2017.11.15

【緊急企画】バスケ観戦の達人に聞く~第3回 すべすべさんの場合

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スポーツ観戦の楽しみ方は様々だ。生ビールを片手に熱視線を送る人、家族連れで週末の余暇として楽しむ人、その競技自体の魅力にじっくりと浸りたい人、スタジアムグルメを満喫する人、恋人と一緒に試合そっちのけで見つめあう人…。

そんな多種多様の楽しみ方ができるのもスポーツの魅力の一つだが、その中でも最もメジャーなスタイルが“応援する”ことだろう。スポーツ観戦=“応援する”ということに必ずしも直結はしないと思うが、好きなチームを応援するためにスタジアムやアリーナに足を運ぶ人は珍しくない。応援を楽しむ人たちはバスケ観戦の達人とも言える。

11月24日(金)のホームゲーム、バスケットボール男子日本代表が駒沢体育館にてフィリピン代表を迎え撃つ大一番に大応援団を組織したバスケットボールキングでは、改めて「応援」について考えてみることにした。今回お話をうかがうのは、『すべすべさん』。アースフレンズ東京Zをきっかけに日本のバスケットボールに興味を持つようになったというすべすべさんは、SNSをツールにバスケットボールの楽しみ方を伝授してくれている。

しかし、そもそもすべすべさんたる人物はいったい誰なのか? その姿を見たことがある人も多いと思うが、あの仮面の下はどうなっているのか? 以前からNBAクラスタ(熱狂的なファン)の間ではアイコン的な存在だったすべすべさんは、なぜ今、日本のバスケットボールに夢中なのか? これらをじっくりうかがう機会を得た。

インタビュー=入江美紀雄
写真=山口剛生

――すべすべさんがバスケットボールに夢中になるきっかけは何だったのですか?
すべすべさん 僕は今39歳なんですが、ちょうど中学2年生の時にバルセロナオリンピックがあり、ドリームチームが世界中をにぎわせました。そして、日本にもNBAブームがやってくるのです。当時、兄がバスケットをしていて、家族を説得してBSのアンテナを引いて、NBAをテレビで見るようになるのですが、最初は全然興味を持ちませんでした。ただ家でNBAを見られる環境が整い、さらにおしゃれに目覚める年ごろでもあったので、バッシュを買ったのです。フィラの、ケビン・ジョンソン(KJ)が履いているモデルでした。でも本当にそれが偶然で。今思えば運命かもしれませんが、KJが所属しているフェニックス・サンズを応援するようになるんです。もしかして、ディー・ブラウン(元ボストン・セルティックス)のシューズを買っていたら、サンズを応援してなかったかもしれないんですよ。しかもその時の1992-93シーズンはサンズがちょうど絶好調だったので、BS放送も多くて、本当にハマるきっかけはあったかなと思うんですよね。いわば僕は“バルセロナ世代の量産型NBAファン”です。

――こうしてNBAクラスタのすべすべさんが誕生するわけですね。
すべすべさん ただバスケ部に入ったわけでもなく、自分は剣道部とか山岳部に所属してました。でも学校に行けばNBAの話で盛りあがれたんです。そういう時代でしたよね。おしゃれな雑誌にもバッシュ特集とかNBA特集とかあって。でもある雑誌にはジェームズ・ウォージー(元ロサンゼルス・レイカーズ)のことを“ジェームズ・ワーシー”って書いてあったり。「あぁ、わかんないんだな」みたいな(笑)。BSを見てないんだなってわかったりしましたね。大学生になると今度はインターネットが普及し始めます。ちょうどWindows95が発売され、多くの人がインターネットで情報を得られるようになりました。僕もNBAの情報をゲットできるようになり、そのうち、自分のホームページを持って、サンズファンやNBAファンと交流するようになります。それまでは個人的な趣味だったNBAが、多くの人たちと話ができるようになって。そして、そんな中でNBAについて自分のホームページで情報を発信することがめちゃくちゃ楽しかったんですよね。これがNBAにドハマりするきっかけになったのかなと思います。

