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6月9日にUAE・ドバイで開幕した車いすバスケットボール世界選手権。ベスト4の国の大陸ゾーンには来年のパリパラリンピックの出場枠が与えられ、来春の世界最終予選の枠取りにもつながる大事な大会だ。しかし、そこに東京2020パラリンピック銀メダルの男子日本代表の姿はない。新型コロナウイルス感染症の影響で昨年のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)を途中棄権。パラリンピックの前哨戦とも言える“世界一決定戦”への切符を逃した。そこで5月末から2週間にわたって海外遠征を実施し、強豪7カ国と対戦した。「日本にとっての世界選手権」として臨んだ遠征でつかんだものとは何だったのか。帰国直後の京谷和幸ヘッドコーチに独占インタビューした。
今回の遠征では2つの国際親善試合に参加した。まずはドイツで開催された「ネーションズカップ」では、地元ドイツのほか、世界選手権連覇を目指すイギリス、現ヨーロッパ王者のオランダ、そして日本とは因縁のライバルでもある韓国と対戦し、2勝2敗。そしてトルコで開催された「コンチネンタルカップ」では、地元トルコのほか、リオ、東京とパラリンピック連覇のアメリカ、アジアオセアニアの最大の難敵オーストラリアと対戦し、4試合を行って1勝3敗。あわせて3勝5敗という結果となった。
これについて、京谷HCは「勝ち越しを目標としていたので、それを達成できなかったことは残念」と述べたあとに「ただ」と語気を強めて、こう振り返った。
「絶対に負けられなかったオーストラリア、韓国、そしてヨーロッパ選手権覇者のオランダに勝てたことはチームにとって大きな自信になったはずです。また負けたゲームも、内容的には決して悪くはなく、すべて手応えを感じることができました」
たとえばネーションズカップでのイギリス戦。東京パラリンピックの準決勝では2ケタ差で勝利を挙げている相手だが、クラス分けの問題やコロナの影響で数人の主力が抜け、当時はフルメンバーではなかった。しかし東京パラリンピック後に復帰し、現在はアメリカを破って優勝した18年世界選手権の主力がそろっている状態だ。
そのイギリスに、日本は56-71で敗れた。「ゲームの入りが悪すぎた」と京谷HCが語るとおり、日本は第1クォーターの前半は2得点にとどまった。その嫌な流れを払拭したのが、香西宏昭(3.5)だ。交代したあとの約5分間で1人で一挙6得点を挙げ、チームに勢いを与えた。
さらに香西と藤本怜央(4.5)のベテラン2人がそろったラインナップでは、先発5人に戻したイギリスに対して2分半もの間、無失点に抑えて猛追。第2クォーターは20-10として好守備から流れを引き寄せた。続く第3クォーターで2点差にまで迫ったものの、第4クォーターの後半に日本はファウルやターンオーバーを積み重ねたことで、相手に流れを与えてしまった。
それでもフィールドゴール成功率は、イギリスが46パーセントだったのに対して、日本も43パーセントと同等の数字を残した。京谷HCも「いつもなら出だしが悪いとそのままずるずるいってしまうところを、何とか持ちこたえて挽回できたことは大きい」とチームの成長を評価。「イギリスの主力3人がほぼフル出場したことからも、相手も焦りはあったはず。それだけ地力がついてきたなと感じられるゲームだった」と述べた。
また、コンチネンタルカップの初戦で対戦したアメリカとの1戦でもディフェンスが機能した。アメリカは、東京パラリンピック以降、数人の主力が代表を引退していたが、世界選手権にあわせてエースのスティーブ・セリオ(3.5)、ジェイク・ウィリアムス(2.5)、トレヴォン・ジェニファー(2.5)らが復帰し、フルメンバーがそろった。そのアメリカとの試合、結果は44-56で黒星。第3クォーターで離されたことが最後まで響いた結果だったが、第1クォーターは4点差、第2クォーターは7点差と凌ぎ切り、最後の第4クォーターも13-13と互角に渡り合った。特に第4クォーターの後半、スティーブ、ジェイク、ジェニファー、ブライアン・ベル(4.5)をそろえた最も強いラインナップで臨んできたアメリカに対し、日本は4分半もの間、フィールドゴールでの失点はわずか2点。プレスディフェンスで2度もアメリカからターンオーバーを奪うなど、攻防にわたって主導権を握った。
そして試合全体としても、フィールドゴールのアテンプトは日本のほうが13上回り、ターンオーバーもアメリカから19奪っている。ファウルが混み、フリースローを14本も与えたことが2ケタ差まで開いた要因の1つだったと考えられるが、地元レフリーの笛はどの試合においても基準が定まっていないもので、本来なら日本はパーソナルファウルが18にも積み重なることにはならなかったはずだ。
また選手個人においても、京谷HCは大きな手応えを感じていた。なかでも真っ先に名前が挙がったのが、最年少21歳の大学4年生・伊藤明伸(1.5)だ。今年度初めてA代表候補としてハイパフォーマンス強化指定選手入りした伊藤について、指揮官はこう評価した。
「川原凜(1.5)の負担をいかに少なくするかということがチームの課題としてあったなか、伊藤が補えるようになってくれているなと。プレータイムは1試合10分いかないくらいですが、川原が高いパフォーマンスをするためのプラス要素になっていたと思います。また、川原と伊藤の2人をそろえたラインナップも良かった。伊藤はオールコートでのディフェンスは良いので、ハーフコートでの守り方を強化すれば、このラインナップは戦力になると感じました」
そしてチームビルディングにおいては、「ようやくパリに向けて戦う準備ができたと感じた」と語る。
「東京で銀メダルを取ったことは自信になったと思いますし、良かったと思います。ただそこから1度、選手たちの気持ちが切れたところがあって、代表合宿をやっていても東京に向かっていったときとはチームの雰囲気が違い、正直“まずいな。このままでは勝てない”と感じていました。でも、この遠征でようやく戦える準備ができてきたという感触を得ることができました。今はすごく良いチームになりつつあるので、ここからがいよいよ勝負だなと思っています」
一方、他国は今、世界選手権で熾烈な争いを繰り広げている。なかでも14日に行われたアメリカとイギリスとのグループリーグでの1戦は、事実上の決勝戦とも言うべきハイレベルなゲームとなり、会場にいた各国の選手たちやチーム関係者は、かたずをのんで見守っていた。それほど壮絶な戦いが繰り広げられたのだ。彼らが本気を出したときの実力の高さは、普段のクラブチームや親善試合などでは絶対に見ることのできないものだ。だからこそ、このステージに日本が上がれなかった代償の大きさははかり知れない。そのことを嫌というほど感じさせるものだった。
その世界選手権では16日に準々決勝が行われた。オーストラリアはアメリカに敗れたが、イランがドイツに70-68で競り勝ち、ベスト4に進出。パリへの出場枠がアジアオセアニアに1つ与えられることが決定し、12月のAOCで優勝すればパリへの切符を獲得することができる。
いずれにしても連日繰り広げられている壮絶な枠争いの蚊帳の外にいる状態である日本にとって、AOCは背水の陣で臨む大会であることは間違いない。だが、日本には世界選手権9位から東京パラリンピックで銀メダルを獲得した実績がある。苦境から必ずや這い上がり、パリへの切符を獲得するはずだ。