2021.07.09

NCAAが学生アスリートの肖像権収入を容認…米スポーツビジネスはさらに加速か

NCAAが学生アスリートの肖像権収入を容認した[写真]=Getty Images
某ストリートメディアのシニア・エディターを経験後、独立。ひとつのカルチャーとしてバスケットボールを捉え、スポーツ以外の側面からもNBAを追いかける。

 長らく課題とされていたNCAA(全米大学体育協会)所属選手の給与問題。これまで大学に所属する選手はプロに匹敵する振る舞いを求められながらも、所属校からのサラリーはもとより、スポンサー契約を結ぶことのできない取り決めとなっていた。

 その一方で、NCAAは全米トップクラスのスポーツビジネスとして多額の収益を得ている。その収益はMLB(メジャーリーグベースボール)に匹敵するとまで言われており、この体制についてはドレイモンド・グリーン(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)やベン・シモンズ(フィラデルフィア・セブンティシクサーズ)をはじめ、多くのNBA選手が苦言を呈していた。

グリーンを始めとした多くのNBA選手がNCAAを批判していた[写真]=Getty Images


 こうしたNCAAの構造的な問題を受けて、最近は高校のトップ選手たちが大学進学ではなく、NBA Gリーグイグナイトに加入し、一足先にプロデビューを選択するケースも目立っていた。

 しかし、NCAAは世間からの非難を受けて、遂に学生アスリートの肖像権による収益化を容認。去る7月2日(現地時間1日)、協会は大学生アスリートが“NIL(=Name, Image and Likeness)”に含まれる自身の名前、画像、肖像の3つを利用して収入を得られる暫定政策を発表した。

『CNBC』によると、アラバマ州、フロリダ州、ジョージア州、ミシシッピ州、ニューメキシコ州、テキサス州などを含む一部の州では今年、NCAAアスリートがNILの収益化を許可する州法が施行されるという。ただし、NCAAが発表した新ガイダンスでは、連邦法がない場合でも学校が所在する州の法律に準拠している場合、学生たちはNIL活動に参加することが容認されており、NIL関連の法律がない州でもNCAAの違反対象にはならないようだ。

大学でプレーを続けたほうが早期プロ入り以上に稼げる?

 
 NCAAの社長マーク・エマートは、今回の発表にともない「本日は、カレッジアスリートたちが名前、画像、肖像の利用が許可された記念すべき1日です。我々は議会と協力して、国全体で採用されている様々な州法と共に、国家レベルでの明確性を提供するソリューションを開発していく所存です。現在の環境(法律および立法)は、私たちが永続的な解決策を見出し、学生アスリートに詳細を示す上での妨げになっています」とコメントし、状況のさらなる改善を約束している。

 スポーツマーケティングエージェンシー「rEvolutionMarketing」の副社長を務めるラリー・マンもエマートの意見に同意している。現在の州法を考慮すると、NILのポリシー変更は“不可避”であり、変更されれば多くのアスリートが収益面でメリットを得られると予見している。

「私は、有名な男子フットボールや男子バスケットボール選手たちが、これでお金持ちになれるとは思っていません。例えば、著名なアメリカンフットボール選手がNFLに入団した場合、彼はカーディーラーなどのスポンサーシップから受け取る金額の20倍の契約金を手にします。ですが、これは一部のオリンピックアスリートや露出の少ない選手たちにとっては大きなメリットになる可能性を秘めているでしょう」

 これにより、大学生アスリートはブランドやメーカーからスポンサードを受け取り、SNSでの影響力を収益化し、エージェントとの契約が可能になった。フレズノ州立大学のバスケットボール部に所属する双子のハンナとヘイリー・カビンダー姉妹は、すでにスポンサー契約を締結。また、一部のエージェントたちのなかには、大学でプレーを続けたほうが早期プロ入り以上の収入を見込めると考えている者もいるようだ。

フレズノ州立大バスケ部のハンナとヘイリー・ガビンダー姉妹は早くもスポンサー契約を締結[写真]=Getty Images


 これまで搾取されるだけだった大学アスリートたちにとって、NILの新ガイドラインは大きな意味を持つだろう。無論、意味を持つのは選手たちだけではなく、スポンサー締結を望む企業間の“青田買い”は激化し、プロスポーツにも影響があるのは間違いない。

 数年後、この決断がどのように作用していくのか。今後はNCAAからもしばらく目が離せなさそうだ。

 文=Meiji

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