Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』

インディアナ・ペイサーズのアシスタント・アスレチックトレーナー兼理学療法士兼スポーツ・メディスン・アドミニストレーターとして活躍する佐藤絢美さん。目標を叶えるために渡米し、知識とスキルを積み重ねながらバスケットボール選手をメディカル面から支えてきた。NBAの世界に足を踏み入れてからは、専門分野にとどまらず、人としての在り方にも刺激を受ける日々を過ごしている。
後編では、NBAのアスレチックトレーナーとしての仕事や選手の体のケアへの意識、そしてNBAという特別な場所で学んだことを日本に広げていきたいという佐藤さんの思いについて聞いた。
インタビュー・文=山脇明子
佐藤さんがリーダーシップに長けていると感じる一人、カーライルHC [写真]=Getty Images
リーダーは、性格の違う人たちをまとめて一つのゴールに引っ張っていかなければいけないので、本当に難しい仕事だと思います。ペイサーズはケンカというケンカはないですけど、一人ひとりの意見をちゃんと聞いて、公平にどうやって引っ張っていったらいいのかなど、リーダーにならないとわからない、やってみないとわからない、教科書には書いてない事例について、彼らからとても学んでいます。
それは、NBAというトップレベルの世界だからこそ学べていると思いますしそれこそ(バスケットボール運営部門代表の)ケビン(プリチャード)や(ゼネラルマネジャーの)チャド(ブキャナン)も、すごくそれが上手な人たちです。
――選手の体のケアに対する意識はいかがですか?
佐藤 ペイサーズは「アベイラビリティ(出場可能性)」の高さで評価されていて、シーズン後の選手による匿名アンケートでも、メディカル部門でトップの評価を得ました。
チームに入って実際思うのですが、ケースバイケースにおいて、安全かどうか、プレーできるかどうかを判断して、しっかりと選手に説明をしますし、強制はしません。選手が安心して安全にプレーできる環境を整えらることを優先するチームで、普段から注力していることがアベイラビリティが高い理由だと思います。
あと、ペイサーズはマッサージセラピストが2人います。マッサージセラピストを外部に依頼するチームはありますが、フルタイムで一緒にトラベルする、しかも2人いるというチームは数少なくて、それがたぶん、ものすごくリカバリーの助けになっていると思います。しかもとてもスキルのある2人なので、それが選手の回復の役に立ってるっていうのは見ていてわかります。
――選手から質問を受けることも?
佐藤 よくあります。専門的なことになると、こういうときはどういうものを食べた方がいいかという質問です。でもそれは私の担当外で、チームには栄養士がいて、彼女がよくやってくれています。ケガのことに関しては、「ここが痛いんだけど、家でどんなことしたらいい?」とか、「このケガのときは、冷やした方がいいの? 温めた方がいいの?」「家でストレッチしていいの?」などですね。ケガによって「ストレッチは、今は(行わず)待とう」という場合もあります。
――自分の体のことをとても気にかけている選手は誰ですか?
佐藤 度合いはいろいろありますが、もうみんなです。この選手は本当にきっちりしているなというのは、マイルズ(ターナー)です。彼、性格がちゃんとしているので、私、勝手に彼に“学級委員長”っていうあだ名をつけているんです(笑)。本人にも言っているから大丈夫なんですけど、本当にきっちりしてるので。食べ物からルーティンからきっちりしていますね。でも、ペイサーズの選手は、みんな自分で気にして、いろいろ実行しています。いい意味で、気にする選手はいっぱいいますね。
――NBAトレーナーの日常について教えてください。
佐藤 私はGリーグ出身なので、Gリーグはスタッフの数が少ないこともあり、どちらかというとGリーグのときの方が時間がありませんでした。
それでもNBAでは、例えば夜中に選手が「氷が欲しい」などと言ってきて、持って行ったりすることもありますし、翌日のチームでのスケジュールが変更になって(翌日の予定を)作り直すこともあるので、携帯電話はいつも持ってる状態ですね。(トレーナーは)誰もが常にそういう生活だと思います。
――オフシーズンも忙しいと聞きました。
佐藤 オフシーズンは、シーズン中に比べたら少しはゆっくりできますが、ドラフトワークアウトがあって、ドラフトがあって、次はサマーリーグがあって。あと若い選手は(チームの施設に)残ってトレーニングするので、仕事がないわけではないので忙しいですね。拘束時間は短くなりますけど。
――オフシーズンのトレーニングに同行してほしいとリクエストする選手もいると聞きます。
佐藤 ありますね。選手のホームタウンに行くスタッフもいます。私は残るのですが、実際そういうのはあります。
――トリートメント中、選手とはどんな会話をしますか?
佐藤 選手にもよりますし、“戦う”仕事だから、話し過ぎない方がいいかななど、状況を見て判断します。携帯を見てる理由が、もしかしたら「誰とも話したくない」「自分のゾーンに入りたい」からかもしれません。ずっと見ているなと思ったら、そっとしておいてトリートメントをします。例えば前の試合でちょっとうまくいかなかった選手で、自分のこと責めてそうだなと思ったら、選手がどう受け取るかわからないですけど、「あなたの強みはここじゃないかな」などと言ってみたりとか、「そんなに自分を責めすぎない方がいいよ」と言ったり。あとは、他愛のない話ですね。
――今(取材時点)プレーオフもファイナルまで来ました。プレーオフに入ってから、仕事に変化はありましたか?
佐藤 同じですね。さっきトリートメントしていた選手とも話していたんですけど、ファイナルだけど、シーズンの1試合として捉えている選手が多いと思います。ファイナルを戦っていることは、もちろんうれしいことですけど、まだ終わっていないので。
――でも心身ともに選手の疲労はすごいでしょう?
佐藤 そうですね。選手たちはよくやっていると思います。ペイサーズの場合は、アンダードッグとしてここまで勝ち上がって来ているので、それが強さの源になっているのかもしれません。「なにくそ」っていう、それが力になっている部分があるので、そういうところが良かったのかなと思います。「誰も信じてくれなくても、自分たちはやってやる」という気持ちとファンの後押しが力になっています。
――将来は日本にも貢献したいとおっしゃっていましたが、今も変わらぬ思いはありますか?
佐藤 はい。それは必ずしも「日本に帰ること」が前提ではありません。例えば一時帰国の際に理学療法クリニックにうかがって、こちらで学んだことを共有したり、今いる場所だからこそできる形で日本に還元できたらと思っています。今はもちろんここにいたいので、日本に帰らなくてもできる還元の仕方を模索中です。
日本へも思いも語ってくれました [写真]=山脇明子