Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
マイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズほか)やドリームチームの影響でNBAの人気は世界的なものになり、そのドリームチームが活躍したバルセロナ五輪(1992年)直後の1992-93年シーズンには世界中のあらゆる場所でNBAカードが販売・購入できるようになった。ビジネスが世界規模になったことでNBAカード自体にも様々な変化が見られたが、一番大きく変わったことは「カードの品質」の部分だろう。
市場規模が大きくなったことでカード制作により予算をかけられるようになったNBAカードはどんどんと高品質になっていき、またコレクターもその流れを歓迎するかのように次々と発行される高級版ブランドを好んで買い求めるようになった。そんな中、1993-94年シーズンにはトップス社が高級版カードよりも更に上のランクとなる最高級版ブランド『ファイネスト』を発表する。
このファイネストはカード7枚入りのパックの販売単価が2000円を越えるなど当時としては規格外の値段だったが、クローム加工されたカードの品質の高さと、カードが七色に光る「リフラクター」と呼ばれるパラレルセットが評判となりあっと言う間に市場に受け入れられた。
ファイネストの成功をきっかけにコレクターはより高品質なカードを求めるようになり、それを受けてカードメーカー各社は、今度は最高級版ブランドの開発に力を入れ始める。ファイネストが発行された翌年の1994-95年シーズン、アッパーデック社『SP(後のSPオーセンティック)』、フリアー社『フレア(後のショーケース)』、またスカイボックス社は『Eモーション(後のE-Xシリーズ)』という最高級版ブランドをそれぞれ発表し、各社の最高技術を惜しみなくそれらのカードに注ぎ込んだ。
そんな時代背景もあってか1990年代中期から後期は「NBAカード黄金期」とも言えるほど市場が拡大し、NBAカードの歴史の中でも特に品質の高いカードが沢山作られた時代となった。
特にコービー・ブライアント(元ロサンジェルス・レイカーズ)、アレン・アイバーソン(元フィラデルフィア・セブンティシクサーズほか)、スティーブ・ナッシュ(元フェニックス・サンズ他)、レイ・アレン(元ボストン・セルティックほか他)らがデビューした1996-97年シーズンは、その豪華な顔ぶれに負けないほどの名作カードがいくつも誕生した。
そのうちのひとつ、前述の『フレア』から更に進化したフリアー社の最高級版ブランド『ショーケース』では、レギュラーカードのパラレルセット(別バージョン)として「レガシーコレクション」が各150枚限定で登場。NBAカードとしては初のシリアルナンバー(限定枚数)が入ったカードとなった。
一方、スカイボックス社は自社ブランド全てに『オートグラフィックス』という直筆サインカードセットを封入。当時の世界中のNBAファンは選手のサインがNBAカードのパックから出てくることに驚嘆した。
オートグラフィックスの画期的なところは「サインカードを現実的に引き当てられるものにした」というところ。今までのNBAカードでも直筆サインカードの封入自体はあったものの、かなりの低確率でしか当たらず、それを目当てにパックを開けるという人はほぼいなかった。しかしオートグラフィックスはスカイボックス社で最も安価なブランドである『フープス』でも72パックに1枚の確率で封入された。最高級版ブランドにおいては24パック(1ボックス)に1枚と「ボックスを買えば必ず当たる」といったレベルで封入されており、多くのコレクターがオートグラフィックスを当てるため競うようにして同社製のボックスを買い漁った。現在、NBAカードのボックスを買えばほぼ確実にサインカードが当たるのは、オートグラフィックスがもたらした変革によるところが大きい。
1997-98年にアッパーデック社が選手の実使用のジャージー(ユニフォーム)の切れ端をカードに挟み込んだ「ゲームジャージー」カードを発表すると、今度はジャージーカードを始めとしたメモラビリアカード(実使用系カード)のブームが巻き起こった。
背番号やチームロゴなどジャージーの中でも希少なパッチ(縫い合わせ)部分を切り取ったパッチカードや、選手実使用のシューズを切り取ったシューズカード。果ては試合に使われたボール、バスケットゴールのネット、アリーナのフロア等、様々なものが挟まれたメモラビリアカードは好評を博し、1990年代末期から2000年代初頭のNBAカードシーンを彩った。
