2023.11.13
72-74――。アジア競技大会女子決勝は、7月のアジアカップ決勝で71-73のスコアで敗れた中国にまたも2点差で及ばず、アジアカップに続く銀メダルという結果となった。ただ、完全アウェーの中で真剣勝負をしたからこそ、多くの収穫を得られた大会になった。
第2クォーター中盤に最大17点差をつけられた日本は、あきらめない粘りで追い上げを図り、残り13.8秒に林咲希が3ポイントを決めて72-72の同点に追いつく。このとき1万8千人を埋め尽くした杭州オリンピックセンターでは、悲鳴と声援が入り交じった地鳴りのような大歓声に包まれていた。
「このアウェーの中で勝つことをいい経験にしたい思いがあったので、アウェーの状態はそんなに気にはならなかったです」(髙田真希)「ここまでアウェーははじめての経験で耳がバグりましたが、こんなにたくさんのお客さんがいる中で試合することはすごく幸せなことで、私自身は楽しかったです」(宮崎早織)
完全アウェーの洗礼を浴びても、気後れすることはなかったという選手たち。ただ、前半は3ポイントを封じにきた中国ディフェンスの前にオフェンスが停滞。そこで、ハーフタイムに選手同士で状況を分析し、やるべきことを再確認したという。ここが、これまでより成長していた点だった。
むしろ、重圧を感じていたのは、ホームで負けられない中国のほうだった。現在の中国は、2メートル級のセンター2枚と個性派のガード陣を筆頭に、どのポジションにもタレントがそろう黄金期を迎えている。7月のアジアカップでは負傷者を数人抱えていたが、今大会は完全体となって臨んでいた。自国開催で負けるわけにはいかなかったのだ。そうした中国の気合いは、いつも以上に速くなっていたトランジションの展開にも表れていた。しかし、その速さが40分続くかといえば、落ちるときは必ずくる。日本は中国のペースが落ちてきたところを見逃さずに追い上げていった。
決勝では、本橋菜子と星杏璃ら計算できるガード陣が体調不良によって起用できなかったが、宮崎がスピードある展開を作り、川井麻衣が持ち味のゲームコントロールを発揮。髙田と赤穂ひまわりはインサイドのディフェンスに奮闘し、決勝でスタメンに抜擢された東藤なな子は果敢にゴールへとアタック。そして、残り13.8秒に林が同点となる3ポイントを沈め、真のアジア女王を決める勝負のときを迎えたのである。
残り13.8秒、タイムアウト明けの中国は意外な攻め手を出してきた。高さを警戒していた日本ディフェンスの裏を突いて、ポイントガードの王思雨がゴールへと突進する策に出たのだ。このプレーを振り返って林は「自分がディフェンスをスライドすれば良かったが、相手のセットプレーが本当にうまかったです…」と悔しがった。最後のオフェンスでは赤穂がボールプッシュからゴールを狙うも、これが外れてタイムアップ。わずか1ゴール差で及ばなかった。
勝った瞬間の中国の喜びようを見れば、この大会にどれだけ懸けていたかわかるだろう。試合後、中国の鄭薇ヘッドコーチはこのように勝因を語っている。
「日本はいつでも非常に粘り強く、絶対に勝つという信念を持っているチームです。試合前に選手たちに『何点リードしても甘く見ないでほしい』と言いました。予想通り、日本は追いつきました。私は日本が粘り強くプレーすることは分かっていたので、試合前に十分な準備をしました。最後はこれまでやったことのないトリックプレーを使って勝負したのです」
『打倒日本』に向けて入念な対策を練ってきた中国。今後のアジアはこの黄金期を迎えた中国を中心に進むことは間違いないが、昨年から指揮を執る鄭薇HCになってからは、勝負強さが増していることを忘れないでおきたい。
メダルセレモニーが終わったあとのコートでは、中国・日本・韓国の『金銀銅メダルチーム』が笑顔で記念写真に収まる胸が熱くなるシーンがあった。互いを認め合うアジアのライバル同士だからこそ、健闘を讃え合う姿はとても美しかった。
ただ、その笑顔の裏では、試合後のインタビューで「悔しいです…」を連呼する選手たちの姿があった。特に、最後のゴールを決められなかった赤穂は「自分がボールプッシュをすれば絶対に抜けると思っていたのですが…落としてしまいました。普通に打ったんですけど、あそこで決め切れなかったのが悔しいので、もっと練習します」と反省の弁を繰り返していた。
だが、体調不良者が出た状態で、最後まであきらめない勝負を繰り広げたことは、残り5分で崩れたアジアカップ決勝から比べれば、確実にステップアップしていると言える。恩塚亨HCも「私も選手たちも、納得感を持ってゲーム中にアジャストできたことに成長を感じています」と評価。キャプテンの林は「足を止めずに自分たちのリズムができたときは『こういうことなんだな』と、恩塚さんのやりたいバスケがわかってきました」と語っている。東京五輪後に進めてきた新しいスタイルに対し、手応えをつかみ始めていることは確かだ。
日本は今、新しいスタイルを築いている最中だ。東京五輪では銀メダルの快挙を成し遂げたが、決勝のアメリカ戦では執拗なディナイディフェンスによってチームプレーが機能しなかったことで、次のステージに向かうときが来ていた。恩塚HCは「コート上の5人があらゆる局面で効果的な判断のもとで動く」スタイルを掲げてチーム作りをスタート。ある意味、『究極の理想形』と言えるスタイルだが、日本が次のステップに進むためには必要なチャレンジだった。
昨年のワールドカップでは、この新しいスタイルに迷いが生じたために惨敗に終わっている。改革には時間がかかることは致し方ないだろう。しかし、日本のチームプレーが崩れてしまった原因には、新しいスタイルを導入したからという理由だけでなく、理想に突き進むあまり疎かにしていた部分があったことを見過ごしてはならない。その最たるものが「オフェンス重視になっていて、基礎的な練習があまりできていなかったこと」だと、キャプテンの林をはじめとする東京五輪時のメンバーたちは口をそろえている。
基礎的なこととは、ディフェンスのローテーションやリバウンドを取りに行く姿勢、各自の仕事をさぼらないことなど、これまで日本が徹底してきた『細かいこと』を指す。そうした疎かにしてはいけないことを積み重ねてこそ、恩塚HCが掲げる「停滞しないオフェンス」が生きてくるのである。恩塚HCも「タフな試合になると各自がやり切ることができなくなっていたのは、私のほうでトレーニング不足だったところもあった」と発言している。そうした課題が少しずつ改善されてきた中で、髙田は今大会をこのように総括している。
「私たちに足りないのは、真剣勝負の中で高さあるチームと勝負をすることだったので、アジア大会は本当にいい経験になったし、決勝のゲーム中に修正できたのは今後へのいい材料になりました。自分たちが目指しているのはパリ五輪の切符をつかむこと。そのためにはもっとチーム力を高めないといけないし、細かいことを追求していく日本のバスケを40分間やり続けるしかないと改めて痛感しました。中国に負けたことは悔しいですが、確実に良くはなっているので、決して下を向くことなく、これからも成長していきたい」
今後は、2月の五輪最終予選(OQT)に向けて、各自が細部までを突き詰めながらレベルアップを図ることが求められる。そして、今回はスモールサイズで臨んだが、OQTやオリンピックに向けては、やはりインサイドの選手層の厚さが必要になってくるだろう。そのあたりは、Wリーグで選手たちがどのような成長を見せるのか、注目していきたいところだ。
文・写真=小永吉陽子
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