることを見せつけた今、再び5人制の舞台に戻って来た経緯がある。しかし、このンゴンボも今回の12名には選出されなかった。これは予想外のことだ。

チームの大黒柱であり36歳のベテラン、モハメド・ユースフ [写真]=小永吉陽子

ベテランはいるが、7名の若手を入れて再出発

 来日する中で中心となるのは長年カタールを支えている2人。36歳のモハメド・ユースフは205㎝のサイズと体の幅を持ち、リバウンドとシュートレンジの広さが売り。ワールドカップ予選は全8試合に出場し、平均12.3点、4.9リバウンドを記録。イラン戦では18得点、フィリピン戦で26点をあげた安定感もある。スリマン・アブディ・ハリドは31歳ながら代表歴16年ものキャリアを持つ選手。198㎝のサイズでアウトサイドの得点のみならず、リバウンドに強く、ゲームメイクもこなし、マルチな役割を果たす。

 これらの状況が示すように、過渡期を迎えているカタールだが、警戒したいのは新体制になってからはリーグを中断して1か月以上の強化合宿を積んでいることだ。イラン代表とは2回のゲームを行い、実戦を積んだ状態で日本に乗り込んで来る(2回ともイランが勝利している)

 また、2メートルを超えるボスニア・ヘルツェゴビナ出身の2人の若手(21歳)がこの1年間の国際大会でロスター入りしていることにも注意したい。彼らもまた16歳以前にカタール国籍を取得しており、彼らの他にも東欧出身の若手数名が3x3の国際大会で活躍している。以前はアフリカ系の選手を帰化させてアジア上位に台頭したカタール。今後は東欧出身の選手を育て上げ、新しいカタールを作っている時期とも言える。いずれにせよ、若手が多く、世代交代中のカタールは勝たなければならない相手だ。

多くの国際大会で活躍してきたスリマン・アブディ・ハリド [写真]=小永吉陽子

FIBAワールドカップへの道のバックナンバー

男子日本代表の関連記事