――とはいえ、今でこそいろんなテンプレートがありますが、当時、ホームページを作るのは簡単なことではなかったと思います
すべすべさん そうなんです。そんなに簡単に作れなかったかもしれませんけど、やっぱり熱意があるとHTML(ウエブ制作のためのプログラミング言語)も研究しちゃうんです。デザインもめちゃくちゃ凝りましたよ。ただ、その頃は違うハンドルネームだったんですが、結構サンズファンの間で認知してもらえましたし、いまだに、「あっ、すべすべさんってあの人だったんですね」と言われることがありますから(笑)

――そもそもすべすべさんの由来は何ですか?
すべすべさん 本当に皆さんからよく聞かれるんですけど、別に“すべすべ”しているわけじゃありませんよ。Twitterを始める時にアカウント名をどうしようかなと思ったんですが、昔、『ハイスクール!奇面組』というマンガがありましててですね。そこに一堂零くんという主人公が出てきて、彼が『スベスベマンジュウガニ』がどうのこうのというようなくだりがあって。その“すべすべ”という語感が非常に良かったのと、以前僕はインターネットの中では尖っていまして、悪口というほど暴言ではないですが、思ったことをズバって言うタイプの人間だったのですよ。だから、Twitterではそういうのを止めようと思い、語尾に“さん”を付けて、なるべく柔らかくしていこうかなと。そういう狙いもあってすべすべさんという名前にしました。

――アイコンが決まったのはいつ?
すべすべさん 最初は忘れましたが、2番目がシャノン・ブラウン(元ロサンゼルス・レイカーズ他)のビックリした顔でした。その時は『シャノンさん』と名乗ってました。それからコジマ電気のアイコンとフェニックス・サンズのロゴを合体したものを作り、Twitterを始めて3カ月後くらいからずっとあのアイコンですね。

――ホームページといい、いろいろと自作なのですね。
すべすべさん まあ、そうですね。どっかから画像を引っ張ってきて。サンズのすべすべさんアイコンをツイートしたのが大体50リツイートくらいされて、それで結構ウケたかなっていう感じがしたんです。気を良くして、いろいろな動画を作り始めて、それで一気にNBAファンから認知してもらえたと思っています。

――そのような歴史がありながら、すべすべさんがNBAのクラスタだったことを知らない人も多いのでは?
すべすべさん 昨年、Bリーグ開幕してからフォロワーが爆発的にドバーンって増えたので、あまりNBAの人っていう認識も少ないかなと思います。でも、元々は本当に青春を費やすくらいNBAを見ていた人なんです。言ってしまえば、NBA老害なわけですよ(笑)。

――そんなすべすべさんが日本のバスケットボールにハマっていきます。
すべすべさん 今となれば、食わず嫌いだったんだなって思います。ずっとNBAをテレビの画面越しで見ていて、NBAの情報に飢えていて、選手たちは何を考えてるんだろうとか、NBAの玄人は何を考えながら見ているんだろう、なんてことばかり思ってました。英語の記事などを見ながらサンズはどうなっていくのかなんてことを探っているのが大好きだったんですけど。意外と身近に生でバスケットボールを、しかもコートサイドで数千円で見られる環境があるのを知らなかったわけです。試合を見た瞬間に、「バスケがこんなに近くで見られるじゃん」と。ライブでバスケを見るのがやっぱり好きなんだってことも再認識させてくれたし、日本のバスケの良さはやっぱり身近さですよね。

――きっかけはBリーグの開幕ですか?
すべすべさん アースフレンズ東京Zの創立がきっかけです。だから3年前ですね。当時、小野秀二(現東京Zアドバイザー)さんがヘッドコーチをされていて、渡邉拓馬(現アルバルク東京GM補佐兼アカデミーコーチ)さんなどもいましたが、実はその時は拓馬さんのこともあまり知りませんでした。後になって拓馬さんがすごい選手だってことを聞いて、だから終盤の大事なところで必要な得点をバシバシ決めるんだなって納得していたぐらいなんです。「こういう選手が日本にもいるんだなあ」って正直に思いましたし、今振り返れば本当に何も知らなかったと思います。

