2020.06.29

正中岳城ラストメッセージ「一緒にバスケット界、スポーツ界を盛り上げていけたら」

最後まで正中岳城選手には“熱く”語っていただいた
バスケットボールキング編集部

一人の選手が静かに現役生活に幕を下ろした。そのニュースが報じられると、所属のアルバルク東京の選手だけでなく、かつてのチームメートたちがSNSで惜別のメッセージを発信。しかも、新旧の戦友だけでなく、「いつかは一緒にプレーしたかった」とつぶやく選手も現れるというかつてない事態が起きるのも、ならではと言えるのではないだろうか。決して手を抜かないプレーだけでなく、熱いコメントでも多くのファンを持つ正中岳城選手。現役生活を振り返るとともに、”黄金世代”と称された同期の選手への想いも語ってもらっている。

取材協力=アルバルク東京
インタビュー=入江美紀雄

青山学院大に行かなかったら今の自分はない

アルバルク東京だけでなくBリーグを代表するキャプテンだった [写真]=アルバルク東京


――改めまして現役引退おめでとうございます。まず、アルバルク東京の前身、当時はJBL(日本バスケットボールリーグ)に所属していたトヨタ自動車に青山学院大学卒業後進みますが、大学卒業も上のカテゴリーでプレーすることを意識したのはいつごろですか?
正中
 はっきり意識したのは大学3年の終わりのころでした。(青山学院大の)1つ上の先輩方、当時でいうと大屋秀作さん、佐藤託矢(現:信州ブレイブウォリアーズ)さんが、それぞれ日立(現:サンロッカーズ渋谷)と三菱電機(現:名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)に入ることが決まったという話を聞いて、より身近な話題、出来事となりました。「自分ももしかしたらトップチームでやれるチャンスがあるのではないか」と。具体的に感じたのはそのときでした。

――青山学院大の3年次というと、チームの主力としてプレーができるようになり自信も出てきたころですか。
正中
 自信が出てきたのもあると思いますが、そろそろ進路を考えなければいけない時期となり、「次は何をするんだ」とちょっとずつ考えるタイミングだったということもありますね。

――確かに周囲の同級生も就職活動を始める時期だと思います。ご自身として、就職するイメージでしたか? トップリーグでプレーするぞという意気込みもありましたか?
正中
 就職するイメージだったと思います。大学に関しても入部という感覚ではなく入学するという感覚でした。入社する、入団するという感じですかね。そこを切り離して考えてなかったです。入社イコール入団という感じにとらえていたと思います。

――Bリーグが始まってもアマチュアのままでプレーをしていましたが、現役引退後は社業に専念することを大学時代から意識でいたのですか?
正中
 仕事に関してはそこまで明確に考えていたわけではありません。そうなればいいなというくらいでしょうか。大学4年の終わりごろ、どのような形態でプレーするかを考え始めました。(バスケ専門の)嘱託で行くのか、または正社員なのか。同じ大学から一緒に入団することになっていた岡田(優介、京都ハンナリーズ)と自分を比べていろいろと考えながら、競技、学生生活に向き合っていたと思います。ただ思い悩む程ではなかったですね。その中で会社員としてやってみようという気持ちが自然と固まっていきました。

――進学を決めたころ、大学に入ったころを思い出してほしいのですが、兵庫の明石高校から関東の大学に進学します。当時、どのような決意を持っていましたか?
正中
 僕は高校進学のときに、県内の強豪校に行っていません。縁があって青山学院大に進学することになり、そこは厳しい世界が待っている認識は持っていました。自信があったわけではありませんが、こういう流れに身を委ねてみるのもいいかもしれない、チャレンジもあるだろうと思いました。自分の高校時代に足りなかった部分にチャレンジしたい、知らない場所で勉強も頑張って、高校時代よりも厳しい環境でやるのもいいんじゃないかと。試験にも通ったし身を委ねてみようという感じでしたね。

――実際入学してみて、どう思いました?
正中
 厳しかったです、身体的にも。進路として自分に合ってないのかなとも思いました。でも青山学院大は1学年の人数が絞られているチーム構成で一人ひとりに目が届くので、やっていけばなんとかついていけるとも言えます。それが毎年10人も選手が入ってきて、同じポジションに同期だけでなく先輩にも何人もいるようなチームだったら厳しかったと思います。1、2年生のときからいろんな経験をさせてもらって。トレーニングをして体を鍛えてというプロセスを経ていきながら、少しずつ進んでいけるチームだったので、すごく合っていたのかなと思います。入ったときはいろんなことが必死でしたけど、「しんどいな」「辞めようかな」という感覚になったことはないですね。

