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『B MY HERO!』
WNBAで2年目を迎えたケイトリン・クラーク(インディアナ・フィーバー)は、卓越したプレーのみならず、リーグの収益構造にまで大きな革命をもたらしている。
インディアナ大学コロンバス校でファイナンスを教え、評価額算出の専門家でもあるライアン・ブルーワー准教授は、インディアナの新たなスターがもたらす“数字”に着目。同選手の爆発的な人気が生み出す観客動員数とグッズ売上の急増、そして歴史的な視聴率記録などから、インディアナポリス・スター紙の依頼でWNBAへの経済効果を試算すると、ルーワー准教授が叩き出した数字は、目を疑うようなものだった。同氏は、クラークが昨シーズン、リーグ全体の経済活動のうち26.5パーセントを生み出したと結論づけたのである。これはもちろん、クラーク1人でのことだ。
クラークは、ルーキーイヤーを超えられるのだろうか。リーグは消化試合がわずか4試合のため、十分なサンプルとは言い難いが、スタッツは横ばいからやや右肩下がりという印象。リバウンドとアシストでは前年を更新中だが、得点とフィールドゴールならびにフリースロー成功率がわずかに低下しており、ライバルからの厳しいプレッシャーへの対応が求められている。
しかし、ビジネス面での影響は計り知れず、ブルーワー准教授は今シーズンの試算された数字について、非常に良い印象を受けている。
「昨シーズンと同じ状況で、ホームゲームが22試合に増え、インフレ率が緩やかだと仮定すると、(クラークの経済効果は)8億7500万ドル(約1250億円)になります。また、状況次第では10億ドル(約1430億円)超えも十分あり得るでしょう」
今シーズンのWNBAの強調材料のひとつに、新球団の加盟が挙げられる。ゴールデンステイト・ヴァルキリーズは、2008年以来、初の新規加入球団となり、リーグは13チームに拡大。これにより、レギュラーシーズンの試合数も年間22試合へと増加することとなる。
それでも、クラーク効果には遠く及ばない。参考までに、クラークのWNBA入り前後によるリーグデータの比較を紹介したい。
2023年、WNBAのリーグ平均観客数は、6615人だった。しかし、クラークが加入した2024年は、9807人へと飛躍。また、クラークが所属するフィーバーの平均観客数は1万7035人と、リーグ平均の約2倍にもおよび、これはプレーオフで躍進するインディアナ・ペイサーズをも上回る動員数だった。
また、昨シーズンのフィーバーは「ESPN」、「ESPN2」、「ABC」、「CBS」、「NBA TV」の全放送チャンネルでWNBA史上最多の視聴率を記録。「ESPN」のリーグ平均視聴者数も120万人となり、歴代最高をマークした。一方で、グッズ売上も爆増の二文字にふさわしい。米スポーツ用品チェーン「DICK’S Sporting Goods」の売上は前年比プラス233パーセント、リーグの公式ECパートナーである「Fanatics」のWNBA関連の売上は前年比プラス500パーセント以上となり、ファンビジネスにも大きく貢献。「Fanatics」の広報担当者いわく、クラーク選手は全スポーツで売上高上位20位以内にランクインしており、NBAを含む全バスケットボール選手の中では6位にランクインしているという。
クラークの影響は、2025年も衰える兆候が見られない。母校アイオワ大学で行われたインディアナ大学とのプレシーズンゲーム視聴者は、「ESPN」で130万人に到達。『NBC』によれば、これは2010年以降のNBAプレシーズン中継で3番目の記録となり、これを上回るゲームにはどちらもレブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)が出場していた。
オンラインチケット販売サイト「StubHub」の今シーズントップ10の高額試合は、全てフィーバーの試合となり、アウェイでは平均チケット価格がプラス140パーセント、平均価格は312ドル(約4万5000円)を記録している。
ブルーワー准教授は、球団や地域にもクラーク効果が如実に現れているという。「Sportico」が推定した2023年の球団価値は9000万ドル(約128億円)だったが、同氏の資産では3億4000万ドル(約485億円)まで急騰。さらに、世間がクラークへの関心を損なわなければ、インディアナポリス市にも4100万ドル(約59億円)の経済効果が見込まれるという。
もちろん、バスケットボールは集団競技であり、クラークの存在だけでリーグは成立しない。それでもブルーワー准教授は、このように指摘する。
「(エンジェル・)リースのようなライバル選手の存在も重要ですが、クラークこそが競技を照らす光なのです。彼女は従来のWNBAファン層に新たな人口を呼び込み、コーポレートスポンサーの関心も加速度的に高めています」
WNBAは、2026年にトロントとポートランドに新設球団が追加され、同年からは現行の約3倍となる総額約22億ドル(約3140億円)のメディア権契約が開始される。また、これを見越して選手会は昨年10月の労使協定を破棄し、新協定でのサラリー増を検討中。内容がアップデートされれば、選手たちにも大きな経済効果がもたらされることになる。
クラークはまさに、WNBAの“ビリオンダラー・エンジン”だ。米女子バスケ界では、3×3の新リーグ「Unrivaled」もスタートし、過去最高の隆盛期に突入。世界は今、クラークを中心とした女子プロスポーツの革命に直面している。
文=Meiji