――NBAとは別物とみられていたんですね。
すべすべさん 全然別物でしたね。あまり興味がなかった頃に、仕事帰りの通勤電車の中で、埼玉ブロンコスのジャージを着た背の高い人がいて。「あっ、あの人多分選手なんだろうな。でも、日本の選手って、自家用車で通うんじゃなくて、電車で一緒に帰るんだと。あんまり儲かっていないんだろうな」みたいな印象でした。「きっと日本の会場って、ガラガラのアリーナで40点差、50点差くらい付いて終わるような試合をしてるんだろうな」と勝手に想像してました。テレビ中継もあまりなかったし、あまり情報もないので、知らないうちに食わず嫌いになっていたのだと思います。

――初めて訪れた体育館はどこだったのですか?
すべすべさん 確か大田区総合体育館だったと思います。1年目のアスフレはホームゲームでその体育館を使っていました。NBAのファンの方たちに誘われて行ったのですが、その試合は勝ったんです。そして、また誘われて次のカードに行くのですが、今度は手に汗握る熱戦の末に負けたんですよ。それがすごい悔しくて。次も見に行こうと思い、敗北がファンに火をつける感じはしました。そこで、すごい親近感が湧いたんですよね。選手についてよく聞くと、結構苦労をしているという。ファンと同じような目線で生活も大変だし、うまくいかない時もあるというのがとても身近だったんですよ。NBAはそういうことがないじゃないですか。チームも選手も潤っているので、そんな話はまずありません。選手の境遇が楽ではないという話はダイレクトに響きました。だからもし「NBAと国内リーグ何が違うの?」と言われたらそこですね。そこはファンとしては「応援しなきゃっ」と思います。

――自分たちとの親近感ですね。
すべすべさん しかも、自分よりもかなり若く、本当に新卒の新入社員くらいの年齢の選手が、社会のルールなどわからないところもありながらも、とても礼儀正しく接してくれて、挨拶もしてもらえると、やっぱりがんばってほしいと思うものです。アスフレだけでなく、他のチームもそうなんでしょうけど、やっぱり最初に出会ったのがアスフレなのもあり、とてもいい印象を受けました。それだからこそファンを続けられるのかなと感じてます。

――NBAは今でもご覧になってますか?
すべすべさん だから逆に日本のバスケを見た後にNBAを見ると、「あ! NBAってこんなにすごかったんだ! すげぇ! 」と。「全然マーク外さねぇ」、「ディフェンスやべぇ」とやっぱり思います。ただ日本のバスケを知ったからこそ、NBAを見る目も変わりました。もちろんレベルが高い、低いはあるかもしれませんが、逆に日本のリーグもいいところありますし。日本のリーグでスーパープレーが見られると本当に感動します。やっぱり生で見られるわけですから。肉眼で見ると、そこはもうね、心躍ります。

――それにしてもすべすべさんは試合中も忙しいですね。
すべすべさん お面をかぶって、写真を撮って、Twitterをやりながらですから。第2、第3のすべすべさんというか、影武者が欲しいぐらいですよ(笑)。

――“偽すべすべさん”出没情報も流れたりしてます。
すべすべさん 何か事件を起こさなきゃいいなと思ってるんですけどね(笑)。

――応援のスタイルとして、すべすべさんの場合は個人でされています。
すべすべさん 応援団のコールやリード的なことは、自分にはできないと思っています。正直言えば、自分の楽しみしか考えてない感じなんです。お面を被ってTwitterをやるのも、チアさんの写真を撮るのも、すべて自分のためなのです。だからそれを他の人にやろうよって思わないんです。極論を言えば、「会場を青に染めよう」とか「みんなで応援をやろう」というようなことは個人の自由だと思っているので、個人にストレスがたまらないくらいの応援でいいかなと思っています。それでも会場が青一色に染まったら感動すると思いますが、それをリードしようというのは無理ですね(笑)。でも、相手チームがフリースローの時、それを落とそうと妨害するのに工夫を凝らすというのも楽しいことだと思います。みんなすべすべさんじゃなくても、いろいろなことができればいいと思います。だから試合前に準備をするのは楽しいんですよ。こういうお面を作ったりとかね。

