2019.07.12
6月23日、2年連続3度目の来日となったステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)が、国際基督教大学(東京都三鷹市/以降、ICU)へ姿を現した。この日カリーは22日からICUで行われていた「Underrated Tour, powered by Rakuten」(以降、「Underrated Tour」)の2日目(最終日)で、このキャンプに参加した高校生たち、コーチ陣たちと共に汗を流した。
カリーは今年1月に楽天株式会社(以降、楽天)とパートナーシップ契約を結び、グローバルアンバサダーへ就任。楽天がタイトルスポンサーを務める「Underrated Tour」は、可能性を秘めているものの、過小評価(underrated)されている高校生の選手たちを対象にしたバスケットボールの特別訓練キャンプ。そこには高校時代に過小評価されていた過去を持つカリーが、どんなバックグラウンドを持つ人にもチャンスを与え、途方もない夢だとしても、それを実現できるように応援したいという自身の想いが詰まっている。
今年1月中旬から3月下旬にかけて、同ツアーはロサンゼルスからスタートし、ワシントンD.C.、フェニックス、シャーロット、フィラデルフィア、オクラホマシティ、オークランドで計7回実施。今回、アメリカ以外の国としては初となる東京開催となった。
日本では6月5日からウェブサイトで公募を開始し、約200名がそれぞれのバスケットボールにおける経歴や動画を送付。その中から選ばれた80名が22日にICUへ集結。この日キャンプのメニューとゲームをこなし、30名が2日目に臨んだ。
22日に行われた「UA BASKETBALL TOUR 2019 TOKYO」で、カリーと対談した富永啓生と三谷桂司郎もカリー本人からのリクエストで特別参加。選手たちはシューティングなどでウォームアップし、キャンプが始まるとコーチ陣の指示の下でフットワークを軸とするメニューで身体をならしていく。
コーチ陣は選手たちに対して、何をやろうとしているのかを細かく説明し、どうしてそのメニューを行うのかを熱のこもった言葉で通訳を交えて伝達。その後はカリーがウォームアップ時によく見せるようなボールハンドリングのドリルを行うと、3人でファストブレイクするメニューをこなし、今度は3対2のファストブレイクの状況でディフェンダーが1人加わって3対3でフィニッシュまで持ち込むものへとハードルを上げていった。
キャンプ途中から加わったカリーは、選手たちのプレーを見つめつつ、好プレーが出れば称賛。時には選手と直接コミュニケーションをとり、熱心に語りかけるカリーは、身体全体からポジティブなエナジーがあふれていた。NBAのスーパースターが間近に立ち、アドバイスを送ることで、参加した選手たちはますますキャンプへ夢中になっていったことは言うまでもない。
するとキャンプはハーフコートごとに選手たちを分けて、3対3を繰り返していった。休憩をはさみつつ、カリーはボールを受け取る位置を変えることや、相手ディフェンダーとのスペースについて、NBAと大学や高校の違いを実演。近距離のように映る中、「NBAではこの距離感があればオープンなんだ」と語り、選手たちの視線をくぎ付けにしていた。
その後、ICUではNBAに精通している佐々木クリス氏を司会に招き、メディアセッションが行われた。会場にはカリーだけでなく、楽天の創業者であり、代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏、株式会社ドームの取締役会長で代表取締役の安田秀一氏、さらにはキャンプに参加したグスタフソン・ノアとブルームス・ジュンが登場。
「このツアーは、楽天さんに本当に感謝したいと思います。楽天さんがいなかったら、このツアーも実現できていなかったと思っています」とカリーが切り出すと、「私は高校時代、いわゆるアンダードッグという立場でしたが、そこからはい上がってきました。このツアーは『自分がそれだけの選手なのかということを示すためのチャンス』なんだと思っています。東京にせよ、アメリカにせよ、こういったキャンプに参加してもらうことで、自分のスキルをさらに高める、あるいは改善していくと共に、自分がどのようなスキルを持ち、どんなことができるのかを実際に見せるチャンスなんだと捉えています」と自身のツアーに対する考えを述べた。
カリーは「Underrated Tour」へ参加した選手たちについて聞かれると、「今日このツアーに参加してくれた皆さんを見ていてもそうだったんですが、本当に一生懸命で集中していて、密度の高い練習をしてくれたと思います。そして、このような機会が与えられたことに対して、本当に感謝していることを感じとることができました」と口にし、こう称賛していた。
「もちろん、『もっとうまくなりたい』『もっと上達したい』ということもあります。さらに、こういうツアーでは、参加して吸収していくという考え方がないと、いくら教えても吸収できることは限られてしまいます。そういう意味においては、本当にその気持ちを強く感じることができました。私やコーチ陣が言っていることに対して、選手たちは耳を傾けていて、それが一人一人の伸びしろにつながっていくのではないかなと思っています。それは各地において感じることでもありますし、今日このツアーのジャージーをまとって参加してくださった皆さんのことを本当に誇りに思っています」。
また、日本とアメリカの高校生の違いについて聞かれたカリーは「実を言うと、あまり大きな差というものは感じませんでした。本当に集中して一生懸命練習してくれましたし、身体能力も非常に高いと感じました。練習しているところを見て楽しむことができ、私は感銘を受けました」と答え、この日のキャンプで選手たちが見せた反応について言及。
「私が思ったのは、キャンプ中に『こういう方向に行った方がいいよ』とアドバイスした時に、その選手の目が輝いていたんです。そして私が言ったことを次のプレーでやろう、というのがよく見えましたので、すごく良かったと思います。高いモチベーションを持って『うまくなろう』ということが重要だと思うんです。スキルを持っている人はいますけど、『うまくなろう』というモチベーションを得なければ、その先まではなかなかつながっていかないと思います」。
バスケットボールキャリアにおいて、カリーはこれまでプレーしてきたチームのほとんどで最も身長が低かったという。それでも、自らの努力ではい上がり、NBAで押しも押されもせぬスーパースターとなったことは、ツアー名である「Underrated Tour」にふさわしく、誰よりも過小評価というレッテルを覆してきたと言っていい。
シュート力が足りない、ボールハンドリングが発展途上、動きが遅いなど、バスケットボールプレーヤーとして成長していくうえで、障害となる要素は数多く立ちはだかるものだが、カリーは自らの経験と共に参加選手たちへこのようなメッセ―ジを送っていた。
「しっかりと準備することです。そして自分に自信を持つことは非常に大事。『お前にはこんなことできないよ』とか『お前はここにいるべきではない』といったことを誰にも言われるべきではないんです。背が高いか低いかに関わらず、『僕は速いから』といった考えを持って、常にそのメンタルを重要な部分だと思ってやってきました。それが最終的に、今の自分へとつないでいくことになったんだと思っています」。
そして、バスケットボールプレーヤーとして「楽しむこと」も重要だとコメント。カリーは「毎日のようにハードワークをしていかなければいけないので、楽しむということさえ維持できれば、たとえ障害があろうとも、乗り越えることができると思います。楽しんで頑張っていくということは、重要だと思います」と続けた。
カリーは今季のレギュラーシーズン期間中に全米7都市を回り、トロント・ラプターズとのNBAファイナル終了後(2勝4敗で敗退)から約1週間後に日本を訪れ、「Underrated Tour」の最終日を笑顔で終えた。
多忙を極めるNBAのスーパースターが見せたツアーへの想いは、参加選手だけでなく関係者や観客にも、コート内外から十二分に伝わったことだろう。来年については未定ではあるものの、カリーが放つポジティブなエナジーを間近で感じ取り、また1人、過小評価からはい上がるサクセスストーリーを見てみたい。
文=秋山裕之
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