2023.06.18

車いすバスケ世界選手権…女子日本代表、オリジナルのディフェンスに手応えもシュート力に課題

車いすバスケットボールの世界選手権に臨んでいる女子日本代表 [写真]=斎藤寿子
フリーライター

 6月9日、UAE・ドバイでは車いすバスケットボールの世界選手権が開幕。2大会ぶりに出場となった女子日本代表が世界の強豪国としのぎを削り合っている。女子は出場12カ国が2つのグループに分かれて総当たりでのリーグ戦が行われ、16日には決勝トーナメントに進出する上位4カ国が決定。日本は2勝3敗とし、グループAを4位通過。17日には準々決勝に臨む。

フィニッシュの決定力にあったアメリカとの大きな差

 グループAには日本のほか、東京パラリンピック金メダルのオランダ、同銅メダルのアメリカ、同4位のドイツと強豪国が集結。さらに同じアジアオセアニアのタイ、アフリカ代表のアルジェリアを含めた6カ国でリーグ戦が行われた。

 日本は初戦のアルジェリア戦を70-36で快勝。柳本あまね(2.5)が両チーム最多の20得点を挙げるなどして白星スタートを切った。一方でディフェンスでは課題も浮上していた。

グループリーグの5試合中3試合でチーム最多得点、現在3ポイント部門ランキング2位タイ(5本)の柳本 [写真]=斎藤寿子

 岩野博ヘッドコーチが指揮する現在の女子日本代表がメインとするディフェンスはこれまでにはないオリジナルのスタイルだ。マンツーマンのプレスから、横一列になって下がっていくシャドウ、そして最後は3ポイントラインにそった形でペイントを守るTカップと3種類のディフェンスをミックスさせている。高さでは敵わない海外勢相手に、プレスでミスを誘い、次にシャドウにより攻撃の時間を削ることでフロントコートでのプレーを楽にさせない。それがこのディフェンスの狙いだ。

 しかし複雑であるがゆえに、まだ完成には至っていなかった。走力で日本が圧倒的に上回っていたアルジェリアに対してもプレスブレイクされるシーンが少なくなく、修正が必要とされた。

 続く第2戦は今大会優勝候補の一角に入るだろうと下馬評の高かったアメリカと対戦した。開幕前から「安定的な強さを持つチームなので、自分たちの現在地を知る大事な試合になる」と岩野HCが最も重視していた試合だったが、結果は46-76で初黒星。スコアだけを見れば、完敗と言っていい。セーフティに意識を置いていても、なお走られてしまうほどアメリカの走力、ボールハンドリングの巧さは岩野HCの想定を超えていた。そのためシャドウに移る前にプレスの段階でブレイクされ、速攻で走られるシーンが頻発してしまった。

 それでもチェアスキルやポジション取りの巧いアメリカ相手に後半には何度か8秒バイオレーションを奪い、もう少しで24秒バイオレーションを奪えそうなシーンも見られた。攻撃の時間だけでなく相手の体力を削って後半に勝負というディフェンスの狙いが決して間違いではないという手応えも感じられ、印象とすればスコアほどの差は感じられなかった。

オリジナルのディフェンススタイルを武器にチーム一丸となって戦う女子日本代表 [写真]=斎藤寿子

 それでも30点差にまで開いたのにはオフェンスに課題があったと言っていいだろう。フィールドゴールのアテンプトはアメリカが66に対し、日本は68とわずかながら上回っており、しっかりとシュートチャンスは作ることができていた。だが、フィニッシュの決定力不足が露呈。フィールドゴール成功率はアメリカが56.1パーセントだったのに対し、日本は27.9パーセントにとどまった。

 アメリカは速攻が多く、ほとんどがペイントエリア内の得点だった一方で、日本はミドルシュートが多かったという違いはあるが、日本が世界に勝つためにはアウトサイドからの得点が必須であることは言を俟たない。岩野HCも「タフショットにはならない形を作り出せてはいるので、あとはいつも通りに決めてさえくれればもう少しいい勝負になったはず。相手にやられたというより、こちらのフィニッシュ力の問題」と述べた。そしてこれが結果的にはグループリーグの結果を左右した一つのポイントとなった。

ディフェンスの修正が生きたドイツ戦

 実力差があるタイとの第3戦でも、やはりシュートの確率の低さが露呈した。タイを24点に抑えたことは良かったが、得点が63にとどまったのには物足りなさを印象付けた。84ものアテンプトを数えたが、ほとんどジャンプアップしてこなかった相手に対して、フィールドゴール成功率は35.7パーセントと伸び悩んだ。

