2018.02.21

三井不動産はどうしてJBAのパートナーになったのか、Wリーグオールスターのスポンサーをしたのか率直に聞いてみた

バスケットボールキングプロデューサー(事業責任者)

 2017年12月16日、2985人が詰めかけた大田区総合体育館において、『Wリーグ 三井不動産オールスター 2017-18 in TOKYO』が行われた。Wリーグのオールスターは3年前に復活したばかりで、過去2年については、新潟県長岡市のシティホールプラザ アオーレ長岡で開催されていたが、2017‐2018シーズンは、ファンやメディアも集まりやすく、情報の発信にも優位な東京での開催となった。

 この東京でのオールスター開催を可能とした要因の一つが、三井不動産によるスポンサードであると言えるだろう。三井不動産はこのオールスターのスポンサードに限らず、バスケットボール女子日本代表チーム(AKATSUKI FIVE)のオフィシャルスポンサーでもあり、女子代表は、国内での代表お披露目や代表チームの強化を目的として、「三井不動産BE THE CHANGE CUP」の実施も可能となった。

 都市をつくり、街の価値をあげることを主業とする三井不動産が、なぜWリーグ女子日本代表など、日本のバスケットボールを支援するのか。その謎を解くべく、三井不動産株式会社広報部長徳田誠氏に話を聞いた。

インタビュー=村上成
写真=山口剛生、加藤誠夫

――まず徳田さんのご経歴について聞かせてください。
徳田 1987年に入社してからずっと三井不動産で働いています。6年前に広報部へ異動して、広報部長になってからは丸5年です。それまでは不動産の営業関係の仕事をやっていて、広報部とは全く縁がありませんでした。

――営業では具体的にどのような仕事をされていたのですか?
徳田 不動産の仕事は多岐にわたります。例えば大規模商業施設の開発なども仕事の1つです。その一方で、法人さん、地主さんとお話をしたり、交渉したりと、守秘義務が発生するような仕事もあります。当時は広報とは全く縁がなく……。広報に配属されると聞いたときには、何かやらかしてしまったのかなと思ったのも事実です(笑)。不動産関連の業務はとても多面性がありますが、広報での6年はまた違う面がたくさんあり、とても勉強になっています。

――ご自身のスポーツ経験について教えてください。
徳田 小学校、中学校、高校はサッカーをやっていました。私は石川県出身なのですが、高校のサッカー部は2回戦くらいで負けるようなチームでした。今でこそ星稜高校(石川県)や富山第一高校(富山県)など強豪校が出てきていますが、自分たちの時代はあまりサッカーの人気がなく、もっぱら野球の人気が高い時代でしたね。Jリーグがない時代だったので、華やかにやっている野球部を横目に見ながら、ひたすら走って、「辛いなあ」、「日の目を浴びないなあ」と思っていました(苦笑)。

――ちなみにサッカーはどこのポジションをやっていましたか?
徳田 今で言う守備的ミッドフィルダーです。いい指導者がいるわけでもなく、とことん走らされた記憶ばかりですよ(笑) 長男が小学校のときに、所属するクラブの練習に協力することもあり、そこで感じたのは「今の小さい子はすごく上手だな」ということです。コーチの教え方が良くて、1年生、2年生でもこんなにうまかったのかと。世の中が変わってきていると感じますね(笑)。

――バスケットボールのご経験は?
徳田 プレーの経験はありません。ただし、当時のサッカーを知っている者からすると、あまり日の当たらないところから成長しているバスケはそれに似ている部分があるのではないかと親近感が湧きますね(笑)。

レベルを問わず、どこの学校でもサッカーをやっている人はいます。バスケットも同じで、どこの体育館に行ってもバスケットボールのゴールがあって、シュートして遊んでいますよね。そういう意味では、昔のサッカーとかぶる部分があると感じます。今は仕事としてオリンピックやスポーツの応援をすることが多くなっていますが、スポーツが好きなので実際に試合を観に行ったり、テレビで観戦したりもします。

――ご自身もスポーツに対して親和性のある生活を送られていたのですね。それでは、三井不動産がバスケットボールの女子日本代表のパートナーや、WJBL(バスケットボール女子日本リーグ)オールスターをスポンサードされた理由を聞かせてください。
徳田 三井不動産という会社は、これまで、スポーツ大会や競技団体へのスポンサードをあまりやってきませんでしたが、2020年に東京でオリンピック・パラリンピックが開かれることが決まり、ちょうどスポーツへのスポンサードを考えていたタイミングに合ったということがあります。それとは別になぜ当社が、スポーツのスポンサードを考えていたのかということには、三井不動産が考える街の価値について説明が必要かもしれません。

