2021.01.27
2016年9月に誕生したBリーグ。華々しい開幕戦は地上波のゴールデンタイムに放送。LEDコートの敷設を含め、これまでのアリーナ演出の常識を覆すようなド派手な演出は、新しいスポーツエンターテイメントの誕生を十分に感じさせる内容であった。あれから1年。誕生時のような派手な開幕プロモーションはないものの、各クラブのホームアリーナへ足を運ぶファンも少しずつ増加している。
2017年11月に発表された『B.LEAGUE Monthly Marketing report』によると、観客数は、B1、B2を併せて昨年比4パーセント増加、特筆すべきはB2で21パーセントの増加を見せている点だ。昨季B1で戦った人気チーム、秋田ノーザンハピネッツがB2へ降格したことも観客の大幅増の一因と考えられるが、今季の観客動員で大幅に貢献しているのが、ファイティングイーグルス名古屋(以下、FE名古屋)だ。FE名古屋は昨年平均で887人、B2全体の14位と集客に苦戦。今季は現時点で平均1992人の4位と躍進を遂げている。シーホース三河、名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、三遠ネオフェニックスと愛知県内にはプロバスケットボールチームがひしめきあっており、B2所属となるとどうしてもニュースで取りあげられることも少ない。
『バスケットボールキング』では、今季観客動員で健闘するFE名古屋について、選手たちのインタビューを通して、どのようなチームなのかを探ってみた。
連続インタビューの最後を飾るのは、チーム期待のガード、福澤晃平だ。24歳の福澤は177センチとやや小柄だが、正確なアウトサイドシュートを武器にルーキーシーズンからチームに貢献。長野県出身で、地元の東海大学第三高校(現東海大学付属諏訪高校)から関西大学へと進み、大阪実業団バスケットボール連盟を経て、FE名古屋入りを果たした。昨季までのチームの顔であり、絶対的な司令塔であった大塚勇人(現西宮ストークス)の穴を埋めるべく、得点力の高いガードとして、福澤に懸かる期待は大きい。新生FE名古屋がB1への昇格を果たすには、福澤のさらなる成長は不可欠だ。
インタビュー=村上成
写真=Bリーグ
――今季で在籍2シーズン目を迎えますが、改めて自身のプレーの特徴、セールスポイントを教えてください。
福澤 一番は得点を取りにいく意識です。昨シーズンは3ポイントシュートが多かったのですが、選択の悪いシュートもありました。今季はその精度をさらに上げて、中に切りこむこと、相手を引きつけてアシストすることも意識しています。味方やゲームの流れも気にしながら、オフェンスの精度を上げていきたいです。
――外からのシュートはいつ頃から得意でしたか?
福澤 高校の時くらいから自然と3ポイントシュートを多く打つようになって、得点も多く取っていました。シュートは自分の中で好きなプレーでもあります。
――Bリーグにはいいシューターが多くいます。
福澤 開幕前に京都(ハンナリーズ)と練習試合をしたのですが、その時に岡田(優介)さんとマッチアップしました。終盤に試合を決定づける2本の3ポイントを連続で決められ、自分が今までやってきたことが甘かったと感じましたし、あのレベルにいくためにはもっと練習をしなければと感じました。
――具体的にどういったことが足りなかったと思いますか?
福澤 その試合はシーソーゲームになったのですが、京都は最後の最後で、一気にスイッチが入って、岡田さんが決めたら、勝ちが確定するようなシュートだったんです。しかも、それまでの約35分間で岡田さんが打った3ポイントはわずかに1本でした。それだけ、シュートを打っていないと、感覚としても難しいはずですが、終盤の2本でアジャストできて、難しいシュートをいとも簡単に決められる勝負強さ、アジャスト力を持っているなと感じました。
――ボールが回ってこなくても、即座に対応できる力があるということですね。
福澤 一瞬の集中力があって、一番大事なシュートを決めきる力はすごいなと思いました。
――昨季は53試合の先発を含む全60試合に出場し、1試合平均12.9得点を記録しましたが、自信になった部分はありますか?
