2017.11.22

【緊急企画】バスケ観戦の達人に聞く~番外編 全力さん(サッカー日本代表サポーター)の場合

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スポーツ観戦の楽しみ方は様々だ。生ビールを片手に熱視線を送る人、家族連れで週末の余暇として楽しむ人、その競技自体の魅力にじっくりと浸りたい人、スタジアムグルメを満喫する人、恋人と一緒に試合そっちのけで見つめあう人…。

そんな多種多様の楽しみ方ができるのもスポーツの魅力の一つだが、その中でも最もメジャーなスタイルが“応援する”ことだろう。スポーツ観戦=“応援する”ということに必ずしも直結はしないと思うが、好きなチームを応援するためにスタジアムやアリーナに足を運ぶ人は珍しくない。応援を楽しむ人たちはバスケ観戦の達人とも言える。

11月24日(金)のホームゲーム、バスケットボール男子日本代表が駒沢体育館にてフィリピン代表を迎え撃つ大一番に大応援団を組織したバスケットボールキングでは、改めて「応援」について考えてみることにした。これまでの3回はバスケットボールのサポーターの方にお話をうかがってきたが、今回はバスケから離れてみようと思う。“応援”ということでは、バスケットボールの先輩的な存在であるサッカー日本代表の、熱狂的なサポーターをお招きした。

その方とは、『全力さん』。サッカー、特に日本代表のサポーターの中で知らない人はいないと言われ、その名前のとおり常に全力で代表を応援する姿勢に多くの人たちの共感を呼んでいるという。その全力さんに応援へのこだわり、そして、代表を応援することの意義を語っていただいた。きっとバスケットボールのサポーター・ブースターの皆さんにも共感できることが多いはずだ。

インタビュー=入江美紀雄
写真=山口剛生

――――意外と大きな方なのでびっくりしました。バスケ部に誘われたりしませんでしたか?
全力さん 一応ありましたけど、断りました(笑)

――――実際サッカーやられていたのですか?
全力さん 球技は全くやっていませんでした。サッカーもまだ遠い存在でした。

――――ではサッカーを応援されるようになるきっかけは?
全力さん 2000年のシドニーオリンピックをテレビで見ていて、日本代表が活躍した試合を見たのがきっかけでサッカーが好きになったという感じです。その後、2007年からは東京ヴェルディを応援するようになります。今となればおぼろげな記憶なのですが、シドニーオリンピックを見て「あー、楽しそうだな」、そして、2002年の日韓ワールドカップでどんどんハマっていくうちに、全部が好きになった感じですね。そこから本格的に選手も好きになり、サポーターの雰囲気も好きになっていきました。

――――実際に応援はいつから?
全力さん 応援を始めたのは2007年ぐらいからです。初めてスタジアムに行ったのが2003年の代表戦で、その頃からちょくちょく代表の試合を見に行くようになります。ワールドカップの予選にも行きたかったのですが、なかなかチケットが取れなくて。この頃はまだ観ているだけの観戦で最初に応援を始めたのはヴェルディ戦、ここで応援にハマって代表も応援しようということになっていきます。

 そのヴェルディ戦がFC東京との試合で、いわゆる東京ダービーと言われていました。その試合はFC東京側のゴール裏がいっぱいだったので、ヴェルディのほうに行ってゴール裏の端っこに座りました。そこでチャント(応援歌)やコールが楽しくて、また行ってみたいなと思い、それがいつの間にかこのように応援するようになっていったという感じです。

――――思い出に残っている試合はありますか?
全力さん 前回のブラジルワールドカップの本戦出場を決めたオールトラリア戦は印象に残っています。ワールドカップ出場を決めた瞬間を初めて目の前で見られました。そして、もう1つが旧国立競技場で見た2003年のナイジェリア戦です。ずっと行きたいと思っていた代表の試合を初めて見ました。ゴール裏の端っこの一番上の席でしたけど、念願がやっとかなったわけです。

――――今の応援スタイルになっていくのはいつ頃?
全力さん 2009年の4月ぐらいですね。選手が頑張っているのだから、自分も頑張ろうと。最初は1人でやっていたので恥ずかしいとも思っていたのですが、そんなこと言っていられない。そのうち、だんだん仲間が増えていくのですが、最初は1人でした。

――――そうされたのは「応援しなければ」という決意なのか、それとも「応援することは楽しい」という気持ちだったのですか?
全力さん どちらもですね。応援して勝ったら楽しいし、負けたら悔しい。でも、次に勝ったらうれしいんです。選手もチームも好きなので自然と応援したい気持ちが強くなっていきました。

――――応援の方法もいろいろあります。不甲斐ないプレーにはブーイングを浴びせることもあります。特にゴール裏は激しい印象があります。
全力さん 自分は苦手なのでブーイングはしません。基本「頑張れ!」です。でもブーイングは全然いいと思いますよ。良くないのは野次です。野次には愛がない。逆にブーイングは愛情の裏返しなのです。ブーイングには激励の意味が込められていると思います。「そこで頑張ってくれよ」という思いがあるわけです。でもここをごっちゃにしている人は多いですね。野次は一般のお客さんのほうが多いですと思います。仲間意識を持っていればこそのブーイングなのですが、野次は不満のはけ口なので絶対選手への後押しにはならないです。

