2020.03.06
高校2年生で海を渡り、その後NCAA Division1のノースカロライナ大学ウィルミントン校に進学。1年生の時はアシストランキング2位になるなど、テーブス海はアメリカでも非凡な才能を発揮していた。2019年の年末にチームを離れ、プロ入り、あるいは転校を考えているとTwitter上で表明。その後、日本でプロ生活をスタートさせることを決断し、宇都宮ブレックスへ特別指定選手としてやってきた。王者奪還を狙うチームにとって、後半戦を戦う上で非常に大きな補強だったと言えよう。ただ、その決断は決して容易なものではなかったようで、テーブス自身が決断に至るまでの心境をストレートに語ってくれた。
「日本に帰ってくるか、アメリカに残るかは物すごく悩みました。人生で一番悩んだし、これからの自分の人生がガラッと変わる決断だというのも分かっていたので、軽く決めたことではないです。タイムリミットがある中で、できるだけ時間を使いました。ある日起きたら『アメリカに残る』と思って、でも次の日の朝は『日本に帰る』というような感じで、それが2週間くらい続いて……。感情を重視して決断しちゃう人もいると思いますけど、最初は自分もそういう感じになっているときもあって。でも改めて冷静に考えて、何が一番自分のためになるのか、自分は何をやりたいのかを考えた上で決断しました」
決断を下す際、家族からはアメリカに残ることも勧められたという。
「僕が決めたことには全力でサポートすると言ってくれた上で、『大学に残ってほしい』と伝えられました。『Division1に入れる人は少ないから、その機会があるのであれば続けてほしい』と」
それでも彼は自分のやりたいことをやろうと、自分が納得する形で日本でプロ選手になる決断を下したのだ。
そしてやってきた宇都宮という土地、なぜ彼はこのチームを選んだのか。その理由の一つに、自分を大きく成長させるために学べることが多いということがあった。
「ベテランの選手が多くて、バスケIQの高い選手がそろっているチームだと思います。自分が見習える、そして成長できる環境だなと感じて決めました。それに加えて、勝つ伝統のあるチームだというのも理由の一つです。大学の時は連敗が続いたシーズンもあって、勝つのが当たり前というチームを高校以来はあまり経験できませんでした。勝つことに慣れている選手を、練習のときから見習いたいという気持ちも強かったです」
まだチームに合流して1カ月も経っていないが、すでにいろいろなことを学んでいるという。
「ブレックスはみんなそうだと思うんですけど、自分自身のエゴを捨てることができる。自分が0点でもチームが勝てばいいという選手ばかりです。また、流れが悪くなったり、連敗が続いたとしても自分たちのアイデンティティを決して忘れない所は非常に魅力的ですね」
そんな日々学ぶことの多いチームの中で、自身のプレーでいかに熱狂的なファンを喜ばせていくのか、カレッジとBリーグの違いに触れながら課題を語ってくれた。
「Bリーグの方が明らかにレベルは高いと感じています。カレッジでは身体能力や才能で戦う部分はありますが、こっちではIQの高い選手がそろっているので、考えながらプレーする感じですね。リーグ全体がそうだと感じるので、プロだからこそ高いレベルでやっているんじゃないかなと思います。アメリカと日本では自分の役割が全然違っていて、日本では自分のストロングポイントがガラッと変わった気もします。普段はパスも多くさばきますが、ピックアンドロールを使うと自分の周辺に一番スペースがあるケースも多いので、得点を取ることも必要です。自分のプレーをするときとチームとして馴染んでプレーをするとき、そのバランスをいかにうまくできるかが自分の課題だと思っています」
ディフェンスに関してもまったく違うと話すテーブスは、Bリーグに行くと決断してから宇都宮に決まるまでの2週間、実は父親がコーチを務める富士通の体育館で毎日練習していたという秘話を明かしてくれた。そこではアメリカと日本のガードのスタイルの違いを学んだと話す。
「お父さんから『Bリーグのガードはみんなディフェンスが激しい、アメリカとは違う激しさがある。小さくて速いガードがいっぱいいるから、それに慣れるために練習しよう』と言われて、フルコートでのマンツーマンディフェンスに対するボール運びやボールの貰い方などを細かくやりました。加えて毎日ハンドリングとシューティングをしていました。非常に速いゲーム展開にも慣れるために、コンディショニングもしっかり整えるようにしました」
すでにB1リーグ4試合を経験して、2試合で二桁得点を奪うなど活躍を見せているテーブス。試合以外でも母国での日々を満喫しているようで、日本の生活環境は最高だと、満面の笑みで話してくれた。
「日本はもう最高ですね、本当に日本が恋しかったです。もちろんアメリカも自分に多くのチャンスを与えてくれた土地ですけど、日本は自分の国なのでそれに勝る所はないです。日本の食事もやはり非常に良くて、アメリカの大学生はアスリートでも3食をすべて食堂で食べるのは珍しく、毎日のようにどこかでファストフードを食べる習慣があったりして…。自分は日本人の体をしているから食には非常に気をつけていました」
愛する日本に帰ってきてプロという道を選んだ彼は、今シーズンどのようなゴールを描いているのか、最後に聞いてみた。
「日本代表が近づいてきたのは事実だと思います。ただ、オリンピックやワールドカップも重要ですけど、今はブレックスのことしか考えていないです。このチームでの勝利と自分の成長が一番大事なので、あまり周りのことは考えないようにしています。これからどんどんチームに馴染んでいって、チームを勝利に導ける選手になっていきたいです。それが次のアルバルク東京戦でなるのか、最後のチャンピオンシップでなるのかは分からないですけど……まずチームが勝つことを一番重視したいですね」
自身の成長のためにプロという道を選択した若き司令塔。チームの勝利のために輝きを放ち、Bリーグを席巻してくれるのではないかと期待してしまう。彼の成長が王者奪還への近道となるに違いない。
文=鳴神富一
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