私たち不動産会社の仕事は、立派なビルやキレイなマンションを建てて売っているイメージだけを持っている方がいるかもしれませんが、三井不動産は“街づくり”をすることを目指しています。街づくりの中には住宅やオフィスビルがもちろんあり、最近では「ららぽーと」、都心の「コレド(COREDO)」、「東京ミッドタウン」など商業施設の開発も含まれます。その際、ただ単に立派な建物を作るだけでは、街に大きな付加価値は生まれません。

東京を見渡すといろいろなところに建物がありますが、「ここで働きたい!」、「ここに住みたい!」、「ここに遊びに行きたい!」といった街ができてくるときに、何がカギになるかと言うと、快適なハードが備わっていることはもちろんですが、”ソフトの価値”が大事で、街の強弱、優位性を付けるポイントだと思っています。

例えば日本橋や東京ミッドタウンは、ソフトの付加価値をどう付けていくかに力を入れています。日本橋では地元の方と一緒にお祭りに参加したり、様々なイベントを行うなど、そこに集まる人たちに付加価値を感じてもらうために、いろいろな手間暇をかけています。最近、「どこで働きたい?」とワーカーの皆様にうかがうと、「日本橋が良い」と答える人が増えてきました。昔は、会社やオフィスの所在地も企業のトップがすべて決めれば良かったのですが、今はそういう時代ではありません。住むことと同じで、働く場所にもこだわりがありますよね。青山に住みたい、目黒に住みたいといったファンがいて、建物が好きでファンになるより、エリアとして選ばれるのではないでしょうか。その街の魅力や価値、それが私たちの絶対的な強みになってきます。

――なるほど。ソフトの価値が街の強みということですね。それがどのように、スポーツとつながってくるのでしょうか?
徳田 ただ街に立派なアリーナを作るというわけではなく、スポーツというソフトを街づくりの中に取り込むことが我々の目的です。自国開催が決まったオリンピック・パラリンピックを契機として、我々がやっているソフトの付加価値を付けていくということの1つとして、スポーツの力を活用しようと考えました。我々の街づくりのスタイルをより発展させ、世の中に発信できるまたとない機会じゃないかと思いオリンピック・パラリンピックのパートナーになりました。

――オリンピック・パラリンピック種目へのサポートはどのような形で決まったのですか?
徳田 イベントだけでなく、個別の競技も応援しようという話が出てきて、2016年の春に女子のバスケットボール、スポーツクライミング、ウィルチェアーラグビーの3競技を応援することを発表しました。3競技とも特徴があり、それぞれが似通っていなくて、我々としてはいいチョイスかなと思っています。

――サポートする種目のバランスが取れていますね。
徳田 まずは、新しい競技という枠の中で、スポーツクライミングを選択しました。そして、2020年に向けて我々が取り組まなければいけないバリアフリー社会を体現するため、パラリンピックの競技も応援したいということでウィルチェアーラグビーへのサポートも決めました。パラリンピック競技をやっている選手と触れ合うことで、彼らが何を考えているのかを理解でき、さらに我々の街づくりの中で必ずプラスになると思っています。 

そして残り1つを何にしようか議論になったのですが、その過程で改めて考えたのが、スポーツの力を活用した街づくりにおいて、スポーツの力は具体的に「プレーする」、「観戦する」、「応援する」の3つということです。いずれも、我々がやっている街づくりで集まってくる人たちの間につながりが出てくると思います。「一緒に試合をやろう」、「一緒に応援しよう」など、自分でプレーすることはもちろん、プレーしなかったとしても、コミュニティーでつながりができますよね。そういった街はすごく快適だと思います。スポーツにあまり興味がない方でも、そういったコミュニティーに入って、「一緒になって応援しよう」という気持ちになると、ソフトの面から見たときにすごく力のある街だなと。そのため、もう1つはできるだけ幅広い層の人が応援できる競技がいいと考えていました。