――――サポーターの気質に変化はあるのですか?
全力さん クラブはほとんど変化がないと思うのですが、代表戦に関して昔から応援されている方には「今は甘くなった」と言われます。代表を後押ししようというより“お祭り”的な感じです。というのも代表戦になれば普段サッカーを見ない方も大勢スタジアムにやってきます。ヨーロッパで活躍する選手を目の前で見られるのですから当然だと思います。でも、そうなると応援するというよりも、選手やプレーを見るほうが主になってしまいます。しかし、クラブであれば《生活の一部にある自分達のクラブ》を応援するつもりで来る人たちがほとんどなので、そういうことがないわけです。

――――全力さんはそういう人たちをリードするのも役割ですか?
全力さん コールリーダーは他にいて、自分は一般のお客さんをあおったり、盛り上げたりしていますね。中にはゴール裏で一緒に応援したくてもそこに入れない人たちも結構います。そういう人たちを引き込むのが自分の仕事です。手拍子や声を出したいけどちょっと恥ずかしい。でも尻込みしている人たちにきっかけを与えてあげて、それで「また応援に行こう」と思ってもらえればという感じですね。

――――応援に関して、いろいろとこだわりがあると聞いています。
全力さん まずシューズです。選手がスタジアムに入ってウォーミングアップを始めた段階から応援を始めるので、約2時間それが続きます。この間はずっと飛び跳ねているので、シューズの軽さと衝撃吸収性にはとてもこだわります。

 次に食事です。一応前日は、油物は取りません。揚げ物とかラーメンとか、こってり系は控えます。そして試合当日は応援が始まる4時間前を切ったら固形物は取りません。飲み物はスポーツドリンクか麦茶がいいですね。ウーロン茶はカフェインが入っていて、利尿作用があるので脱水症状を起こしてしまうことがあるようです。それに脂分も奪ってしまうので、声が枯れてしまいます。なのでスポーツドリンクと麦茶をおススメします。

――――おっしゃっていることがアスリートですね。願掛けとかルーティーンはあるのですか?
全力さん 願掛けは好きではありません。それに頼ってしまうイメージがあって。自分で勝ちに導きたいという想いのほうが強いです。

――――試合が終わるとフラフラだとは思うのですが、それから打ち上げや反省会をされるのですか?
全力さん 汗だくだから早く帰ってシャワー浴びて横になりたいので基本的に直帰です。

――――そもそもどうしてそこまで応援にこだわるのですか?
全力さん いくつか理由があります。先程のお話したように、単純にチームと選手が好きなので応援しています。一応、自分のことをサポーターと思っているので、サポーターだからしっかりやらなければいけないという認識です。サポーターだからこそ、チーム・選手を支える義務感と使命感が必要なんです。

――――選手とサポーターは一心同体なのですね。
全力さん 仲間が頑張っているんだから自分も頑張ろうという強い気持ちがあります。代表といっても、1つのチームです。そこには選手がいてサポーターがいて、監督、スタッフ、そして協会、さらにはスポンサーもすべてが仲間、ファミリーなのです。だから試合中は手を抜かないし、常に声を出します。そこで手を抜いてしまったら、それが原因で負けてしまうかもしれない。選手だったらブーイングされるべきことなのですから、自分たちも怠らないようにしなければいけないのです。

――――バスケットボールのサポーターやブースターの人たちに何かアドバイスはありますか?
全力さん バスケットボールの代表にはまだ応援団というものがないと聞いています。バスケットボール自体、まだまだマイナーだと言えるかもしれません。だからこそ、一緒に成長していけると思うのです。本気の人たちが集まれば、そこで生まれるパワーはかなり大きなものです。それは選手にも伝わりますから、代表戦では何かが絶対起きます。化学反応ですよね。そうしてどんどん盛り上がっていけば、今度はマスコミが取り上げてくれるようになり、一般のお客さんも増えていく。今度はその人たちも巻き込んでいけば、応援の輪が広がっていくと思います。

――――「面白そうだから一緒に応援しよう」という人も増えていきますね。
全力さん はい。リーグ戦の集客にもつながっていくでしょう。代表はサポーターも含めてファミリーなのですから、その仲間意識をぜひとも高めていってください。自分たちがサッカーでできたように、バスケットボールでも常に一緒に戦う人たちが増えていくはずです。期待しています。

――――サッカーの代表は来年のロシアワールドカップの出場を決めました。その試合も応援に行かれていたのですか?
全力さん 行っていました。でも試合終了の笛が鳴った時の記憶がないんです。その時は疲れ切っていました。帰りの電車に乗ったくらいでしょうか、安ど感に包まれました。大体いつもこんな感じです(笑)

――――ロシアには行かれるのですか?
全力さん 残念ながら代表の応援に国外まで行ったことがないのです。もし行けなければ日本で応援することになると思います。パブリックビューイングでどこかのスタジアムに集まるのでしょうが、ここでも決して手は抜きません。ファミリーなのですから。ロシアにいなくてもメディアの方を通して日本の盛り上がりが伝わるものがあるし、逆に自分たちが手を抜いてしまったら、日本では盛り上がっていないと錯覚させ足を引っ張ることになるかもしれません。どこにいても、日本代表を持っている力を出し切って応援するのみです。

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