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「先生が岡山のインターハイをもうすごく楽しみにしていて。『俺が初優勝したのは岡山なんだ』という話を隣で聞いていて、先生もまた勝とうということ言っていました。先生と一緒に達成することはできなかったのですが、この岡山インターハイは私の中でも絶対に、何としても譲れないという思いもあって。先生とお別れしてから、最初の全国大会ということで桜花学園という存在感を見せたい思いと、見せつけないといけない義務もあったと思います。でも、空から先生が見守ってくれて、苦しい時間帯も力貸してくれたんじゃないかなって思います」(桜花学園・白慶花コーチ)

「井上先生が空から見守ってくれた」と白コーチ [写真]=佐々木啓次
8月1日、「令和7年度全国高等学校総合体育大会 バスケットボール競技大会(インターハイ)」の女子決勝がジップアリーナ岡山で開催され、桜花学園高校(愛知県)が4年ぶり26回目の優勝を飾った。
今夏のインターハイは桜花学園にとって特別な大会だった。昨年12月31日に桜花学園をバスケット界のトップチームへと作り上げた井上眞一氏が逝去。当時アシスタントコーチだった白コーチと佐藤ひかるアシスタントコーチが後を継ぎ、初めて井上氏のいない全国大会を迎えたのだ。
第3シードで挑んだ桜花学園は2回戦から登場すると3回戦では桜花学園同様に優勝候補の一角であった大阪薫英女学院高校(大阪府)と対戦。試合は予想どおりの大接戦となったが、第4クォーターでイシボ ディバイン(3年)のインサイドプレーを起点に得点を重ねて粘る大阪薫英を振り切った。
続く準々決勝の昌平高校(埼玉県)を64ー52で破ると、1面のメインコートによる進行となった準決勝では九州覇者の精華女子高校(福岡県)と対戦。相手の189センチのセンターであるアキンデーレ タイウォイダヤットに57得点を許したのの、「アウトサイドの選手の得点を抑えたかった」という白コーチの言葉のどおり、実力あるアウトサイド陣の得点を5点に抑えるディフェンスを披露。第4クォーターには桜花学園のハードなディフェンスに疲れの見えるタイウォイダヤットのシュートが落ち始めると、逆に桜花学園はゲームキャプテンの濱田ななの(3年)が要所を締める得点で勝利を引き寄せた(73−68)。
大阪薫英、精華女子と大一番を制した桜花学園は、決勝では初の決勝進出で勢いに乗る日本航空北海道高校(北海道)と対戦。試合は序盤から主導権を握って先行したが、後半に攻撃が停滞する時間帯も。第4クォーター中盤以降は日本航空北海道にジリジリと詰め寄られたが、最後は総合力で追撃を振り切り(63−59)、歓喜の瞬間を迎えた。
「ディフェンスとリバウンド勝負、それと(相手は)すごく勢いに乗っているので、出だしの入り方が大事だと選手たちには伝えていました。入りは良かったとは思うのですが、途中、庵原有紗選手の点など相手にやりたいことをやられてしまい、ちょっと苦しいなと思ったのですが、そこでも大崩れせずに選手たちが粘ってくれたので、最後は何とか逃げ切れたと思います」と、白コーチは試合を振り返った。
ここ数年、桜花学園はインターハイ、ウインターカップといった全国大会ではわずか1、2点差の惜敗が続いた。「競った試合や勝負どころで相手に流れを持ってかれるという展開にずっと苦しんでいましたが、それを打破できたキッカケは東海大会の決勝戦だったと思います」と、白コーチは今年6月、岐阜女子高校(岐阜県)に競り勝って優勝した東海大会をチームのターニングポイントに挙げる。
「その試合で最後の最後まで粘って、粘って。ディフェンスを頑張れば勝てるということが選手たちの自信になったと思います。この大会を通しても、特に薫英さんや精華女子さん、今日の試合も大崩れせずに、苦しいときこそディフェンスだという認識がチーム全員で持てた。選手たちもちゃんと声掛けをし、みんなで目を合わせて意思疎通ができたところが大きな勝因じゃないかなと思います」と、白コーチは6月からインターハイまでの戦いを総括した。
冒頭に記した白コーチの井上氏への思い。優勝を決めた今、井上氏は白コーチにどのような言葉を掛けるのだろうか。
「『肩の力抜け』ということでしょうか(笑)、『力入りすぎだ』みたいな感じですかね」と、白コーチは報道陣の笑いを誘う。そして逆に井上氏に対しては、「『岡山で勝ったよ』と報告したいです」と、目を潤ませた。
一方、選手たちはというと、「本当に自分たちの代が優勝したことでびっくりすると思うんですけど、『やったよ』と伝えたいです」と濱田。逆に「先生からは、『ディフェンスで抜かれ過ぎだ』と言われそうですね」と破顔した。

ゲームキャプテンの濱田は「『やったよ』と伝えたいです」 [写真]=佐々木啓次
また、ガードとして攻防において貢献した山田桜来(3年)は、「『よくやったぞ』って言ってくれるかなぁ…分からないですけど」と、苦笑い。さらに濱田、山田とともに3ガードを形成した2年生の竹内みやは、「優勝したことに対しては多分褒めてくださるけど、『まだまだだ』って言われると思います」と、コメントした。
白コーチ、佐藤アシスタントコーチ、川島由美マネジャーとスタッフも桜花学園の卒業生。コーチもスタッフもみんな心の中にそれぞれの“井上先生”いる。
今後抜かれることはないであろう71回の全国優勝を達成した名将は、昔から勝ってもなお課題を挙げ、次の戦いを見据えていた。そんな井上イズムは、しっかりと選手やスタッフにも伝わっているのだろう。
絶対に勝つんだという気迫とともにチーム一丸となって戦った5試合。選手、スタッフの“勝利への執念”が恩師の思い出の地で結実した。

井上氏への想いが結実した大会に [写真]=佐々木啓次
文=田島早苗