Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
インタビューした選手に「現在成長著しい選手」「ライバルだと思っている同世代選手」「ベテランから見て将来が楽しみだと思っている若手」「若手から見て憧れているベテラン」などを指名してもらい、リレー方式で掲載するこの企画。車いすバスケットボール選手の個性的なパーソナリティーに迫っていく。
文=斎藤寿子
Vol.21で登場した碓井琴音(SCRATCH)とは同学年で、現在はともに女子U25強化育成の副キャプテンを務めているのが立岡ほたる(パッション)だ。代表デビューとなった2019年の女子U25世界選手権では、全6試合に出場。予選の南アフリカ戦では10得点を挙げ、準決勝のアメリカ戦では20分以上出場するなど4強入りに大きく貢献した。自身初の“世界一決定戦”が立岡にもたらしたものとは――。
子どものころからスポーツが得意だった立岡。小学1年から始めたバドミントンで頭角を現し、中学時代は県内でトップ10に入るプレーヤーとして活躍した。高校もスポーツの強豪校に進学し、インターハイ出場を目指していた。病魔が襲ったのはそんな矢先のことだった。
高校1年のある日、体調を崩して入院することになった。するとその日を境に病状が悪化し、入院中にまったく歩けなくなってしまった。最終的に診断されたのは「多発性硬化症」という進行性の難病だった。
退院をして高校に復学したが、車いすユーザーとなった立岡はバドミントンの道を諦めるしかなかった。一番の生きがいを奪われ、一時は自暴自棄になったこともあった。そんななか、車いすバスケットボールに出会ったのは高校3年の時。しかし、その時はほとんど興味が湧かなかったという。本格的に取り組むようになったのは、大学進学後のことだった。1年の夏に行われたジュニア講習会で、「自分もあんなふうにプレーしたい」と思ったことがきっかけだった。
その後、練習にもより力を入れて取り組むようになった立岡。すると、大学3年時には女子U25日本代表候補として強化合宿に呼ばれ、翌19年には12人のメンバーに選出されてU25世界選手権への出場を果たした。
最も印象に残っているのは、予選の南アフリカ戦だ。「とにかく楽しかった、という記憶しかない」と振り返る立岡はその試合まさに“絶好調”だった。フィールドゴール成功率は80パーセント、フリースローも100パーセントで決め、14分のプレータイムで初の2ケタとなる10得点を挙げてみせた。
結果は4位とあと一歩のところでメダルを逃し、表彰式では悔しい思いが沸き上がってきた。しかし、それだけではなかった。
「メダルは欲しかったし、代表としては結果にこだわらなければいけない。でも、楽しかったなって思えたんです。だから目標の半分はクリアできたと思いました」
さらにU25世界選手権をきっかけに、車いすバスケ選手として挑戦し続けていく覚悟が生まれたという。それはバドミントンへの未練を完全に払しょくしたということでもあった。
「車いすバスケをやりながら、ずっと気持ちのどこかにバドミントンがありました。体育館に入ると、自然と最初に視線を送ってしまうのはバドミントンのコートだったり。やっぱりバドミントンが自分の人生というのが抜けなくて……。でも、U25世界選手権で自分は車いすバスケで頑張っていくんだ、という気持ちが固まりました。やっと今の自分の人生からバドミントンを切り離すことができました」
覚悟が生まれた一番の要因は、現地に応援に駆けつけてくれた両親にもう一度コートで選手としての姿を見せることができたことだった。
「病気になってバドミントンができなくなった時、周囲にキツくあたったこともありました。そんな時も支えてくれた両親のおかげで、今の自分があります。だからその両親に自分がスポーツの舞台でもう一度頑張りたい、という気持ちをプレーする姿で示すことができたことは大きかったです」
現在はフィジカル強化に重点を置き、ほぼ毎日体育館やジムでトレーニングをしている。目指すのはA代表のメンバーに入り、3年後のパリパラリンピックに出場することだ。これまでの自分には考えられなかった高い目標を掲げるようになったのは、U25世界選手権で自信を得たからだ。
立岡は激しい運動を長く継続すると体に熱がこもり、それが病気を進行させる恐れがある。そのため、プレータイムに制限がある自分はA代表を目指すなど無理だと考えていたのだ。しかし、U25世界選手権でその考えは変わった。
「今までは、40分間フルに動ける選手でなければいけないと思っていました。でも、U25世界選手権では南アフリカ戦後にインタビューを受けるなど、プレータイムが短くてもメディアに注目してもらうことができました。それで気づいたんです。短い時間でも誰よりもいいプレーをして、誰かの心に残るような活躍をすることが大事なんだって。だから、短い時間しか継続してプレーできない自分でも、代表を目指すことができるんだと思うようになったんです」
強さはもちろん、誰よりもコート上で楽しそうにプレーをする選手を理想としている立岡。パリに向けて気持ちは一直線だ。