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5月11日、車いすバスケットボールのドイツ・ブンデスリーガ、プレーオフ・ファイナル第1戦が行われ、日本人唯一のプロプレーヤー香西宏昭が所属するRSVランディルと、RSBテューリンギア・ブルズが対戦した。両チームは、近年では“2強時代”を築いているライバル同士。今シーズンも3タイトルすべてのファイナルラウンドに進出している。今回はその“最終章”。ランディルはホームでの今シーズンラストゲームを白星で飾りたいところだったが、後半の追い上げも実らず、61-73で敗れた。果たして、香西はこの試合をどうとらえているのか。
この試合に臨むにあたり、香西にはある思いが加えられていた。日本国内で所属するNO EXCUSE(東京)のチームメイトと交わした約束だった。今回、プレーオフのファイナルと日程が重なったことで、日本一クラブ決定戦である「天皇杯」(10~12日)を不在にした香西。NO EXCUSEのチームメイトたちと「お互いに勝利を目指して頑張ろう」と誓い合っていた。
「天皇杯に自分がいないのは、NO EXCUSEのみんなには本当に申し訳ないなという気持ちがありました。でも、ちゃんと僕のことを理解してくれてお互いに頑張ろう、と言ってくれたみんなのためにも、自分はここでやることをやるしかない。そう思って試合に臨みました」
その一方で、香西は気持ちをコントロールすることを心掛けていた。ランディルのホームでのラストゲームであること、そしてNO EXCUSEのチームメイトへの思いがある中、自然と高揚感が出てくることは容易に予測できていた。しかし、それをそのまま出せば、気持ちが空回りした大味なプレーにつながりかねない。だからこそ、香西は“熱さ”と“冷静さ”の調整をし、大事な一戦に臨んだ。
第2クォーターの序盤、コートに登場した香西は、すぐにアシストでチームの得点に貢献。その後も香西らしい“早く、丁寧な”プレーが光った。
しかし、チームとしては上がり切らず、中盤以降、再び試合の流れはブルズへ。点差はさらに広がり、16-43と大差で試合を折り返した。
このままワンサイドゲームでいくかと思われたが、第3クォーターに入ると、ランディルが息を吹き返したかのように猛追を見せた。第4クォーターに入っても、ランディルの勢いは止まらず、次々と得点を挙げた。前半を終えて27点あったその差は徐々に縮まり、シュートが決まるたびに超満員のスタンドからは大歓声が沸き起こった。しかし、やはり前半での大差が最後まで大きく響き、ランディルは猛追を見せたものの、61-73で初戦を落とした。
この試合、香西のプレータイムは第2クォーターのわずか約8分にとどまった。だが、チームが後半に見せた“猛追劇”の要因の一つには、香西のハーフタイムでの“提案”があったと考えられる。
「前半、うちのオフェンスはハーフコートでの単純な2on2ばかりで、相手にはそれがほとんど読まれていました。だから、後半はクロスピックなどの動きを取り入れたらどうか、という話をしたんです。それを(第3、4クォーターに出た)5人がコート上でどう話し合ったのかはわかりませんが、実際、そういう動きが出ていたのは確かです」
その提案には、こんな理由があった。第2クォーター最後のラインナップの際、相手のエース級の選手が盛んに叫んでいたのが「Only Hiro!」という言葉だった。
「結局、僕さえ抑えれば、このラインナップは動きが止まるから、ということを相手は読んでいたんです。確かにその通りでした。練習ではそこで僕にピックをかけにくることもしていたのですが、それが試合では出せなかったんです。だから後半では、そういうことをしたらどうかなと」
確かに前半は、一人ひとりが一目散にハーフコートへと戻り、2on2という固定された動きが目立っていた。だが、後半は果敢にピックをかけにいったり、ペイントエリアの中と外との動きも活発化し、相手のディフェンスを崩すことに成功していた。香西の提案がチーム浮上のきっかけの一つとなった可能性は決して小さくはない。
1週間後の18日には、ブルズのホームでの第2戦が行われる。勝てば最終戦につながり、負ければ終わる大事な一戦となる。
「自分も含めて、いかに各自の役割を果たせるかだと思います。スタメンは試合の入り方が重要ですし、ベンチメンバーは途中で入った時に流れをいい方向へと変えていくことが仕事。それぞれが役割をまっとうすることが大事だと思います」
個人的にはまずは第1戦を振り返ることから始めたい、と語った香西。どんな役割を与えられても、「やるべきことをやる」のみ。ドイツリーグでの最後の戦いへの準備は、すでに始まっている。
文・写真=斎藤寿子