2020.01.09
4月末にスタートする「B.LEAGUE CHAMPIONSHIP」に向けて各クラブがラストスパートをかけ、つばぜり合いを毎節のように繰り広げている。それは名古屋ダイヤモンドドルフィンズも同様だ。激しい戦いが続く今、メンバー一人ひとりに今シーズンの戦い、そしてチャンピオンシップへの思いを聞いた。
取材・文=三上太
写真=名古屋ダイヤモンドドルフィンズ
1月27日、頼もしい男がスターティングメンバーに戻ってきた。ポイントガードの笹山貴哉である。昨年9月、シーズンが開幕する前に右足に重度の捻挫を負い、今シーズンは出遅れていた。第4節のランジングゼファーフクオカ戦からコートには戻ってきたが、梶山信吾ヘッドコーチはすぐに笹山をスタメンに戻さなかった。むろんケガの影響もあってのことだが、名古屋Dに入団以来、ほぼ正ポイントガードの座を守り続けてきた笹山がその座を明け渡すことになったのである。
心中は穏やかでなかったはずだ。事実、笹山はシーズン当初をこう振り返る。
「苦しかったですね。自分もパフォーマンスが上がらないままチームに入っていって、自分のプレーに対するいら立ちだったり、周りの選手ともなかなか合わないというか、自分が周りに追いついていないなという感覚のほうが大きかったかもしれません」
しかしそんな苦しい日々が笹山のポイントガードとしての幅を広げるきっかけとなった。
「ベンチスタートの選手はチームの流れが悪いときに出るのがほとんどなんですけど、悪い流れをよくするというのは案外簡単というか、何かをひとつ頑張れば変わったりするんです。でも流れのいいときに出ることもあって、そのときにいい流れを継続することが難しい。特にポイントガードの立場だと、その流れにずっと乗って行きたいところだけど、どうしても流れには波があるので、自分が入ったときに波が下がってしまうこともある。いい流れをずっと保つことは難しいです。難しいながらもそれをやらなければいけないポジションでもあるので、そこにやりがいを感じています」
ゲームの流れをどう感じ取るか。”司令塔”と言われるポイントガードに必須の資質と言っていい。これまではチームの勢いに自らも乗る一方だったが、ベンチでゲームを見ることによって勢いに乗るべきなのか、あるいは一歩引いて波が崩れたあとの立て直しをイメージするかを見極められるようになった。
スタメンであろうと、ベンチスタートであろうと、見た目のプレーは変わらないかもしれない。しかし名古屋Dのポイントガードの思考は間違いなく進化している。
2019年が明けて間もないころ、名古屋ダイヤモンドドルフィンズの公式サイトに心配なニュースが掲載された。ジャスティン・バーレルがインジュアリーリストに登録されたというのだ。公示理由は「右膝半月板損傷」。
昨シーズンはB1の外国籍選手としては初めてキャプテンを務めたバーレル。プレーにおいてもチームに欠かすことのできない柱の一人が戦線離脱をせざるを得なくなったことは、チームにとっても、もちろん名古屋Dのファンにとっても大きな痛手だ。
あれから3カ月近くが経った今、バーレルにケガの状況を聞くと順調だという返事が返ってきた。
「ケガはほとんど回復しています。ドクターからもプレーしていいと言われています。あとはコンディションの問題です。コートに立ったらベストを尽くせるコンディションに早く戻して、チームに貢献して、チームメイトやコーチの信頼を得たいと思います」
これはチャンピオンシップに向けて、熾烈な戦いの場に立っているチームにとって勇気の出る言葉だろう。
もちろん今すぐ復帰というわけではない。バーレルの言葉にもあるようにB.LEAGUEで戦えるだけのコンディションを戻す必要があるし、それは一朝一夕にできるものではない。ただ経験豊富なバーレルが近くにいることでチームがいい方向に向くことも多くなるだろう。本人もそれを十分に理解している。
「今までどおり、声を出して、必要なところでは選手にアドバイスをするなど、自分らしさを出していきたいと思っています。自分としてはロッカールームでも、オンザコートでも、オフザコートでもリーダー的存在であろうと努めます」
昨シーズンまではスコアラーとしての役割が主だったが、今年は”プレーメーカー”として求められることが多岐に渡っている。オープンコートを一気に駆け上り、チームメイトを生かすためのスクリーンをかけるなど、文字どおりの”大黒柱”としての存在感が求められる。インジュアリーリストに載るほどのケガを乗り越えた今、”JB”は一回りも二回りも太い柱になっているはずだ。
体育館に設けられたインタビューブースに現れた木下誠は、まだユニフォームに”着られている”ように見えた。ほかの選手と比べるのは無意味なことだが、まだまだ線が細い。それでも特別指定選手として名古屋ダイヤモンドドルフィンズに加わったのは、それだけの魅力を持っているからなのだろう。
大阪学院大学4年。ポジションはポイントガード。185センチというから日本では大型ガードの部類に入る。攻撃的なプレースタイルで得点を重ねる一方で、ディフェンスを切り裂き、味方にパスを捌くなど、周りも生かすことができる。そうチームの公式サイトでは謳われている。実際に本人もそのプレースタイルでチームに貢献したいと言う。
「僕は大型ガードとしてドルフィンズに来て、得点を取ったり、パスを捌いたり、3Pシュートも打てるので、そこが自分の強みだと思います。リバウンドを取ってからのプッシュを速くしたり、展開を速くしたり、攻撃的なバスケットに参加したり……そういうことが自分の中でのやりたいイメージです」