――兵庫から出てきた”正中少年”にとって、練習場のある相模原の校舎(神奈川県)から渋谷の本校(東京都)に通うのも大変だったのでは?
正中
 一人暮らしも大変でした。学校に通って、練習をして、終わって帰ったらもう23時くらいで、また次の日も朝から。大変だったと思います。自分を律してコントロールしていくのが当時の一番のテーマでした。

――青山学院大に行かなければ今の自分はない?
正中
 確実にそうだと思います。

初めて立ったJBLのコートで故郷の友と再会

ルーキー時代の正中選手。トヨタ自動車での最初の試合が印象に残っているという [写真]=アルバルク東京


――この前の引退会見で「キャリアの中で印象に残っていることは何ですか?」と質問させてもらいました。その答えが「なんでも最初に経験したもの」とおっしゃっていましたが、その中でも特に印象に残っているものはありますか?
正中
 JBLのルーキーイヤーにコートに立ったときです。「こういう世界にたどり着いた」「ここからまたやっていくんだ」と思ったのを覚えています。その試合は、開幕戦でパナソニック・アリーナ(大阪府枚方市)で行われたのですが、地元にも近いので家族なり友達なりが来てくれました。最後の1分ぐらいでの出場でしたが、一番覚えています。もちろんいろいろとタイトルを取ったことも記憶に残っていますが、全ての始まりだったということですね。

――大阪で行われたことも運命かもしれませんね。
正中
 ありますね。それだから覚えているのでしょうし、ちょうど相手チームには兵庫の同期で濱田卓実(神戸村野工業高校→京都産業大学)がいて。彼ともこういうところまで来たなってシンパシーも感じましたし、どちらも全国的に強豪ではない高校から大学に進んで。彼は1年のときからバリバリ目立っていましたけど、そういう存在があったから負けられないと思っていました。関東と関西で、ライバルとは違いますが身近な存在だったので、開幕戦で地元の選手と一緒に立てたのはうれしかったから余計記憶に残っています。

――企業の体育館で試合をしていた時期のあった日本のバスケが、Bリーグができたことで大きく変化していきます。
正中
 Bリーグができたときは「お客さんが入る」「興味を持ってもらえる」ということで興奮しましたね。ようやくこういう時代が来たんだなと。Bリーグが立ち上がることに感動したというより、むしろ多くのお客さんに囲まれてバスケをすることをみんな欲していたと思うんですね。どんなアリーナや体育館で試合をするのか、どんなリーグかということよりも、どんな環境に身を置けるかということに興味があって、いよいよこういうことが始まるのかと思いました。

――それまで代々木第一体育館にあれだけお客さんが一杯になることはなかったと思います。それを見たときどう思いましたか?
正中
 代々木第一では天皇杯などでプレーしたことはありましたが、全く違う雰囲気でした。お客さんも3階席まで見えないくらい入っていて。「あそこに人が座っているんだよな」と何度も確認した記憶があります。まさに想像を超える雰囲気でした。1万人が会場を埋め尽くすとどうなるのか、想像を超えたものでした。

――現在のアルバルク東京のチームカラー、特にハードに練習を行うことは、トヨタ自動車時代から築いてきたものですか? それともルカ(パヴィチェヴィッチ)ヘッドコーチが来てから出来たものですか?
正中
 ルカが来て変わった部分はありますが、全体的に見れば以前から変わらずにあるものだと思います。勝利を期待されて、勝たないと評価されないという環境にいると僕らはずっと思っています。では勝利を勝ち取るためにどうするか、それぞれの選手、スタッフが真摯に向き合い、「これくらいでいいよね」という妥協は一切なりません。僕はこの競技に関わってきてどのシーズンも「そこそこでいいよね」と一度も考えたことがなかったので、こういう環境でやれたのは良かったです。ですから、このチームカラーは一貫してあったことだと思います。

――JBL時代からオフのトレーニングもハードでした。
正中
 練習ができる環境でしたし、選手に対してこれだけの環境があるのだからできない理由はないだろうという雰囲気もあるし、プレーに集中できる環境にしていこうといろんな方たちが尽力されているチームです。選手はプレーに集中して発揮するためだけに取り組める場所なので、それだけできなかった場合はこちらに至らない点があったのだろうと。突きつけられるので、厳しい環境ですがやりがいはありました。結果を求めて自分の成長と向き合える場所だと思います。