 続く第4戦のオランダ戦は、42-96。高さだけでなく、スピード、走力、パス、シュートとすべての面において相手は一枚も二枚も上手だったと言わざるを得なかった。ただ、得点に関して言えば、東京での24得点を大きく上回り、チームの成長を感じさせるものだった。

オランダ戦で40分フル出場をはじめ、5試合中4試合で30分以上プレーするなど、攻防にわたって柱として活躍している網本麻里 [写真]=斎藤寿子

 そして迎えた最終戦、ドイツとの試合は52-61で3敗目を喫した。ただ、大会を通して一つひとつ細かくディフェンスを修正したことが生き、最も手応えを感じた試合でもあった。まず一つは、ナンバーコールを40分間徹底することや、プレスの際に不必要に押し込もうとすると次の動作に遅れが生じてしまうため、細かく90度ターンを意識するという基本的要素を再確認した。

 さらに試合を重ねるたびに加えたこともあった。プレスからシャドウに移行する中でラインを突破しようとする相手を止める意識が高いあまり、ヘルプにいったまま1人に2人がつくような形になっていた。当然コート上のどこかでアウトナンバーの形が自ずとできてしまい、ブレイクにつながっていた。そこで岩野HCはあくまでも最後のTカップに移るまではマンツーマンであるとして、ヘルプではなくスライドしてマッチアップの相手を変えるスイッチの意識を高めることを指示した。

 さらにドイツ戦では、プレスからシャドウへの切り替えをそれまでよりもワンテンポ早くすることでブレイクを阻止することに成功。優勝候補の一角と目されたアメリカを破ったドイツ相手に、一時は1点差に迫るなどしっかりと競り合い、60点台に抑えたことは評価に値する。ドイツが日本のディフェンスに苦戦していたことは明らかだった。

ドイツ戦では約27分出場し、小柄ながら守備で相手ビッグマンを止めたり、ピックをかけて味方のシュートを演出するなど、献身的なプレーを見せた財満いずみ [写真]=斎藤寿子

 その反面、「もう少し上がらないとどこが相手でも勝てない」と岩野HCが語る通り、34.5パーセントとフィールドゴール成功率には改善が見られなかった。結局、グループリーグ5試合でのフィールドゴール成功率のアベレージは、12カ国中9位の35.1パーセント。ベスト8の中で最も低く、8位のカナダが41.5パーセントであることからも、世界トップクラスのチームとは大きく開けられた状況だ。

日本のバスケットを遂行できるかがカギを握る中国戦

 さて17日からは決勝トーナメントがスタートし、グループAを4位通過とした日本は、準々決勝でグループBを4勝1敗でトップ通過した中国と対戦する。2011年、翌年のロンドンパラリンピックの切符をかけて行われたアジアオセアニアチャンピオンシップスで敗れて以降、今や世界の頂点に立とうとしている中国に日本は勝つことが難しくなっている。開きつつある中国との差をどこまで縮めて、勝機を見出すことができるか。そのために重要なポイントとして、岩野HCは2つ挙げた。

「中国のスターティング5は全員が非常に高い確率でシュートを決める力を持っている。それだけにドイツ戦以上にいかにプレス、シャドウでつかまえてハーフコートでのセットオフェンスの時間を削れるか。そして日本のシュートの確率をどこまで上げていけるか。少なくとも60点台に乗せるくらいの確率は欲しいなと思います」

全5試合でスターティング5に抜擢され、特にドイツ戦ではディフェンスが光った大津美穂 [写真]=斎藤寿子

 グループリーグ5試合で、中国はオランダ(58.5パーセント)、アメリカ(54.5パーセント)に次ぐ53.3パーセントのフィールドゴール成功率を誇っている。一方、アテンプトはほとんどの国が300を超えているのに対し、中国は270とタイ(242)、アルジェリア(262)に次いで3番目に少ない。時間をかけてセットオフェンスをしかけてくるからだ。

 ハーフコートに持ち込み、ボールを回しながらミドルシュート、あるいはピックアンドロールからのレイアップを狙うというスタイルを踏襲する中国のバスケットは一見、非常にシンプルで強さは感じられない。しかし、驚異的なシュート力で相手を精神的に疲弊させてしまうのが中国の恐ろしさでもある。またディフェンスの戻りも速く、2on2の形は攻防ともに得意としている。

 ただベンチメンバーとの差は大きいと見られ、先発5人がいずれの試合でも30分以上プレーしている。この5人のスタミナを前半で削り、後半にシュート力が落ちるといった状況が生みだせれば、十分に勝機は見えてくるはずだ。12年ぶりに中国に土をつけ、自らの手でパリパラリンピックの出場枠をアジアオセアニアにもたらしたい。

取材・文・写真=斎藤寿子