2018.08.04

コザを復活させた沖縄の名将と、殻を破れなかった若者たちの夏

後悔の方が多かったと話す安里コーチ [写真]=兼子愼一郎
本格的に取材を始めたのが「仙台の奇跡」と称された2004年アテネ五輪アジア予選。その後は女子バスケをメインに中学、高校と取材のフィールドを広げて、精力的に取材活動を行っている。

 43年ぶりにインターハイの舞台に立った県立コザ高校(沖縄県)だったが、2回戦で開志国際高校(新潟県)の高い壁に跳ね返された。62-97。完敗である。

 試合後、チームを率いる安里幸男コーチは試合に負けたこと以上に「魂を作れなかったことが悔しい」と語った。2メートルを超す2人の留学生を擁し、その高さと強さ、そして日本人選手たちのうまさを融合させた開志国際のバスケットに自分たちの走るバスケットを出せなかった。いや、むしろ出せなかったといより、貫こうという戦う意志が感じられなかったことに憤りを感じたのだ。

「だから楽しめないよね」

 吐き捨てるように言うと、しかし、一息を入れて安里コーチはこう続けた。

「2回戦までは来られたけど、目標のベスト8に入るためにはこれではダメだとわかっただけでも財産だよ。やりきれなかった自分がいる。そこまでの成長もできなかった。それをどう生かすかは、お前たち次第だよと最後に伝えました」

 今回のコザと同じようにサイズの小さい県立辺士名高校や県立北谷高校を全国のベスト4に導いた沖縄の名将・安里コーチ。2014年に定年を迎え、いったんは高校バスケットの最前線から退いたが、「沖縄市のチームを強くしたい」と2016年からコザ高校の指揮を執るようになった。当初は自らが立ち上げた沖縄カップで100点ゲームをされる屈辱も味わったが、その年の4月に入学してきた子たちが3年生になった今年は、台湾のチームに勝つなど力をつけてきた。

「ただこの子たちはおとなしいというか、オーラがないというか……バレー部の顧問に言われたんだけど、学校でもバスケット部は存在感がないというんだ。だから悪いときは相手に飲み込まれてしまう。向かっていくときは大学生が相手でもいいゲームをするんだけどね」

 1回戦の八戸学院光星戦は後者だろう。キャプテンの島袋敬吾は苦しい場面でも重戦車のようにゴールへアタックし、シュートをねじ込んだ。そうして生まれた勢いを最後まで出し続けて逆転勝利を収めている。

 しかし開志国際とのゲームではそうした粘り強さも、戦う気持ちも前面に押し出せないまま、試合終了のブザーを聞くことになってしまった。もちろん開志国際のディフェンスがアタックする隙を作らなかったともいえるが、それでも何かしらの爪痕、“コザらしさ”は出せたのではないか。少なくとも前日ほどの勢い、何かしてくれるんじゃないかといったワクワク感は感じられなかった。

「安里先生からは『何事も気持ちが大事。勝ちたい気持ちを出したチームが勝つ。自分からやりたいと思う気持ちを出せるようにしなさい』と言われてきました。でも今日のゲームでは戦うというより逃げる姿勢になってしまったように思います。ゲームが終わって、今は後悔のほうが大きいです」
島袋も悔しそうに試合を振り返った。

 壁は高ければ高いほど、乗り越えたときに気持ちがいいと歌ったのはミスターチルドレンだったか。しかしその壁を乗り越えられなくても、今の自分がそこまでの力がないと知るだけでも、それは貴重な財産になる。ただその財産をそのまま寝かせておいては、文字どおり宝の持ち腐れになってしまう。財産を生かすか否かは選手次第である。コザの選手たちは何を思って沖縄へ帰るのか――ウインターカップの沖縄県予選は全国に先駆けて9月に行われる。

文=三上太

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