福澤 昨シーズンはルーキーとしてチームに加わり、開幕前はほとんど自信がなく、どこまで自分が通用するかわかりませんでした。しかし、ウェイトトレーニングで体を鍛えていたので、体の強さではB2の中でも負けないと思っていました。あとは、シュート力は通用したと感じます。
――課題もあると思います。
福澤 自分の将来像として、この身長(177センチ)でシューティングガードをやるのは難しいと考えていて、ポイントガードもできるようにしないといけません。そのポジションでプレーするには、ハンドリングや、相手からプレッシャー与えられた時のキープ力などを身につける必要があります。また、周りを落ち着かせるようなプレー、体の使い方もまだまだです。
――昨季はチームとしていい成績を残した中で6選手が退団しました。不安や、逆に期待することはありますか?
福澤 オフェンスの起点として活躍したソロモン(アラビ/現福島ファイヤーボンズ)、大塚(勇人/現西宮ストークス)さんが抜けて、チームをイチから作り、新しいバスケットボールを模索しています。そのことによって、ボールをシェアする時間が増えたと思います。全員で攻めて、全員で守るという意識が出てきました。そこでディフェンスが機能すれば、オフェンスにもいいリズムが生まれると思います。不安なのは、チームリーダーがいないことです。1本欲しいときに誰が攻めるのか、1回落ち着かせたい時に誰がボールを保持して引っ張っていくのかが、明確ではありません。
――そういう意味だと、福澤選手の役割も昨季と変わってきますか?
福澤 昨季の場合、相手がソロモンにダブルチームを仕掛けて、空いたサイドでボールを受けて簡単にシュートまで持ちこむことができました。それが今季は、絶対的なポイントガードの大塚さんが移籍したことで安定感がなくなり、自分の動きでノーマークを作っていかなければいけません。今季はシューティングガードのポジションで試合に出るので、ポイントガードの選手をサポートし、僕自身も試合を落ち着かせることが求められています。やることが増える分、自分の成長につながると思っています。
――大塚選手が抜けたことで、求められることが増えたんですね。
福澤 昨季は大塚さんがパスを出してくれて、シュートを打つか、攻めるのかのどちらかで良かったのですが、今季はポイントガードと同じような意識を持つ必要があります。
――昨季、Bリーグ誕生を迎えた時はどのような気持ちでしたか?
福澤 これまで、自分がプロバスケットボール選手になるということがイメージできてなかったです。実は、昨年は4月から会社で働いていたのですが、声を掛けてもらって4カ月後に退社してプロ選手になりました。社会人として働いてた時は、Bリーグが始まることはわかっていても、その舞台でプレーすることは考えていなくて。チームに合流して1カ月半くらい練習し、代々木(国立代々木競技場第一体育館)での開幕戦を見た時は、バスケットボールがこんなに日本中で注目されて、多くのお客さんが入って、ド派手な環境の中でプレーしているとは想像もしていなかったです。プロ野球は頻繁にテレビで放送されていて、サッカーのワールドカップ予選はスタジアムに行ったり、どこかのバーで集まって応援したりするじゃないですか。バスケットボールは全然注目されないし、テレビでやることもほとんどなかったので、開幕戦であんなにも取りあげられてうれしかったですし、感動しました。
――社会人ではどういった仕事をしていましたか?
福澤 専門商社で、電子部品を主に扱っていました。
――地元の長野に帰ってですか?
