Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
「(ミスで)あれだけ相手にボールを渡しちょって、勝っちょるっておかしいじゃろ!?」
第3クォーターが終わり、ベンチに戻ってきた選手たちに徳山商工高校(山口県)の中村浩正コーチはそう叫んだ。スコアは45-43。
確かに徳山商工のターンオーバーは柴田学園高校(青森県)より、最終的なスタッツでも多い。しかしその差はわずかに1つ。それでも中村コーチの目には、ミスの多さが命取りになると映っていたのだろう。
「令和3年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」の3回戦、徳山商工と柴田学園の試合は64-66、柴田学園が相馬嘉乃のブザービーターで勝利を得た。「ベスト8を目標にしてきた」という徳山商工はあと一歩、目標に届かなかった。
中村コーチに「おかしいじゃろ!?」と言われた直後の第4クォーター、徳山商工の選手たちは奮起し、一時は7点までリードを広げる。その後も迫る柴田学園に対し、徳山商工は粘り続けた。
残り1分24秒で逆転を許すが、すぐに再逆転(61-60)。残り57秒でフリースローを2本決められ、またも1点のリードを許す。しかも次のオフェンスは得点につながらず、相手ボールとなったタイミングで徳山商工は最後のタイムアウトを取る。
「3点は打たせちゃいけん。2点ならええ」。中村コーチの言葉どおり(と言ってはいけないかもしれないが)、柴田学園がドライブを決めて、61-64。このとき残り12秒。
ここでボールを運んできた徳山商工の上川紫乃は、それまで6本打って1本も入っていなかった3ポイントシュートを沈め64-64と同点に。
残り3秒――。
柴田学園はタイムアウト後、フロントコートからのスローインでパスを受けた2年生センターの佐々木杏花がプレッシャーを受けながら相馬にパス。相馬がドライブを仕掛け、徳山商工コンテストを受けながらも、試合終了のブザーと同時にシュートを決めた。
「昨日もそうでしたが、最初からミスが重なっているので、そのミスを何とか解消しないと格上のチームとは戦えないと言ってきたんです。途中、リードできたのですが、そこで選手たちが勝ちを意識したのかもしれません」と、中村コーチは悔しさをにじませた。
前日の奈良文化高校(奈良県)戦は第4クォーター残り11秒、1点ビハインドで相手ボールのフロントコートからのスローインをスティールし、残り4秒での逆転勝利につなげている。しかし、その試合もミスは多く、20個のターンオーバーを犯している。その反省を今日も生かしきれなかった…。積み重なるミスは、こうした全国大会の、しかも上位進出をかけたゲームでは命取りになる。
県立高校として何とかベスト8に入ろう――それが今回の目標だった。そのためには何か必要なのか。練習中から常にそのことを意識し続けてきた。
昨年のウインターカップの2回戦で桜花学園高校(愛知県)と対戦し、40-108で敗れた経験から、練習中の些細なミスにも「それでベスト8に入れますか? 桜花学園を基準にしたとき、そのギャップは大きくありませんか?」と問い続けてきた。しかし、あと一歩、いや、ほんの数センチのギャップを埋めることができなかった。
それでも鍛えてきたフィジカルコンタクトでは決してひけを取らなかったし、随所で見られた速攻やバックカットからの得点は昨冬の桜花学園戦で得た経験も大きい。
最も身長が高い選手は173センチ。頭抜けて大きい選手や得点力の高い、絶対的なエースがいるわけではない。それでも全員が得点に絡み、リバウンドに絡む。身長162センチながら、バックボードを指の第二関節で触れるほどの跳躍力を持つキャプテンの矢原百華(3年)が言う。
「みんな仲がいいんです。それがプレーにも表れていると思います。頼りあえるというか、誰か1人に任すのではなく、みんなで絶対に勝つと思えるところが私たちの強いところだと思います」
悔しさは残るが、スーバースターのいない「スーパーチーム」になるには、やはりチーム全員で課題を克服し、個々の持ち味を最大限に引き出すしかない。女子日本代表がそうであったように。
中村コーチは試合中にこんなことも叫んでいた。「死に物狂いで頑張ろうで!」
全国ベスト8という目標達成のために、ウインターカップに向けた死に物狂いの挑戦はまだまだ続く。
取材・文・写真=三上太