2021.08.15

どん底を味わった桜花学園の3年生たち…もがきながらもつかんだ夏の金メダル

金メダルを手にして笑顔を見せる桜花学園の3年生たち[写真]=伊藤 大允
フリーライター

 8月10日~15日の期間で熱戦が繰り広げられた「令和3年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」の女子は、桜花学園高校が3大会連続25回目の優勝で終えた。

 先に開催された男子の優勝が中部大学第一高校だったので、今夏は、男女ともに愛知県のチームが頂点に立ったことになる。

 その女子の表彰式後、こんなシーンがあった。応援の選手やスタッフも一緒になって集合写真の撮影をしようとしたとき、朝比奈あずさと平下結貴(いずれも3年)が、すかさずエントリー外の3年生2人、仲村瑠夏と松浦涼香に金メダルをかけたのだ。

日本一のために課題のメンタルを克服

 3年生8人にとって、今回は苦しみながらつかんだ優勝だった。

 キャプテンの朝比奈、平下をはじめ3年生は中学時代からジュニアオールスターや全中(全国中学校大会)で活躍した選手が多く、出場資格が1年生と早生まれの2年生に変更になった2年前の国体でも彼女たちが中心となり優勝を達成している。それだけに、昨年からのスターターは朝比奈のみではあったものの、今年は新チーム結成当初から今夏のインターハイでの優勝候補筆頭に挙げられていた。

 しかし、6月の東海大会決勝で岐阜女子高校に敗戦。いきなりつまずいてしまう。

 このとき、桜花学園の井上眞一コーチが敗因に挙げたのが『3年生のメンタル』。指揮官からは「本当に勝ちたいのかわからない」と厳しい言葉が聞かれた。

 今の3年生は「優しくて真面目でいい子たち」とスタッフ陣は声をそろえる。それは良いことではあるのだが、一方で、優しい性格がゆえに誰かに任せてしまう、闘争心の薄さにもつながっていると指揮官は感じたのだろう。

「相当厳しくメンタルについては言ってきました」と、井上コーチは東海大会敗戦からインターハイまでのことを振り返る。これに、3年生たちは必死に応えた。

「(練習中に)あまり言い合っていなかったことが東海大会の負けにつながったと思うので、(東海大会以降は)しっかり切り替えて3年生全員で言い合ってきました」と語ったのは全試合スターターを務め、決勝では16得点6アシストをマークした伊波美空。

 決勝では25得点9リバウンドと大活躍を見せた平下も「東海大会では、最後まで逃げて負けてしまったので、今回は絶対に逃げず、人に任せないで、一人ひとりがリングに向かおうと話し合ってきました」と言う。

 迎えたインターハイでは、どの試合も気持ちを前面に出したプレーで挑み、中でも大接戦となった準決勝では、タイムアウトの度にキャプテンの朝比奈が中心となって「ここだよ!」「集中しよう!」と声を掛け合った。

「(3回戦の)福岡大学附属若葉高校戦や(準々決勝の)聖カタリナ学園戦など、すごくノッていると感じました。その勢いで準決勝も勝てたかなと思います」と井上コーチも3年生たちの変化をこう語った。

頼もしい働きを見せたバックアップの前田と玉川

3年生の意地を見せた(左から)玉川と前田[写真]=伊藤 大允

 スターターを務めた朝比奈、伊波、平下はもちろんのこと、大会では4番ポジションのバックアップとして前田心咲(3年)、ガードの控えとして玉川なつ珠(3年)が苦しい場面でよくつないだ。玉川は持ち味の攻撃力を発揮し、前田は準決勝では24分、決勝でも27分の出場。攻防にわたって献身的なプレーを見せた。

 その決勝戦、残り1分の場面でもう一人の3年生・安田朋生がコートに立つとベンチ、そして応援席がひと際盛り上がった。

 安田は、エントリー変更でメンバー入りした選手。普段の練習から一生懸命頑張る姿はチームメートを鼓舞するムードメーカーだと長門明日香アシスタントコーチはいう。確かに、今大会では、どんな試合でも一度コートに立てばルーズボールに飛びつき、ガッツあるプレーを見せていた。

 その安田を加え3年生5人が試合終了の瞬間をコートで味わった。

「(東海大会で)負けてから練習でも3年が中心になって必死にやってきたので、すごくうれしかったです。それに(安田が)点を決めてくれて良かったです」と朝比奈は喜びの声を発した。

 どん底を味わった6月から2カ月。3年生たちはスタッフが驚くほど、何度も何度もミーティングを重ねてきた。そんな3年生たちに、「メンタルの要素を乗り越えて、よくやってくれたと思います」と指揮官は手放して称えていた。

ムードメーカーの安田は決勝戦でフリースロー2本を沈めた[写真]=伊藤 大允

写真=伊藤 大允
取材・文=田島早苗

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