――それでバスケットボールが選ばれたわけですね。確かに世界的に見ると、バスケットボールの競技者人口はサッカーよりも多いのです。
徳田 私の子どもを見ていても感じることなのですが、小学校では、バスケに触れる機会が野球やサッカーよりも多いので、みんなで一緒に応援できる競技という意味でバスケは非常に魅力を感じていますよね。サッカーに触れる機会も多いと思いますが、オリンピックを契機に今よりもステップアップを期待できる競技は、ポテンシャルとしてバスケットボールだと思いました。すでにリオデジャネイロオリンピック出場権を獲得していた女子日本代表のAKATSUKI FIVEは、2020年に向けてその価値を高めていける恰好のターゲットでした。

――幅広い競技層がいて、世界的にも人気があり、ポテンシャルがありつつ、まだまだこれからの競技ですよね。
徳田 AKATSUKI FIVEができて、渡嘉敷(来夢)選手や吉田(亜沙美/ともにJX-ENEOSサンフラワーズ)選手の話題は出てきて、今の代表の主力が黄金世代に該当すると感じていました。男子はBリーグができたばかりで、もう少し時間が掛かると思いましたが、やっぱり日本を取り巻くバスケットボールの環境は本格的に変わりつつあるなと。

当時、川淵(三郎/Bリーグ初代チェアマン)さんからよくお話をうかがいましたが、日本のバスケットボール界からは、本気になって変えていこうという気持ちを感じました。努力をしない競技団体はあまり可能性を感じませんが、バスケットボール界はいろいろなことをやろうという熱意を強く感じましたし、ポテンシャルを考えるとこれから注目度が高まってくる競技だと考えました。

支援するという意味では、経済的なことだけでなく、例えば、社員が実際に試合に行って、応援することもあります。また、我々が持っている商業施設を利用して、バスケット絡みのイベントをすることができますよね。ソフトバンクさんや富士通さんなどの企業が、それぞれの強みを活かしたサポートをされていると思いますが、三井不動産は応援できる“場”、人が集まってくる“場”を持っていることが強みの一つです。お金を出して協賛する以外でのプラスアルファの応援ができる会社だと思っていますので、その機会を設けてやっていきたいと思っています。

――商業施設というコンタクトポイントを持っていることは非常に大きいですよね。
徳田 地道なところではありますが、それは競技団体側からすると、「応援してもらっている」、「人々に知ってもらえる場所を提供してもらっている」ということです。三井不動産の立場からいろいろなイベントをやることによって、我々がやっている街の付加価値が上がる、スポーツの力が加わるという部分でもあります。

幅広い方にバスケットボールの魅力を知ってもらいたい

2017年12月に開催されたWリーグのオールスター [写真]=加藤誠夫

――ビジネス的な視点から、バスケットボールをどのように捉えていますか?
徳田 スポーツの力をいただいて、私たちがやっている街づくりの付加価値を上げたいということが、我々の事業的な面での意味合いだと思います。3つの競技を応援し始めた頃、今から2年強前になりますが、『三井不動産スポーツアカデミー for TOKYO 2020』というイベントを開始し、今度13回目が実施されます。いろいろな競技のオリンピアンを講師に、子どもたちメインに実際に競技を体験してもらおうという趣旨です。

バスケは昨年、(FIBA女子)アジアカップのあとに大崎(佑圭)選手と宮沢(夕貴/ともにJX-ENEOS)選手に来てもらい、バスケットボールアカデミーを開催し、とても多くの方々から応募が集まりました。また、3x3(3人制バスケットボール)にも挑戦したいと思っています。エンターテイメント要素が多くて、商業施設で簡単にやれる競技ですので、都心の東京ミッドタウンなどでバスケットの魅力をダイレクトに伝えられればと思います。女子の大会は若い女性ファンがいますし、Bリーグは大学生など若い層が多いですよね。彼ら、彼女たちを我々の街づくりのところに呼び込むのは、すごくメリットがあると思っています。

――Wリーグのオールスターにスポンサードをされましたが、こちらはどのような理由があったのでしょうか?
徳田 昨年のアジアカップの前に愛知県刈谷市で、オランダ代表との壮行試合があったのですが、相手のレベルの問題もあって少し物足りないと感じました。女子代表の選手たちをもっと多くの人に見てもらいたいし、知ってもらいたいと考えているのですが、Wリーグのオールスターは多くの日本代表選手が集結しますよね。今回のオールスターはそういう意味で、代表選手を一緒になって応援できる機会なので、プラスアルファでWリーグのオールスターにスポンサードをさせていただきました。