――ルカHCが加入したことで、バスケ観が変わりましたか?
正中
 大きく面を食らうというのはなかったです。しかし、準備段階で感銘を受けるほど、徹底する姿勢は中々できることではないですよね。シーズンを通しての徹底ぶり、継続的な姿勢が秀でていて、そのエネルギーを持続する、さらにはチームに持続させることはなかなかできないと思います。これまで3シーズンも継続して高い水準を維持できチームがいい結果を出せたと思います。徹底ぶりは本当にすごいです。

新しい物事との出会いが楽しみ

「ホームの渋谷は自分にとって特別な場所」と正中選手

――引退を決めた理由は肉体的な部分が大きいのか、それともメンタルの部分なのでしょうか?
正中
 肉体的な部分は状態も良かったですし、シーズンが中断から中止が決まった後も5月14日のスタッフとの面談まで1カ月半くらいも限られた環境の中でトレーニングをしていました。次のシーズンにどのように向かっていくのか、まだはっきり決まっていなかったので、自分としてはどう転ぼうが用意しておこうと、体をなるべく良い状態にしておこうと思っていました。しっかりと備えておこうと思っていたのですから、メンタル的に切れていたわけではありません。それでも今の自分がチームに対してやるべきことがもうないと。自分も差し出せるものがないと双方の考えが一致して引退を決めました。

――移籍は考えませんでしたか?
正中
 考えなかったですね。

――7月から会社員として生活がスタートします。楽しみにしていることはありますか?
正中
 やはり新しい物事との出会いは楽しみにしたいですね。楽しみにしなければいけないと思いますし。出会いによって求められること、チャレンジすることが出てくるはずなので、それに自分がどう向き合って取り組んでいくのかも楽しみですね。

――本格的なサラリーマン生活は初めてですね。
正中
 そうですね。再スタートです。

――とはいえバスケにも関わりを持っていたいと引退会見でおっしゃっていました。指導者という立場なのか、それとも運営側なのか、イメージは持っていますか?
正中
 指導をするとなると生半可では務まらないですし、もちろん運営も同様です。指導ではルカHCをイメージしますが、自分がエネルギーを持って徹底して向き合ってやりきれるかと言われると、まだまだその準備ができていないので。ルカHCがやっていたことをやれるのかと自分に問うた時に、「うん、それでもやりたい」と思えたらそういう道もいいんだろうなと思います。運営に関わるチーム周りの仕事も大変なのは分かっていますし、なにしろこのチームにまた自分が学んで持って来れるものが出来たときに戻れるのかなと思います。単にやりたいかどうかではなく、まだ与えられるものがないのでいろいろな経験を積みたいと思います。

――まずは名刺交換からですね。
正中
 みなさん教えてください(笑)

――竹内公輔、譲次兄弟を筆頭に、黄金世代と呼ばれる同期の選手へ投げかけたい言葉はありますか?
正中
 まだまだ(現役が)たくさんいるんですよね。彼らより先に離れるというのがすごく寂しいのですが。それにしても、それぞれ自分の役割、キャラクターをしっかり把握しているし、周りも認めるキャラの濃いやつらばかりですね。やつらのチャレンジは続いていくと思うので応援はしたいと思っています。とはいえ、みなキャリアの終盤に差し掛かっているのは事実です。そういう時期でどのようにプレーをして、チームの役割を果たしていくのか、見せるのかすごく興味はあります。だから、自分ごとのように彼らを応援していくのは続いていくと思います。そういう同期長くやればやるほど、僕も早くバスケ界に戻りたいという欲求につながっていき、彼らの活躍がバスケと関わるところに僕を運んでくれると思うので。勝手に彼らの活躍に刺激をもらいながらつながっていきます。

――まだまだやりそうですね。
正中
 やるでしょうね。あと1、2年という話ではないと思うので。40歳くらいまでみんなやるんじゃないですかね、体と心があれば。そして続けられる環境があれば気持ちもつながっていくと思います。

――最後にファンに向けてのメッセージをお願いします。
正中
 アルバルク東京の正中です。このたび引退を決断しました。これまで多くの方々に応援していただき、またその応援に応えたいと思いこれまでやって来ました。バスケットの一ファンとしてこれからもBリーグ、クラブを支えていけたらなと思いますので、皆さんで一体になって進んでいきましょう。そして渋谷のファン、地域の皆様、僕にとって学生時代、渋谷は特別な場所でした。バスケットにとっても特別な場所です。渋谷の町に行けば思い出すことがたくさんありますし、バスケットにつながるストーリーもたくさんあるので、これからも特別な場所として渋谷があります。一緒にバスケット界、スポーツ界を盛り上げていけたらなと思いますので、これからもどうぞよろしくお願いします。ありがとうございました。

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