福澤 関西の大学に入ってそのままです。バスケットボールをしながら働こうと思っていたので、バスケットボールチームがある会社に入社しました。ただ、その会社は東京と大阪にチームがあり、東京と大阪でバスケットボールに対する力の入れ方、力の偏りがあったんです。僕は配属された大阪で熱を込めてバスケットをやっていましたが、どこかプロに対する心残りがありましたね。
――まさかそこからFE名古屋に入るとは思わなかったはずです。
福澤 関西の同期で、プロでやってる人が何人もいて、それで少し気になっていていました。自分の中では1年間働いて、トライアウトに受けていけたらいいなくらいに思っていましたが、そんなふうに考えていた時にお話をいただきました。タイミング的に奇跡だと(苦笑)。
――会社を辞めるのも大変ですよね。
福澤 僕は会社に拾ってもらった身なので、辞めるわけにもいかないなと。けれど、いろいろな人に相談して、今プロの世界に行かなかったら後悔する、こんなチャンスはないなと思ったんです。チームには、「すぐに会社を辞めて行きます」と返事をさせてもらいました。
――辞めることを伝えるのも大変だったと思います。
福澤 1、2年経ったらならまだしも、入社して4カ月だったので恐怖しかなかったです。僕が配属された部の部長さんがバスケ部の監督もやっていて、伝えた時には「マジか……」と落胆されていましたが、僕のことを理解してくれて送りだしてくれました。
――1年目からBリーグの舞台でプレーができたという喜びは大きいですよね。
福澤 いろいろと悩み、周囲に迷惑をかけてしまいましたが、このタイミングで本当に良かったと思っています。
――FE名古屋に加入して、周りから見られる目は変わりましたか?
福澤 プロ選手だからすごいと見られがちだと思いますが、僕の周りの友達はそんなこともなく、いつもどおりに接してくれていて、特別な変化は感じません。
――プレー面ではいかがでしょう?
福澤 試合の演出は大きく変わったと思います。お客さんがお金を払って試合を見に来てくれて、僕らの勝利のために本気で声を出してくれたり、負けた時には「次はがんばろう!」と声を掛けてくれたりします。そういったことは大学とプロの違いですし、応援してくれる人たちのためにもがんばろうと思えます。
――今季のB2の中で警戒しているチームはありますか?
福澤 同じ中地区では信州(ブレイブウォリアーズ)です。アーリーカップ(東海・北陸)では初戦でB1の新潟(アルビレックスBB)に勝って(88-72)、3位決定戦でも三遠(ネオフェニックス)を倒しましたから(64-62)。ベテランの(アンソニー)マクヘンリー選手が加わったことにより、チームが落ち着いている感じがします。
――マクヘンリー選手の存在は大きいですよね。
福澤 信州は昨季とは全く別のチームで、心してかからないといけません。メンバーは大きく変わりませんが、外国籍選手の3人が入れ替わって完成度が高まっています。昨季と同じ気持ちで戦ったら負けると思いますので、そこはしっかりスカウティングしていきたいです。あとは、秋田(ノーザンハピネッツ)は別格なのかなと思います。メンバーは変わりましたが、B1を経験している、経験豊富な選手がそろっています。秋田は交流戦の2試合しか対戦しませんが、そこで勝つことでより優勝に近づくと思っています。
――信州は福澤選手の地元ですね。
福澤 そうですね(笑)。だから余計に負けられません。
――一般企業に入社した頃を考えると、地元のチームも力がついてきて、プロの舞台で対戦するとなると不思議な気持ちになりますよね?
福澤 信州には高校の後輩(三ツ井利也/東海大三高校)や、よく見ていた先輩も在籍しているので、今は不思議な感じです。Bリーグで顔を合わせるのは同じ長野県出身でうれしいです。
――両親の反応はいかがでしたか?
福澤 「真剣に考えたほうがいいよ」、「拾ってもらった会社に対し、恩を仇で返すのか?」などと言われました。ただ、最終的には自分の意見を尊重してくれて、「自分の人生なんだから自分で決めな」と。今では長野から試合を見に来て応援してくれることもあり、とても感謝しています。
――誰も現在地がわからない状況だから、みんなが不安を感じていることもありますよね。
福澤 プロ選手として、どこまで食べていけるかわかりません。B1なら話は別かもしれませんが、B2でやっていて大ケガをしてしまうこともあったり、下手したら次の移籍先がなくて仕事がなくなったりすることもあります。
――厳しい世界の中である程度の結果を出すことができたのは自信になったと思います。
福澤 そうですね。ただ、自分の通用する部分とまだまだな部分がわかった1年間だったと思っています。オフシーズンはダメだった部分をしっかり練習したので、今シーズンはそれをどこまでできるかがカギになります。
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