――Wリーグにとって、東京でのオールスターは珍しいことでしたが、実際の雰囲気はいかがでしたか?
徳田 お客様のリアクションを見ていましたが、関東エリアにはトップクラスの選手を見たいという人が大勢いらっしゃると感じました。去年は刈谷での代表戦でしたが、リオ五輪の前に東京周辺でやった代表戦には多くの人が集まりました。オールスターの楽しみ方とはまた違い、強化試合とは言え、真剣勝負だったので、試合自体にかなり迫力があり、若い方が熱心に応援しているのを間近に見たので、やはり女子のトップクラスの試合を観る機会がもっと多くあったらいいなと感じました。

サッカーでは2002年の日韓ワールドカップを機会に埼玉スタジアム2002や日産スタジアムが建設されて、大型スタジアムに気軽に行けるようになりましたね。バスケの場合は便利な場所に、大型のアリーナが不足していると思いますが、そこは“ニワトリ卵”だと感じます。サッカーでW杯を日本に呼ぶことができたのは、ものすごく大きいことだと思っていて、W杯をきっかけに各地にスタジアムができたことによって、見る人、応援する人が出てきました。テレビで見るのと違って、実際行って応援すると、スポーツの魅力は増すと思っています。テレビの方が試合を見やすいですけど、臨場感や迫力、盛り上がっている中で応援するのがスポーツ観戦の醍醐味じゃないかなと。そのようなことがバスケットボールでも起こると良いと思いますね。

――今回のオールスターは『Tokyo Girls Collection』が同時に開催されるなど、これまでとは違った取り組みもありました。Wリーグもとても前向きに、できるものは改善し、挑戦する姿勢を感じることができると思います。今回のような取り組みについてどのように思われますか?
徳田 リーグ側が積極的にトライしているのが感じられるので、ポジティブで素晴らしいと思います。選手たちも代表の試合だけではなく、日常のリーグ戦でアリーナがいっぱいになって、大歓声の中で試合したほうがうまくなりますよね。今後も積極的な取り組みに期待をしたいですね。

――バスケットを見ている方、これからバスケット見る方に対して何か伝えたいことはありますか?
徳田 まだ実際に試合を観たことのない人も会場に足を運べばバスケットの良さを感じる人がいっぱいいると思います。バスケットボールを知らない人は誰もいないはずですから。もっと多くの人にチームを応援してもらいたいという思いはありますし、もっといろいろな仲間を巻き込んで、幅広い方にバスケットボールの魅力を知ってもらいたいと考えています。

サッカーや野球に比べてわかりにくい部分があるかもしれませんが、ここ数年は日本のバスケットボール界にとってすごく大事な時期だと思います。一緒にがんばって、かつてのサッカーのようにフェーズを上げる、また上げられるチャンスがある数年だと思いますので、なんとか応援を続けてほしいなと。リーグや関係者の方は一生懸命取り組んでいますので、より一層がんばっていただいて。三井不動産もパートナーとしてやれることを一生懸命やって、貢献したいと思っています。

――バスケに限らず、2020年に向けて取り組んでいきたいことはありますか?
徳田『三井不動産スポーツアカデミー for TOKYO 2020』を2年で12回実施して、それ以外にも『日本橋シティドレッシング for TOKYO 2020』などいろいろな応援イベントも開催しています。やっている方向は間違っていないと思うので、まずは2020年までの2年半をターゲットにしながらより加速していきたいです。バスケット、スポーツクライミング、ウィルチェアーラグビーは我々がスポンサーですから、それ以外の競技に比べて選手に来ていただける可能性が高いと。協会側も非常に協力的なので、有名な選手に我々の商業施設に来ていただいて、いろいろなイベント、またはデモンストレーションやスクールをやって、彼女たちを押し出していければと思います。

――今後伸びていくと期待しながらパートナーになっているのですね。
徳田 バスケットボールは、予想以上に成績がいいですし、何より若い世代が強いじゃないですか。昔のサッカーを見ているように感じます。Jリーグが始まった頃、カズ(三浦知良/横浜FC)世代の下がかなり強くて、一気にレベルアップしていきましたよね。2020年の後にグーッっと。男子は若い選手が目立ってきていますし、中学生で15歳の田中力(坂本中学校)君が日本代表候補に入っていますよね。彼のような若いスターたちが出てきたら、やっぱり注目度も上がりますよね。一気に人気に火が点くと思っています。

バスケットボール界を支える人たちのバックナンバー

BASKETBALLKING VIDEO