2020.02.18

車いすバスケ女子日本代表、光ったチーム最年少・柳本あまねの存在

攻守で活躍が光った柳本[写真]=斎藤寿子
フリーライター

 2月14日から16日の3日間にわたって、丸善インテックアリーナ大阪で行われた「国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会」(大阪カップ)。女子日本代表はイギリス、カナダという強豪2カ国とそれぞれ2試合ずつのリーグ戦を行った結果、4戦全敗を喫した。3大会ぶりのパラリンピックとなる今夏の東京大会でメダル獲得を目指す日本にとって、厳しい現実を突き付けられたかたちだ。だが、試合内容にフォーカスすれば、収穫の多い大会となったことも事実。その一つとして、チーム最年少、柳本あまねの本格的な台頭が挙げられる。

チーム最年少、21歳の柳本がチームをけん引した[写真]=斎藤寿子

攻守にわたってチームに流れをもたらした柳本

 2018年世界選手権で銀メダルのイギリス、同5位で昨年のアメリカ選手権で優勝に輝いたカナダは、近年はパラリンピック、世界選手権というトップステージに立つことさえできずにいる日本にとって、まさに格上の相手だった。

 しかし、決して完敗したわけではない。それどころか、全試合で日本にも勝機があった。特に44-49とわずか5点差のイギリスとの第1戦、そして前半リードで試合を折り返したカナダとの第2戦においては、相手を慌てさせ、本気にさせたことは間違いない。

 そしてチームに大きく貢献し、勢いをもたらしたのが柳本だった。その存在の大きさは、初戦から光っていた。イギリスとの第1戦、第1クォーター残り3分で柳本が投入されると、それまでなかなか糸口を見いだせていなかった日本の攻撃に変化が表れた。チームでもトップのスピードを誇る柳本が入ることによって、試合の展開がよりスピードアップしたことはもちろんだが、それだけではなかった。

 ワンガードとして柳本が入ることによって、それまでツーガードとしてボールコントロールも担っていた網本麻里と萩野真世が、本来の力を発揮することができるようになったことが大きかった。ハイポインターの網本は、アウトサイドのシュートはもちろん、カットインプレーも得意としている。また、ローポインターの萩野はガードも務めるが、ミドルシュートにも自信を持っており、どちらかというとシューターに専念することによって、より実力を発揮するタイプと言える。

そのため、柳本が入った後の日本には、より多くのバリエーションのシュートチャンスが作り出されていた。網本も「あまねがいると、ボールを任せることができるので、頼りになります。自分もインサイドへのアタックに専念することができる」と、柳本の存在の大きさを語っている。

 一方、いち早くバックコートに戻って相手の速攻やカウンターを食い止め、素早くスイッチしヘルプし合いながら、高さで上回る相手をインサイドから締め出す日本の守備にも、柳本のスピードと粘り強さは欠かすことはできなかった。2試合目以降、柳本はすべてスタメンに抜擢され、躍進を遂げた。

大会を通して、チーム2位となる38得点をマーク[写真]=斎藤寿子

成長著しい「トランジションバスケの申し子」

 必ずと言っていいほどビッグマンを擁する海外勢には、日本は高さで対抗することができない。だからこそ、武器として磨いてきたのが攻守の切り替えを速くしたトランジションバスケだ。いかに早くフロントコートにボールを運び、相手の守備が整わないうちにアウトナンバーの形で攻め、そしていかに素早くバックコートに戻り、相手をゴールに近付けさせないか。これが、日本が理想とし、追求してきたスタイルだ。

 その「トランジションバスケの申し子」と岩佐義明HCから高く評価され期待されてきたのが、柳本だ。彼女は昨年、著しい成長を見せていた。

 5月に行われた女子U25世界選手権では国際経験がない選手がほとんどのチームの中、柳本はゲームメーカー、ポイントゲッター、そして守備の要としてマルチな活躍でベスト4に導いた。さらにA代表としても年末のアジアオセアニアチャンピオンシップスでは、世界選手権4位のアジア女王・中国や、何人もの超ビッグマンをそろえるオーストラリアに対し、特にプレスディフェンスでのチームへの貢献ぶりは目立った。

 それがここにきて、ガード役を担い始め、ますます活躍の幅を広げ始めている。シュート力もあり、今大会は4試合中2試合で2ケタ得点をマーク。全試合での総得点は、北田千尋の42に続く38を誇り、得点源としてもチームに大きく貢献した。

 3日間の戦いを終え、未勝利に終わった結果を踏まえて、柳本はこう語った。

「悔しいというか、やりきれない感じ。なぜ勝てないんだろうという気持ちでいっぱいです。東京パラリンピックまであと半年、目標である銅メダルを目指してチーム一丸となって課題に取り組んでいきたいと思います」

 チーム最年少だが、柳本はそこに甘えるつもりはまったくない。これまで味わってきた屈辱を力に変え、東京パラリンピックではメダル獲得に貢献するつもりだ。

文・写真=斎藤寿子