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『B MY HERO!』
アメリカのテキサス州で行われている日本、アメリカ、スペインの3カ国による車いすバスケットボール男子の親善試合。第3日目の23日、日本はスペイン、アメリカとのダブルヘッダーに臨んだ。勝敗にこだわりながらも、1年後の”本番”を見据えた”試行錯誤”の戦略、選手起用が続く日本。試合には負けはしたものの、チームは着実に前進している様子が見て取れた。そして、選手個々もまた、本気でメダルを目指しているからこその”試練”にぶつかっていた――。
ダブルヘッダーの1試合目、スペインとの試合は、勝利まで”あと一歩”に迫る惜敗となった。第1クォーターは12-19としっかりと食らいついていった日本は、第2クォーターでは、5人の連携がピタリと合うシーンが多く見られ、26-27と1点差に迫った。そして第3クォーターでは一時は逆転に成功。しかし、中盤にシュートの確率が悪い時間帯が続き、再びリードを奪われた日本は、そのまま逃げ切られ、62-70で敗れた。
しかし、昨年の世界選手権ではわずか2点差に迫った相手だけに、日本がスペインを”射程圏内”にしていることは明らかだ。そして、スペインにとっても日本は簡単に勝てる相手ではなくなっている。あとは、”あと一歩”をどう詰め切れるのか。明日24日、最後のスペイン戦に臨む。
続いて行われたアメリカ戦は、46-95で敗れた。内容的にはスコアほどの差があったわけではない。日本はボールマンに対してしっかりとジャンプアップし、厳しくプレッシャーをかけた。そのディフェンスは、アメリカを確かに苦しい状況に追い込んでいた。第2クォーターでは、アメリカは24秒バイオレーションを取られるほどに攻めあぐねていたのだ。一方、日本の攻撃もしっかりと攻め切るかたちが次々と生まれていた。
しかし、そうした中でアメリカは、日本が確実にタフショットに追い込んでも、それを上回る”個の力”で次々とシュートを決めていった。さらにどのラインナップでも、コート上の5人全員が”好シューター”と言えるほどの実力を兼ね備えていた。内容は決して悪くはなかったが、アメリカとの”個”の差が明確となった試合だった。
「チームとしていい部分はたくさん出てきているし、”もっとできる”と思えている選手しかいない。そうした中で、アメリカとの明らかな差は個々の力。それを埋めていくこと、そして補えるだけの戦略を持つことがメダルへの道だと思います」
試合後、そう答えたのは秋田啓だ。それは、まるで自分自身に言っているかのようだった。
リオ後に新戦力として加わった秋田は、190センチ超の身長を生かしたセンタープレーヤー。海外勢に高さで劣る日本にとっては、待望の選手で、彼の存在は東京パラリンピックで史上初のメダル獲得を目指す日本にとっては今や不可欠となっている。
その秋田が最近感じているのは、自らの成長幅の”停滞”だという。
「先輩たちの力を借りながら、でも後ろをついていくだけではなく、自分がやれることはもっとあるはず。もっと成長できるはずなのに、その上げ幅が少しずつ小さくなってきているなと……」
この2年間で、秋田の世界からの注目度は高まっている。彼はすでに日本の主力の一人として位置づけられ、だからこそより厳しくマークされている。インサイドで簡単にシュートを打てるシーンはほとんどない。そんな中でもタフショットを決めていかなければならないのが、センタープレーヤーの宿命とも言える。
だが、ここ最近のシュート成功率は決して高くはない。そのためか、前日はゴールに向かう姿勢に迷いが生じているように感じられていた。一方、今日の試合では再び果敢にシュートを狙っていく姿が戻っていた。
実は、前日の夜、秋田はスタッフ部屋を訪れていた。自分が求められていることを再確認するためだった。「もっとわがままに、自己主張していい」。そう言われたという。
「自分のイメージの中では、もっとできることはたくさんある」と語る秋田。それを一つ一つ証明していくことで、偉大な先輩たちの”前”に出るつもりだ。それを一つのモチベーションとして今、彼は試練に立ち向かっている。
文・写真=斎藤寿子