2018.08.13

「1秒たりとも手を抜かず、役割を全うする」アルバルク東京 林邦彦社長が見据える今シーズン

アルバルク東京 林邦彦社長に昨季の優勝、そして今季の施策についてお話をうかがった[写真]=鳴神富一
1981年、北海道生まれ。「BOOST the GAME」というWEBメディアを運営しながら、スポーツジャーナリストとしてBリーグを中心に各メディアに執筆や解説を行いながら活動中。「日本のバスケの声をリアルに伝える」がモットー。

昨シーズン、悲願のBリーグチャンピオンの座をつかみ取ったアルバルク東京。8月5日、ホームアリーナであるアリーナ立川立飛にて500名以上のファン・ブースターが集結して2018-19シーズンの新体制発表会と「ALVERCARSフェスタ」が開催された。イベント終了後、林邦彦社長に昨シーズンのチャンピオンに輝いた時の心境や今シーズンに向けての抱負を中心に、様々なことをうかがう機会を得た。「連覇」という2文字と90,000人という総観客動員数の目標を掲げて今シーズン戦うディフェンディングチャンピオン。今何を思い、これから前に進んでいくチームのために何を行うべきか。クラブのトップからのストレートな言葉を感じてほしい。

取材・文=鳴神富一

Bリーグ3年目は2年間の経験をファンへ還元するシーズンに

アルバルク東京は2シーズン目のBリーグを制した。挨拶する林社長[写真]=B.LEAGUE


――改めて昨シーズン、チャンピオンに輝いた時の気持ちを教えてください。
 Bリーグ開幕時からそれまでのクラブの歴史や選手層も含めて、優勝するのではないかとずっと言われてきたクラブが、初年度はセミファイナルでいい試合を演じたけど負けてしまいました。そこから改めてしっかりとトレーニングに取り組んで、最終的にチャンピオンの座を獲得したわけです。これまでであれば、8月にチームを始動するところを7月に早めて、そこから長い8カ月間の中で積み上げがしっかりとでき、そして結果が出たことがうれしかったです。チャンピオンになった瞬間の喜びよりも、それに対する想いの方が大きかったと言えます。

――チャンピオントロフィーを掲げた瞬間の気持ちは?
 見た目よりもずっと重かったですね。それと自分の立場からすると今までは他のスポーツも含めて、セレモニーなどは視聴者としてテレビを通して見ていました。自分自身がその場に立って、トロフィーを触って掲げるということに対して非常に感慨深いものがありました。

――そういう意味ではクラブのトップとして相当のプレッシャーを感じていたのではないですか。
 私というよりはBリーグ初年度から入ってくれたフロントスタッフ、もちろん選手やチームスタッフもそうですけど、それぞれの人間がそれぞれの専門性を持って仕事をしてもらっている。彼らの能力をどのように引き出すか、かえってそちらにプレッシャーを感じていました。どちらかというと彼らに支えられてきた2年間でした。その中で3シーズン目は過去2年間の社長としての経験を持って、幅広く色々と仕掛けられることができるのではないかと感じています。ですので、今シーズンはある意味2年分のお返しをして、より良いクラブにしていきたいと考えています。

――どのスポーツでも難しいと言われている、「連覇」という2文字。新体制発表会でも「チャレンジャーの気持ちで連覇に挑みたい」とおっしゃっていましたが、今シーズンどのように戦っていくおつもりですか。
 チャンピオンになったという事実は自信になればいいと思います。逆にそれにより「勝たなくてはいけない」ということのみが強くなると、視野が狭くなってしまったり、結果のみを追ってしまうので怖いと言えます。そのため“勝つ”ではなく、行動姿勢として、「最後まで集中して、試合終了のブザーが鳴る瞬間まで力を抜くな」と選手やチームスタッフには話をしました。ゲームの勝ち負けも大切ですが、これまで積み上げてきたプレーが最後までできればそれが勝利につながる。その流れを見誤らないようにしなければいけないでしょう。

