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試合の大勢は決していたかもしれない。しかし、その時間帯は大神雄子(おおが・ゆうこ)の独壇場だった。第4ピリオド1分18秒、大神の3ポイントシュートが決まり33-59。点差を見れば逆転は現実的ではない。しかしその1分17秒後、再び背番号1がネットを揺らすと、ゲームを優勢に進めるJX-ENEOSサンフラワーズはたまらずタイムアウトを取った。
再開後、石原愛子のファウルを受けた大神は2本のフリースローを沈め、さらに水島沙紀のスティールからまたも3ポイントを決める。残り6分51秒で41-59。それまで沈黙していたキャプテンの奮闘に会場が沸いた。
大神は最後の10分間だけで14得点を挙げ、両チームトップタイのスコアを記録した。しかし、トヨタ自動車アンテロープスは終盤で力尽き、51-75の完敗。Wリーグ・プレーオフ・ファイナルでJX-ENEOSに3連敗を喫し、Wリーグ9連覇を許した。
ファイナルに勝ち進んだとはいえ、“女王”に実力の差を見せつけられた。大神もその事実を素直に認める。「(JX-ENEOSは)日本代表の選手がそろっていて、すべてにおいて自分たちよりも上」。シーズン無敗で2冠を達成した“無敵”の相手に、第2戦こそ63-74と熱戦を演じたが、第1戦に続き第3戦も大差で敗れた。
格上相手に勝つには何が必要なのか。大神の答えは明確だ。「一つでもミスをすれば負ける。そのミスが出ないよう40分間集中してプレーできれば勝てる」。そのためには「全員が同じ方向を向いて、120パーセントの準備して、120パーセントの試合をしないといけない」。それを実践するために、大神自身もチームも成長途上にある。
トヨタは今シーズン、韓国人のストレングスコーチを迎え、時間配分も変えて個々人のスキルトレーニングが効率良くできるようになったという。リカバリーなども含めて練習内容は大きく改善した。加えて大神は食事法や睡眠法も刷新。カーボ・ローディングという栄養摂取法を採り入れ、小麦製品を控えるグルテンフリーの生活を心掛けている。
「夜ご飯は炭水化物を減らしたり、乳製品を少しずつ減らしたり、間食はバナナにしたり。朝はオートミールを食べています。本当はパンが好きなんですけど」と笑みを漏らす。その結果、34歳にして“肉体改造”に成功。コート5往復を1分目安で走るランニングトレーニングでは、タイムが数秒短縮した。そして、試合終盤にパフォーマンスを発揮できる体力と集中力を手に入れた。
この試合を振り返ると、大神をスコアラーに専念させたらどうなっていたのか、とも安易に考えてしまう。しかし、本人はこう返す。「そういう良い時間帯はチームメートそれぞれに訪れる。自分の時間帯、水島の時間帯、栗原(三佳)の時間帯。ポイントガードの自分がその起点になれず、みんなの良さを引き出せなかった」。なぜそう考えるのか。「トヨタのバスケットはみんなでボールを回して、動いて、ドライブしてというスタイル」だからだ。
今シーズンはJX-ENEOS相手に打つ手がなかったように見えた。ただし、大神が言うバスケットができればその差は縮められるはずだ。第3戦のシュート本数はJX-ENEOSの66本に対し、トヨタは68本。しかし3ポイント成功率は25パーセント、2ポイントも29.5パーセントと、どちらもJX-ENEOSより10パーセント以上下回った。“たられば”だが、連動性を高めてディフェンスを崩し、水島が、栗原が、森ムチャがあと数本ずつ決めていたら――。「もっともっと成長できる」。力強く前を見据える大神が、トヨタを一段上のチームへと先導する。
文=安田勇斗