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3日、車いすバスケットボール男子日本代表がイギリスを79-68で破り、史上初の決勝進出を決めた。イギリスは2018年世界選手権決勝に続いて、今大会のグループリーグでも世界最強のアメリカを破った強豪国。そのイギリスに2ケタ差での勝利という結果は、決して奇跡などではない。日本に勝利をもたらしたのは“シックスマンたち”の存在が挙げられる。ベンチのレベルの高さとバリエーションの豊富さとの違いに、両チームの明暗が分かれた試合だった。
「誰が出ても同じ力を発揮できるのが一番の強み」
今大会、京谷和幸ヘッドコーチが何度も口にしているこの言葉からは、全選手への信頼の高さがうかがえる。そして実際、日本は世界随一の豊富なバリエーションを持つラインナップで勝ち上がってきた。スターティングメンバーだけが決して主力ではなく、ベンチには多くのキープレーヤーが存在することが、日本の武器となっている。
メダル獲得を決定づける大事な試合となった準決勝でも、その強さが発揮された。そして、それがイギリスとの間に生まれた“11点差”だったに違いない。
試合の出だしで主導権を握りつつあったのは、イギリスだった。日本が最も警戒していた超ビッグマンのリー・マニングのインサイドアタックを止めることができず、日本にとって不利な高さで流れを持っていかれ始めていた。
そこで京谷HCが投入したのは、ディフェンスに絶対的信頼を寄せる宮島徹也と岩井孝義だった。結局、第1クォーターは15-23と8点差をつけられたが、宮島と岩井が入って以降、一度もマニングには得点を許してはいない。イギリスが完全に主導権を握る前に、まず最初のテコ入れが成功したことが非常に大きく、後の追い上げにつながったはずだ。
そして、さらにこの試合のポイントとなったのが、第2クォーターにあった。第1クォーターと同じメンバーで来たイギリスに対し、日本は鳥海連志と秋田啓を除く3人を入れ替えたラインナップを投入。そして、ディフェンスのスタイルを変えたことで、試合の流れが大きく日本に傾いた。
京谷HCも、この第2クォーターでのディフェンスに大きな手応えをつかんでいた。
「カウントした時は前からプレスで当たっていきながら、(シュートが外れて)相手にリバウンドを取られた時には一気に下がらずに、(高い位置で)フラットのラインをつくり、相手の攻撃を遅らせながらハーフコートのディフェンスに入っていくということをしました。練習で確認した通りのことを選手たちが遂行してくれたので、非常に良いディフェンスができたと思います」
チーム内で“フラット”と呼ばれているそのディフェンスの中心的役割を果たした香西宏昭が、オフェンス面でも第2クォーターで2本の3ポイントシュートを決めるなど活躍。今大会は全試合でベンチスタートだが、準決勝までの7試合で、1試合平均得点がチーム最多の15.3点、フィールドゴール成功率54%を誇る香西の得点力が、日本の大きな武器の一つとなっていることは間違いない。香西について、京谷HCも「途中から入って、得点を取ってくれる彼の存在はチームにとって非常に大きい」と信頼感を寄せている。
さらに第2クォーターの終盤で投入された古澤拓也も、コートに出てすぐに今大会初の3ポイントシュートを決めた。それについても京谷HCは「練習の時に3ポイントをズバズバ入れていたので期待していたが、それにしっかりと応えてくれたのは、HCとしてはありがたい」と語っている。
一方のイギリスには、カードがあまりにも少なかった。主力とされるラインナップはわずか2種類のみ。それもスタメンの5人が30分以上出場し、ベンチのプレータイムはわずかだった。試合中に必ず訪れる我慢の時間帯を凌いだり、劣勢の時に流れを変えるなど、 “シックスマンたち”の存在の違いが、両チームの明暗を分けたのだろう。
大会最終日の5日、日本はアメリカと対戦する。日本と同様に、速い展開を得意とするアメリカは、スピードもシュート力も世界トップ。果たして日本は、パラリンピック連覇を狙う王者の牙城をどう崩すそうとするのか。トランジションバスケのガチンコ勝負に、一瞬も目が離せそうにない。
文=斎藤寿子