――アースフレンズから始まった日本のバスケへの興味は、アウェーの会場に足を延ばされたり、今シーズンになるとWリーグまでカバーされています。
すべすべさん これまで知らないことが多かったので、次から次へという感じです。多分まだいっぱいありますよね。「バスケを広めたい」という思いはやっぱり僕も持ってます。でもなかなか広めるって大変なことで、広め方もわかんないですし、それがちょっと大衆を傷つけてしまうかもしれないですし、本当にそれを広めることが大衆にとっていいことかどうかということもありますし。だからバスケに関わる人がみんな幸せになればいいなと思っています。

――改めてバスケの楽しさは何ですか
すべすべさん チアさんがナンバーワンですけど、まあそれ以外ですよね(笑)!?

――はい(苦笑)。
すべすべさん ずっとフェニックス・サンズを見てきたので、ラン&ガンの攻撃的なゲームは、本当に心踊るところがあります。また、選手がすごいハッスルするのもたまらないですね。昨日(11月11日)の金沢武士団の選手でもラインを出ちゃうぐらいのボールを何とか拾って、それをパスまでつないでダンクまで持っていったシーンが3回くらいあったので、あれは本当に敵ながらアッパレだと思いました。そういう気持ちが出るプレーが、オンコートでは一番好きですね。NBAを見ている時はそうでもなかったのですが、生で、しかも間近でプレーを見ると胸に刺さるものがあります。やっぱり他の人も見に来た方がいいって思いますもの。

――6月に長野で行われた男子日本代表の東アジア選手権には応援に行かれたと聞きました。
すべすべさん あの時は、Bリーグが終わって(バスケの)飢餓感に耐えきれず見に行きました。今の代表は選手のキャラが立っていて面白いと思います。代表でお気に入りは田中大貴アルバルク東京)選手。あのいかにも雅(みやび)な感じのプレースタイルが好きです。それに顔立ちも。あとはゴール下の番人、太田敦也三遠ネオフェニックス)選手。それに竹内公輔(栃木ブレックス)選手と譲次(アルバルク東京)選手の竹内兄弟にもがんばってほしいですね。今回、宇都直輝富山グラウジーズ)選手が候補に入ってますが、長野に見に行った時には彼が客席にいたんですよ。お互い気づいたんですけど、声は掛けず。でも帰り際に、宇都君のTwitterを見たら「なんかスマホを見てにやにやしてる人がいる。したらすべすべさんだった」みたいなツイートがあって(笑)。なので、宇都くんも応援したいですね。

――代表に何か望むことはありますか?
すべすべさん 仮に厳しい結果になったとしても、それですべてが終わるわけじゃない。ずっと日本のバスケットボールは続いていくと思っています。自分は食わず嫌いでここまで来てしまいましたが、拓馬さんなど多くの選手がそれをつないできました。そして今、Bリーグがあります。それを見ている子どもたちは「バスケをがんばろう」と思っていて、そして次世代の日本代表になっていくわけです。それをつないでいってほしい。本当は2019年のワールドカップに出てほしいし、もちろん東京オリンピックにも出場してほしいと思っています。でも、今回の予選で負けたからといって、すべてが終わるわけではないのです。だからファンをはじめ、チームもフロントスタッフも選手も本当にこれからだと思いますから。なんとかつないでほしい。本当に最初だけの盛りあがりで終わってほしくないなっていうのが今の願いです。

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