
2025.04.09
2月14日(現地時間13日)に敵地アラバマ州バーミングハムで行われたGリーグのバーミングハム・スクアドロン戦。第1クォーター途中からコートに立ったインアディアナ・マッドアンツの富永啓生は、最初に放ったトップからの3ポイントシュートを成功。その後も右コーナーでパスを得るとクローズアウトで飛んできたディフェンダーをサイドステップで交わしてスリーポイントを沈め、ベースライン沿いにドライブして4人の守備の注目を引き、トップに入ってきたチームメートにオープンスリーのパスを出すなど(このシュートはミスとなってしまったが)、好プレーが光った。
今シーズン自己最長の22分38秒プレーして自己最多の17得点3リバウンド。カットしたり、ゴールに向かって飛び込んだり、コート上で動き回る富永は、生き生きしていた。
その前のカレッジパーク・スカイホークス戦でも19分15秒のプレー時間を得て10得点、さらにその前の3試合でも計約26分プレーして20得点していた富永は、「出たら全然できるだろうなと思ってたので、別に何がびっくりしたことはない」と、さらりと言った。
コートに立てれば結果は出せる。富永啓生はじっとそれを待っていた [写真]=Getty Images
昨年、ネブラスカ大学を10年ぶりにNCAAトーナメントに導くなど、華々しいシーズンを送った富永だが、NBA挑戦の第一歩を踏んだ1年目は、出場機会がなかなか得られず、自らを見せることができない日々が続いた。シーズン後半にはチャンスを生かし、約21分出場したレギュラーシーズン最終戦では13得点3リバウンドもマークした。しかし、プレーオフでは2Way契約選手3人に加え、本契約のルーキーが1人入ったチームにおいて、2試合とも出番を得ることができないままシーズンが終了。シーズン開幕からウィンターショーケースまでの“ティップオフ・トーナメント”と、その後始まった“レギュラーシーズン”を合わせて50試合中25試合に出場、1試合平均7.8分プレーし、3.4得点と不完全燃で幕を閉じた。
それは、トレーニングキャンプから始まった。ペイサーズとエグジビット10契約(以降E10) を結んだ他の選手同様、楽しみにしていたトレーニングキャンプに参加できなかったのだ。
多くのチームは、E10選手もトレーニングキャンプロスターに含めて空いたロスタースポットを争わせる。メンフィス・グリズリーズの河村勇輝はそのチャンスをものにして、E10から2Way契約の座を手に入れた。
だが、ペイサーズは昨シーズン、イースタン・カンファレンス決勝に勝ち進んだメンバー15人のうちスターター全員を含む13人が残留(そのうち1人は無保証でロスター枠を争う立場だった)。2選手を新しく追加したためロスターに空いているのは1枠だけで、2Way契約3人と無保証で契約したフリーエージェント1人を含めた19人でトレーニングキャンプをスタートさせたが、最終的に1つの枠を埋めることなくレギュラーシーズンを迎えた。
それに伴い、富永らE10の選手らは、キャンプ前にペイサーズから解雇という段階を経て、傘下のマッドアンツに移った。
富永によると、「最初からその辺りは何となく聞いていた」そうで、キャンプが始まったときには「もう割り切れていました」と言う。とはいえ、NBAのトレーニングキャンプの時点では、Gリーグチームの選手が揃っているわけもなく、「人数もいないから(同じ契約の選手らと)1対1、2対2、3対3をやっていた感じで、たまにコーチ陣が来て、5対5をやったりしていました」と富永。「だけどその期間も1~2週間ぐらいだったと思います」。他チームでは、E10の選手がNBAのプレシーズンゲームでチャンスをつかもうと奮闘していたが、富永は自らのチーム事情を淡々と受け入れていた。
Gリーグのシーズンが始まり、試合にあまり出られず悶々としていたであろう日々も「いや、本当にこれといって何も考えずに、やれることをやるということだけを考えていました」とあっさり。プレー中は派手な“セレブレーション”が飛び出すなどノリノリの富永だが、コートを離れると「猫のようにおとなしい」と父の啓之さんが言うほど感情をあまり外に出さない富永は、常に冷静だ。
もちろん、気分が晴れないこともあっただろう。そんなときに家族ら以外で自らをホッとさせてくれたのが、飼い犬のボウ。ネブラスカ大のときから飼っていた犬で、一緒にインディアナへ引っ越してきた。「すごくリラックスできます。やっぱ、かわいいじゃないですか。癒されます」と表情を緩めた富永。バスケットボール以外の“特技”でもある料理もその一つで、「間違いなく気分転換になります」と笑顔を見せた。
最初は「新しい場所、リーグということで慣れるのに少し時間がかかった。バスケットのペースもそうですし、リーグによって違うバスケットスタイルだったり、そういうところ。ちょっとした違いなんですけど、戦う相手だったり、審判とか全部、諸々のところでアジャストが必要だった」と戸惑いもあったという。
だが2月4日のウィスコンシン・ハード戦から3月10日のデラウェア・ブルーコーツ戦まで8試合連続3ポイントを成功、その間の3ポイントシュートの成功率は61.9パーセントと次第に本領を発揮し、「最初の時に比べたら、そういったことをあまり考えず、出た時に自分のプレーを普通にやればいいと考えられるようになりました」。
“ティップオフ・トーナメント”で出場した11試合では、1試合平均6.7分の出場で0.8得点だったが、12月28日から始まった“レギュラーシーズン”では、34試合のうち出場14試合で平均8.7分のプレーながら、5.4得点と向上した。
同チームのトム・ハンキンスヘッドコーチは、富永のシーズンを通しての成長について、「ディフェンスはずっと良くなっているし、フィジカルも強くなった。ネブラスカ大が所属しているビッグテンカンファレンスの大学バスケとはまた違うレベルのスピードのゲームの中でどうプレーするかも学んでいる。その面ではまだアジャストしているところだが、それに関しても前に比べると非常に良くなっている」と褒め、今後の課題について、「 ボールハンドリングをもっと良くする必要がある。そして引き続き体を大きく、強くすることだ。このリーグの選手たちは啓生よりサイズがあるからね。一方で、彼はとてつもなくいいシューターだし、いいパッサーだ」と話した。
プレー機会を得られない辛さはもちろん承知で、その上で「非常に良く対応している」と同ヘッドコーチ。「彼はとてもいい人間であり、非常に賢明な選手。尊敬の念に満ちている。今シーズンのような経験は今までになかっただろうが、プレーしていないときもしっかり見て学んでいる。それは、彼がチャンスを得たときのプレーを見ればわかる」と評価した。
夢に最も近い場所で、決して楽しいとは言えない経験をした。だが、そんな中でもシーズン後半は生き生きとプレーできる時間を自らの力で作り出した。限られたプレー時間であっても「楽しむ」展開に持ち込めたことは自信となったはずであり、チャンスを得るために努力を続け、強い精神力で臨んできた日々を通して、プレーヤーとしても人間としても「成長できている」と感じられたことは、大きな財産だ。
そして、このすべての経験が、いつか日本代表でも役立つときが来ると信じている。
「その自信というのはもちろんあります。シュートで貢献したいというのはありますが、ディフェンスだったり、体作りは今特に取り組んでいる部分です。自分がもっと成長することで、日本のレベルアップの助けになりたいと思いますし、そのために1日1日しっかりやっていきたい」
自らの夢のNBAと自らのバスケ人生で欠かせない日本代表。その2つがある限り、どんな辛い思いがあろうとも、富永は走り続ける。
文=山脇明子
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