 アルバルク東京は非常に組織的なプレーをするクラブなので、ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチの下、自分たちがやるべき練習を信じて行い、「必ず結果はついてくる」という気持ちを持って戦ってほしいですね。シーズンは60試合もあるので、結果がすぐに出なくても、シーズン終了時を見据えて、慌てず完成度を上げていくことが重要です。新体制発表会でもお伝えしましたが、「まだチームの完成度は30パーセント」とルカHCは言っていますから、完成度を徐々に上げていくということを可視化していければ、必ずや結果はついてくると思っています。

3人目の新外国籍選手の発表をイベント内で行うサプライズ演出の裏側

アリーナ立川立飛で500名以上のファンを集めて行われた「ALVERCARSフェスタ」[写真]=鳴神富一


――昨シーズン、ホームアリーナをアリーナ立川立飛に移転し、試行錯誤のシーズンだった中でも観客動員数が増えました。今シーズンは移転2年目で勝負を掛ける気概を感じましたが、どのようなイメージで運営をしていくおつもりですか?
 これまではBリーグが開幕したことで多くのメディアに取り上げていただくことで、来場される方が多かったと思います。また、昨シーズンはアルバルクを応援していただいている方や、新たなホームとなった立川のお客様が増えたと感じています。今シーズンはそこから1試合平均3,000人という数字まで伸ばしていくという目標があります。そういう意味で今日のように選手と触れ合ったり、クラブを知っていただく機会を増やさないといけないと言えるでしょう。

 やはりプロですから勝たなくてはいけないとは思いますし、勝つことによりマスメディアなどでの露出も多くなります。露出が多くなることにより試合を見ていただくことはうれしいのですが、「1回見たらもういいかな」と思わせるようではダメなわけです。まず初めて見に来ていただいた方にとっては1試合、約2時間をどれだけ楽しい空間にできるかということを追求して、様々な仕掛けを実行していきたいと思います。

――そういう部分では今日のイベントは参加されたファン・ブースターも喜んでいる様子で良かったですね。
 本当に良かったと思います。願わくば、日本代表選手や外国籍選手もいる形でスタッフも含めたフルメンバーで開催できたら最高でした。これは次の課題として開催する日時も含めて、一度考察した中で次回開催したいと思います。

――その新体制発表会で3人目の外国籍選であるミルコ・ビエリツァ選手の契約合意がサプライズで発表されました。
 まさにイベントの最中に選手側からアルバルクへの加入を決断したという内容のメールが届いたわけです。実は元々イベントのプログラムに入れず、もしイベント終了までにれ連絡があり、時間的にも余裕があったら発表するぐらいのイメージでした。しかし、今回のイベントがファンクラブに入っていただいている方とシーズンチケットを購入された方のみが参加できるものだったので、せっかく一番アルバルクを愛してくださっている方々が集まっているのだから、報道発表よりもいち早く伝える事が一番いいんじゃないかと考えて実行に移しました。イベント開催中、進行する舞台裏で我々マネジメントの人間で相談して「じゃ、行こう」と決断して発表したわけです。皆さん気づいていなかったかもしれないのですが、途中スタッフがMCに耳打ちをしに行って、プログラムを変えたのです。

イベントの最中に新外国籍選手の入団が決まり、急遽発表が行われた[写真]=鳴神富一


――まさにドキュメンタリーが舞台裏で行われていたのですね。
 そうですね。本当にイベント内で発表できたのは偶然でした。契約交渉は最終局面には入ってはいましたが、どうなるのかという不安はありました。本来であれば選手のイメージがわかるような映像も準備できればよかったのですが、急だったこともありあの1枚をお見せするのが限界でした。

――最後に今シーズンに向けてファン・ブースターにメッセージをお願いします。
 選手、チームスタッフをはじめ、我々フロントスタッフも、1秒たりとも力を抜いたプレー、力を抜いた運営をやるつもりはありません。試合が始まる前から終わった後まで、しっかりと準備をしてファン・ブースター・お客様に評価をしていただけるコンテンツを提供できるクラブにしていきたいと思っています。また来年の5月には皆さんと共にチャンピオントロフィーを掲げて、金色の紙吹雪の中で歓喜の瞬間を迎えるためにも、1年間ご支援のほどよろしくお願いいたします。また9月末にはFIBAアジア チャンピオンズカップも開催されますので、Bリーグの代表としてその名に恥じないようなプレーをし、1試合でも多く勝って、Bリーグの開幕に向けて勢いをつけていきたいと思っています。

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