不慣れなインタビューで声はやや小さかったが、それでも自分の考えをしっかりと口にするあたり、これからが楽しみな選手である。
3月2日の新潟アルビレックスBB戦ではB.LEAGUEのコートに初めて立った。
「小学校からの夢で、ずっと目標にしていた舞台なので、緊張というよりは『ここに立ったんだ』という気持ちのほうが大きかったです」
夢の実現は、ここから始まる戦いの始まりでもある。木下は特別指定選手としての残りのシーズンをこう語る。
「今はまだチームに入って時間が経っていないんですけど、チームにどうやって貢献したらいいんだろう? と考えるのではなく、一日でも早くドルフィンズのバスケットに慣れるようにしていくことが今の僕がやらなければいけないことだと思っています」
大型ガードとして名古屋Dに、そしてB.LEAGUEに新しい風を吹き込めるか。そのためには、わずかなチャンスも逃さずに己を出すだけだ。
クレイグ・ブラッキンズは今シーズンのパフォーマンスについて、こう言及する。
「悪くないと思います。チームに貢献するために必要なことは何でもしようとしていますし、ルールが変わったこと……つまり外国籍選手が2名しかベンチに入れないなかで、いつでも僕たちは準備をしていなければいけませんが、それはいつもやっています」
B.LEAGUEは3年目のシーズンをスタートさせるとき、いくつかのルール改正をおこなった。そのひとつが、これまで帰化選手を含めて3名までがベンチ入りできていた外国籍選手を、今シーズンからは「帰化選手を含めずに2名」までとしたことだ。帰化選手のいない名古屋ダイヤモンドドルフィンズの登録外国籍選手は3名。常に誰かがベンチ入りできないわけである。むろんその試合に誰がベンチ入りできないかは事前に知らされているのだが、不測の事態にも対応できるよう、常に万全の準備をしておかなければならない。結果的にベンチに入れなくても、である。
これはけっして簡単なことではない。彼らもまた一人の人間である。気持ちが揺れ動くこともあるだろう。ブラッキンズはその対処法をこう語る。
「自信を保つことに注意しています。練習前と練習後に個人でワークアウトをしていますし、チームメイトもポジティブなことばかり言ってくれるので、自信を保つことをポイントにしています」
どんな状況に置かれても常に自信を失わず、万全の準備をひたすらに繰り返す。むろんつらいときやうまくいかないときもある。ブラッキンズもシーズン中にそうした時期があったと認める。
「でも一番大切なのはそれをどう乗り越えるかです。僕はうまく乗り越えられていると思います。主に人と話して乗り越えています。家族が日本に来ていたことも大事なことだったし、信頼できる人たちと話して、それを自分のメンタルと、コート上で出せるようにしてきました」
来日3年目。進化し続けるB LEAGUEの波に晒されつつもブラッキンズは家族や友人、応援してくれるファンに支えられながら、名古屋Dに欠かせない柱のひとつになってきている。
三菱電機時代からの生え抜きとしてヘッドコーチに就任した梶山信吾は2年目の今シーズン、より走れるチームにしたいと新たに5人の選手を獲得した。それについて梶山は「ベストなチョイスができた」と胸を張る。シーズンの途中でジャスティン・バーレルがケガで離脱するというアクシデントもあったが、ヒルトン・アームストロングを獲得することで均衡を保つことにも成功している。
そんな手応えを十分に感じる一方で、若き指揮官は常に現状に満足をしない。勝負のなかで選手たちを育て、チームをより高い次元へと引き上げようとしている。
「シーズン当初に比べるとディフェンスはよくなりましたね。本当によくなりました。5人も選手が入れ替わっているので、ディフェンスのチームルールなど細かいところができていなかったんですけど、少しずつできるようになってきました。臨機応変にも対応できるようになってきました。オフェンスでは満田や笠井にプレータイムをあげられていないんですけど、彼らの良さを引き出すのは私の仕事ですし、そこが自分自身の反省点かな。でも中東(泰斗)もそうだったし、笹山(貴哉)や安藤(周人)もそうだったみたいにすぐにはフィットできないものです。彼らも時間を追うごとに成長してきましたし、目の前の結果にあまり捉われすぎないで、長い目でやっていきたいなという気持ちは強いですね」
長い目で見るとは、もちろん今シーズンのチャンピオンシップを諦めたという意味ではない。
「昨シーズンの悔しさはみんなわかっていますし、そこを乗り越えるためには強いメンタルが必要になることもわかっています。でもそれを経験できたことはすごくプラスだと思うので、その経験値を生かして残り試合を戦っていきます。ただチャンピオンシップ進出が目標というより、我々のやりたいことを今シーズンは徹底したいという気持ちのほうが強いんです。つまりは最後まで走り切ることですね。昨シーズンは最後に足が止まってしまいましたが、今シーズンの彼らだったら走り切れるんじゃないかと思っています」
チームのことを誰よりも知り、このチームに誰よりも愛着を持つ梶山だからこそできる戦い方が、正念場を迎える名古屋Dを未達の舞台へと導いていく。
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