2020.09.21
14年間、フェニックス・サンズの理学療法士を務めたマイク・クラークは、「最近の若い選手は、フェラーリのようにパワフルなエンジンを持っているが、ブレーキやサスペンションは、よくあるセダンのようだ」と語る。
鳴り物入りでNBAに入ってくるルーキーのなかには、初年度からリーグの一流選手たちと台頭に渡り合う強靭なフィジカルを持つ者もいる。しかし、彼らの一見優れたフィジカルも、プロのアスリートとしては未完成。ポテンシャルを最大限に引き出し、ケガをしないカラダづくりには、スポーツ科学の側面から肉体を分析し、選手個人に適したトレーニングが必要となる。
NBAドラフト2020のドラフト1位、ザイオン・ウィリアムソン(ニューオーリンズ・ペリカンズ)は現在、プレーの質以上に、自身の肉体と向き合うことを求められているかもしれない。『ESPN』は、ザイオンに“前例のない選手”という見出しをつけ、モンスター級の運動神経とそれに伴うリスクを考察している。
NBAの某ゼネラルマネージャー(GM)は、ザイオンについて「NBAに身長198センチ、体重128キロのウィリアムソンよりも強靭なエンジンを持つ選手は、リーグに誰一人存在しない」と、同選手の爆発力を高く評価。
また、ザイオンが高校時代のエピソードだが、これまで600人以上のNBA選手を評価してきた最先端のスポーツ科学ラボ「P3」で垂直跳びの計測を行った際、同選手は84センチの跳躍を記録したそう。これは、アンドリュー・ウィギンス(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)の91センチに負けずとも劣らない数値であるが、ザイオンがウィギンスよりも37キロ、ウエイトが重いことを忘れてはいけない。計測時、リアルタイムで観察していた研究者たちのPCは、一気にレッドゾーンへとゲージが振り切れたそうで、バイオメカニクス部門のディレクターは「彼のような体型の人が、あそこまで高く飛べるわけがない」と、驚きを隠せなかったという。
しかし、類稀な運動能力は諸刃の剣でもあり、ザイオンはケガのリスクが懸念され、減量の必要性が指摘されてきた。
ただ、スポーツ科学の観点から見ると、必要なのは減量ではなく、バランスの取れたカラダづくりである。ペリカンズのデビッド・グリフィンGMは、球団のホープのケアを最優先事項のひとつと認識し、彼の成長を注意深く観察しているという。ケガから復帰までの期間中、チームはザイオンに「チェックリスト」を用意し、各項目をクリアするまで、プレーを許さなかったという徹底ぶりだった。特に、ザイオンには長期的な活躍を期待しているため、彼のブレーキ、すなわち下肢のフィジカル向上に注力させたそう。これは、ザイオンがリーグに適応し、快適にプレーするために非常に重要なことだと説明している。
しかし、怪物のコントロールは、スポーツ科学に深く精通する一流でも骨を折る作業のようだ。ペリカンズは、オフシーズンに1週間、ウエイトリフティングのトレーニングを実施。すると、ザイオンは期間中のわずか7日で、体重が3.6キロも増加したという。
しかし、ザイオンは前例のない超人である。データのない怪物と、球団がどのようにして付き合っていくか。ザイオンを次世代のGOAT(史上最高の選手)へと押し上げることができるかは、ペリカンズのフロントおよびコーチ陣の手腕にかかっている。
文=Meiji
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