2022.07.08

アジアカップに挑み続けた日本の歴史…栄光と長い低迷、混沌の勢力図、そして今大会の目的

[写真]=小永吉陽子
スポーツライター

■そもそもアジアカップとは?

 7月12日より、インドネシアのジャカルタにて開幕を迎える「FIBAアジアカップ」。この大会はアジアナンバーワンを決定する大会で、2015年までは「FIBAアジア選手権」の名で開催されていた。2017年にFIBAの競技カレンダーを一新すると同時に「アジアカップ」の名称となり、オーストラリアとニュージーランドのオセアニア勢が加入し、4年に一度、16チームによって覇権が争われる大会へと改定した。本来は昨年に行われる予定だったが、新型コロナウイルスの影響で1年延期され、今夏の開催に至った。ちなみに、女子のアジアカップは従来通り2年に一度の会期で行われており、日本代表は昨大会で5連覇を達成している。

 2015年までの2年に一度の開催だったときは、交互にワールドカップとオリンピックのアジア予選を兼ねていたが、現在は純粋にアジアナンバーワンを決定する大会として、13日間で最大7試合を勝ち抜くハードスケジュールとなっている。また、アジアカップ開催地のインドネシアにとっては、ベスト8以上の成績を収めることで、来年のワールドカップ開催地枠を獲得できる重要な大会になっている。

■アジアはさまざまなスタイルが集う多国籍大陸

桜木ジェイアール五十嵐圭を擁した2007年大会は厳しい結果に[写真]=Getty Images


 アジアの勢力図はどのように変化してきているのだろうか。1990年代までは中国が圧倒的な力を示すなかで韓国が続き、日本もメダル争いに加わっていた。1997年には佐古賢一と折茂武彦を中心に韓国に次ぐ2位の成績を収め、当時31年ぶりとなる世界選手権(現ワールドカップ)の切符をつかんでいる。

 2000年代に入るとアジアは混沌の時代を迎える。構図が大きく動いたのが北京オリンピックの予選を兼ねた2007年大会。中国がオリンピックの開催地枠を持っていたことで、もう一つのアジア代表枠を巡って競争が激化したのだ。強力な帰化選手の加入で勝負をかけたレバノン、カタール、ヨルダンの中東勢と、サイズとフィジカルの強さを持つヨーロッパスタイルのイランとカザフスタンが台頭。協会の内紛で揉めていたフィリピンがFIBAの国際舞台に復帰したのもこの年で、これらに伝統ある韓国、チャイニーズ・タイペイといった東アジア勢が加われば、それはもう質もスタイルも異なる多国籍選手権といえるほどの混戦ぶりだ。

 その結果、イランが初優勝を遂げて北京五輪の出場権を獲得。以下、レバノン、韓国、カザフスタン、ヨルダン、チャイニーズ・タイペイ、カタールと続き、日本は地元徳島での開催にもかかわらず8位に低迷。続く2009年は史上最低の10位、2011年は7位、2013年は9位と低迷を続けた。

 低迷した理由には、大会ごとにヘッドコーチと強化方針が変わり、日本代表としてのカルチャーが築かれることなく、強化の継承がないことが一因にあった。2010年からの2年間はトム・ウィスマンHCが「ニューカルチャー」と称して、有望高校生や大勢の候補選手を招集して幅広い層を鍛えたこともあったが、その体制も長続きはしなかった。

■2015年大会に18年ぶりベスト4

長谷川健志HCのもと低迷からの脱却を果たした2015年[写真]=小永吉陽子


 変化の兆しが見えたのは2014年。青山学院大学の監督だった長谷川健志が指揮官に就任し、「ハードワーク」をテーマに掲げると、2014年のアジア競技大会で3位、2015年には18年ぶりとなるアジア選手権ベスト4位へと躍進し、翌年のリオ五輪の世界最終予選の切符をつかむ。

 ただ、この時も最初からうまくいったわけではなかった。2014年7月のアジアカップ(アジアチャレンジに名称変更)では9チーム中6位からスタートして、10月のアジア競技大会で3位まで浮上。2015年のアジア選手権でも初戦のイラン戦で38点差の大敗からスタートし、試合ごとに修正を重ねながら、最終的に4位へと引き上げている。代表活動を通して課題だったリバウンドを改善し、田臥勇太比江島慎竹内譲次という軸ができたからこその躍進だった。

司令塔としてチームをけん引した田臥[写真]=小永吉陽子


 18年ぶりのベスト4入りを果たし、長谷川HCはこのように語っていた。

「日本代表を戦えるチームにするには時間がかかります。トップリーグ(当時のNBLとbjリーグ)と日本代表のバスケがまったく違うからです。インサイドの外国籍選手にボールを預けて任せるスタイルから、日本人選手が得点もリバウンドも取るスタイルに変えるには、どうしても時間が必要なのです。昨年だってアジア競技大会で3位になるまでに数カ月の合宿と海外遠征をしています。今年もシーズンの最後にようやく3決の舞台に立てました」

 前回の2017年大会は、指揮官にフリオ・ラマスHCが就任したばかりで、準々決勝進出決定戦で韓国に敗れてベスト12(9位)に終わっている。「強化の時間がもっとほしい」はいつの時代も同じセリフだった。だからこそ、2016年には日常から競争することで強化を求めたBリーグが立ち上がったのだ。

■トライアウトに終わらない戦いを

直近のW杯予選に出場した若いメンバーがアジアカップのメンバーにも多数選出された[写真]=fiba.com


 前任のラマスHCは、日本人選手のサイズと技量のスタンダードを上げたチーム作りを掲げた。ディフェンス等の奇襲作戦を仕掛けることはなく、あくまで選手のスタンダードを上げることで、世界大会での1勝を目指した。一方、昨年の東京五輪後に就任したトム・ホーバスHCはチーム作りが異なる。

「日本人に合っている」という理由で、スピードある展開からペイントアタックと3ポイントの試投を増やして効率のいいシュートで勝負する『スモールボール』という、自身が東京五輪で女子代表を銀メダルに導いたスタイルで勝負しようとしている。戦術にあった役割を各自に求めることで、前任者とは真逆のチーム作りをしているといっていいだろう。

 ホーバスHCは今夏の活動について、「選手のトライアウト中」だと言う。過密日程のBリーグにおいて、チャンピオンシップを戦った選手たちに休息を与えながら、候補選手42名をグループ1(7月のワールドカップ予選Window3/アジアカップ)とグループ2(8月の国際強化試合/ワールドカップ予選Window4)の2チームに分けて選考しながら強化中だ。

 ただ、アジア王者を決める大会であるだけに、トライアウトといったお試しで終わるわけにはいかない。1年ぶりの代表活動となる渡邊雄太にとっては、新しい指揮官のもとでリーダーシップを発揮し、戦術を理解する大会になるだろう。自力で五輪出場を目指すには、来年のワールドカップでオセアニア勢を除いてアジア最上位になる必要があるため、アジア各国の力量を把握しなければならない。そのためにも、各自が役割を遂行しながら、勝ちにいく大会にしなくてはならないのだ。

 5年ぶりのアジアカップは7月13日、カザフスタン戦との決戦からスタートする。

文=小永吉陽子

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