2020.02.06

プロの壁にぶち当たる河村勇輝。「自分がしなければいけないのはチームに勝利をもたらすこと」

三遠のオフェンスの起点、河村勇輝をつぶしにかかる宇都宮のメンバー [写真]=B.LEAGUE
バスケットボールキング編集部。これまで主に中学、高校、女子日本代表をカバーしてきた。また、どういうわけかあまり人が行かない土地での取材も多く、氷点下10度を下回るモンゴルを経験。Twitterのアカウントは @m_irie3

“河村人気”でチームは最多入場記録を更新

デビュー戦を除いて4試合連続で10得点以上をあげている河村勇輝 [写真]=B.LEAGUE


 2月2日、三遠ネオフェニックスはもう1つのホームコート、浜松アリーナで宇都宮ブレックスと対戦。前日の試合でBリーグがスタートして以来、三遠のホームゲームで最多となる4649人のファン・ブースターが詰めかけたが、さらにこの日はその記録を上回る4722名が来場。もちろん多くのファンのお目当ては高校生Bリーガー、三遠の河村勇輝であることは間違いない。それだけに大観衆の前で河村だけでなく、三遠としても何とか一矢報いたいところだった。

 しかし、試合はティップオフ直後から宇都宮がペースを握る。いきなり7-0のランを見せてリードを奪うと、第4クォーターには三遠の得点を6に抑えるなど、最後まで隙のない戦いぶりを見せた。試合後の記者会見で宇都宮の安齋竜三ヘッドコーチは「昨日は前半が良くて、後半が悪かった。しかし、今日は40分間やり続けてくれました」と選手たちを称えた。

 その後、メディアの前に姿を現した河村の表情は、疲れもあるのか、普段よりも暗く感じられた。無理もない。その前週にB1デビューを果たし、水曜日にはアウェイ戦を経験、さらに週末にはリーグの強豪、宇都宮を相手に先発出場を果たしただけでなく、2試合で出場時間は60分を超えていた。

 それについて河村に問うと、「コンディションはうまく調整できていると思います。それは高校や大学と違って、時間をうまく使えるからです。体を休める時は休むし、追い込む時は追い込めます。遠征もありましたが、この1週間はうまくやれたと思っています」。

 それでは何が河村の表情を変えていたのだろう。

勝利に導けないから「自分は何もできていない」

河村は1人のプロとしてチームを勝利に導くことを優先する [写真]=B.LEAGUE


 1月25日の千葉ジェッツ戦でB1デビューを果たした河村だが、入団会見で誓った「チームに勝利を導ける選手になりたい」はまだ実現していない。新潟アルビレックスBB戦、そして今節の宇都宮戦を含め、これまで5試合を戦ってきたがチームはこの間未勝利だ。

 会見では「個人のことよりもチームの勝利を優先」を強調していた河村。思いどおりにできていないのは自身のプレーではなく、コートに立つ4人、いやベンチにいるチーム全体を掌握して勝つことに向かわせることができない戸惑いやいら立ちが表情を曇らせていたのだろう。

「今、自分がしなければいけないのはチームに勝利をもたらすこと。勝利を導けていないのですから、自分としては何もできていないと言えます。このままでは自分がいるうちに1勝もできないかもしれない…、チームを勝たせるためにはもっとコミュニケーションを取らないといけないでしょうし、自分のプレーも見つめ直す必要があります」

 さらに「今は壁に当たっていると思います」と河村は言う。「しかし、入団会見でも言いましたけど、壁に挑戦する気持ちは持ち続けています。勝利に貢献するための準備は怠りません」と最後は自身に言い聞かせるように語った。

 デビュー戦で三遠の河内修斗HCは「(河村)勇輝を高校生だとは思っていません」と語った。「年齢は関係ありません。1人の選手としてどう抑えるかを準備してきました」と今回対戦した宇都宮の安齋HCも河村を特別扱いしない。さらに「河村君のところにはディフェンスで圧をかけました。オフェンスの時にもプレッシャーをかけられたと思います」と試合を振り返った。

 それは対戦チームの指揮官として当然の作戦だ。なぜなら河村がチームの得点源であり、さらにはチームメートに得点を供給する役割も担っている。オフェンスの起点になる選手に思い通りのプレーをさせない――安齋HCがとった作戦は教科書通り。

 チームを勝利に導くこと。河村がその壁を乗り越えようと自問する姿はまさにプロフェッショナルと言える。緊張した表情とあどけない笑顔を見せてくれた記者会見から10日が過ぎ、勝利を渇望して苦悩するその河村の表情はまさにプロそのものだった。

「高校生がプロでプレーするのは時期尚早」、「大学に行ってからでも遅くない」という意見があることも河村は知っている。しかし、高校3年生のこの時期に“プロの本気”と相まみえることを河村は選んだ。本人が思い描く「日本代表の先発ポイントガード」にたどり着くためには、この経験は無駄にはならない。

文=入江美紀雄

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