2018.06.11

1試合85点、史上最年少で代表候補入り…「最高の素材」田中力が描く米国での成長プラン

近い将来、日本バスケ界を担うであろう田中の挑戦が間もなく始まろうとしている[写真]=山口剛生
大学時代より取材活動を開始し、『中学・高校バスケットボール』編集部を経て独立。メインフィールドである育成世代から国内バスケット全体を見つめる"永遠のバスケ素人"。

「モノが違う」1試合85点少年

「横須賀に、一人で85点取った小学生がいるんですよ」

 神奈川県でミニバスケットボールを指導する知人からそんな話を聞いたのは2014年だった。

 出場制限がある上に試合時間も短いミニバスで、一人で85点。しかもチームの総得点は87点で、彼以外の選手が取った得点はわずか2点だという。ミニバスならばこういう事例もままあることなのかもしれないと、あまり大げさに捉えないようにしていたが、3年後、その選手の正体がわかると一転考えを改めた。

 無論、この「1試合85点少年」の正体は、史上最年少の15歳で日本代表候補に選出され、今夏からアメリカに留学する田中力のことだ。

 初めて田中のプレーを見たのは2017年の3月末に開催された「都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会(ジュニアオールスター)」。U-15世代の有望選手が集まるこの大会で、田中は明らかに異彩を放っていた。

 同世代の中では頭一つ抜けた長身(当時184センチ)を持ちながら、ゴール下ではなくコートの高い位置でボールを持つ。ストリートの選手を思わせるような華麗なドリブルでディフェンスを揺さぶり、鋭いドライブからフローターシュートを決めたかと思ったら3ポイントシュートを打ってみたり、リバウンドからのショットガンパスで鮮やかな速攻劇を演出してみたりする。「モノが違う」ということを、その場にいた誰もが実感しただろう。

横浜U15の一員としても活躍 [写真]=B.LEAGUE

 アンダーカテゴリーで田中を指導するトーステン・ロイブルヘッドコーチも、「おそらく日本で最も有望な選手だし、今まで私が見てきた中でも最高の素材」と高い評価を与えている。

IMGアカデミーへ

 アメリカ人とのハーフで、幼少期にはハワイとミシシッピに住んだこともある。兄とは今でも英語で会話する田中にとって、中学卒業後にアメリカに渡るという選択は、自然な流れだった。

 とはいえ、ジュニアオールスターの頃は「大人になってから」という考え方だったし、中学3年になり、部活が佳境に入る頃には国内に気持ちが傾いていた。しかし、U16アジア選手権やナイキアジアキャンプ、NBAグローバルアカデミーのキャンプなどを経て、意識が変化。横浜ビー・コルセアーズU15のディレクターを務める白澤卓氏は、8月の関東大会が終わり中学の部活を引退した後に、本人の「海外に行きたい」という意思を確認したという。

 白澤氏、田中、田中の母の三者で学校の施設や栄養面、安全面などの不安を一つずつ解消していった上で、IMGアカデミーへの進学を決めたのは年明け頃。「毎日、鬼のように悩んでいた」と笑った田中がIMGを選んだ決め手は、こちらの記事(https://basketballking.jp/news/japan/20180607/72111.html)でも紹介したとおり、非常に運命的なものだった。

第一の目標はNCAAディビジョン1の強豪校にスカラシップで進学

期待の若手がアメリカへ活躍の場を移す [写真]=B.LEAGUE

 国内ではポイントゲッターの役割を担うことが多かった田中は、アメリカでポイントガードとしての独り立ちを目指す。

 自身が課題に掲げるのはバスケットIQとシュート力の向上と、調子が悪いときでも普段どおりのパフォーマンスを発揮できる自信を身につけること。目標はNCAAディビジョン1の強豪校にスカラシップ(奨学金)で進学することだが、「現時点ではD1に行けるような選手ではない」と自己評価し、「IMGでしっかりトレーニングして、成長することを信じてやっていきたい」と着実な成長プランを描いている。

 プレースタイルや容姿から、田中に「派手で大味な選手」という印象を持っている人もいるかもしれない。しかし実像は、とにかく練習好きで努力をいとわず、多くの人間から愛される少年。進学先選びに尽力した白澤氏も、「とにかくバスケットに一生懸命なので、どうにかして助けてあげたいと思わされるんです」と微笑んだ。

 実直さと溢れる才能を足掛かりに、田中はどこまで高く跳べるか。16歳の挑戦が間もなく始まろうとしている。

文=青木美帆

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