2003年、高校生でありながら「NBAドラフト1位指名確実」「10年に1人の逸材」と騒がれていたレブロン・ジェームズ(ロサンジェルス・レイカーズ)が、その前評判通りクリーブランド・キャバリアーズに1位指名されNBA入りを果たす。「高校卒業を待たずに指名が可能なら2002年ドラフトでも1位だっただろう」と言われていただけあって、NBAで1試合もしていないのに既に世界的な知名度を誇っていた。
当然その年のNBAカードはレブロンのルーキーカード目当てで売れに売れた。また彼と直筆サインの独占契約を交わしたアッパーデック社は、従来の最高級版ブランドを遥かに越える1パック6万円以上もする超高級版ブランド『エクスクイジット』を発表し、市場の度肝を抜いた。
1990年代に世界的ブームとなってからは毎年のように品質の向上と市場の拡大を続けてきたNBAカード業界だったが、2000年代初頭になるとその勢いにも陰りが見え始める。
直筆サインカードが人気になったのは良いものの、それらを制作するための経費や契約金がカード会社の経営を圧迫。そして直筆サインカードやジャージーカードがNBAカードの主役になると、それに反比例するかのようにレギュラーカード、インサートカードの品質は低下していき、このことがコレクター離れを加速させた。
また世界的なNBAブームを牽引してきたマイケル・ジョーダン(当時ワシントン・ウィザーズ)が2002-03年シーズンをもって完全に引退したこともNBAカード市場に大きな打撃を与えた出来事と言えるだろう。
これら複数の要素が重なり合った結果、NBAカード市場はかつての勢いをどんどん失っていった。そして2005年、3大NBAカードメーカーのうちのひとつ、フリアー/スカイボックスインターナショナル社が倒産(フリアー社がスカイボックス社を吸収合併して出来た会社。倒産後アッパーデック社が商標買取)。数々の名作カードを産み出した会社も大きな時代の流れには抗えなかった。
2009年1月、NBAはイタリアに本拠を構えるパニーニ社とNBAカードの発行に関して「独占的な契約」を締結したと発表。これは簡単に言えば「2009-10年シーズンからのNBAカードはパニーニのみが発行できる」契約で、長年NBAカードを発行してきたトップス社、アッパーデック社はNBAカードビジネスからの撤退を余儀なくされた。
この突然の変革は既存のコレクターの大きな反発を招いたものの、パニーニは2009年3月に主にMLBカードを発行していたアメリカの老舗カード会社・ドンラス社を買い取り、新たに「パニーニ・アメリカ」を設立。そして世界市場にアピールするためのスポークスマンとしてコービー・ブライアントとの契約を成立させるなど精力的な動きを見せた。
こうした事前準備のかいもあって2009-10年シーズンにパニーニがNBAカードを発行した際は、概ね好評をもって迎えられた。旧ドンラス社が持っている技術やノウハウは今まで発行されたNBAカードにも見劣りしない品質のカードを製造するのに大いに役立ち、また同社が権利を保有していたMLBカードの名作ブランド『ドンラス』や『クラウンロイヤル』の(NBAカードでの)発行は旧来のカードファンを喜ばせた。
もちろん、過去の名作の復刻だけではなく、『プリズム』や『イマキュレイト』等、パニーニ独自でも定番ブランドを生み出していることにも言及しておきたい。
2019年現在、NBAカードは依然としてパニーニ社のみが発行を続けている。パニーニの一社独占体制になった時は将来を不安視する声も聞かれたが、特に大きなトラブルもなく10年もの期間NBAカードを発行し続けたことは評価に値するだろう。
同社が参入した当時、NBAカード市場は大きな停滞感に包まれていたがその後なんとか持ち直し、以前のブームほどではないが市場に活気が戻りつつある状況だ。それはパニーニの企業努力によるところもあるが、SNSの発達でカードの魅力をより外部に伝え易くなったことや、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)やケビン・デュラント(ニュージャージー・ネッツ)、ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)ら、魅力にあふれた新しいスター選手が世に出てきたことも大きい。
他社の動向に目を向けると、アッパーデック社はNBAカードの発行はできないもののカレッジ系カード(大学生・またはプロ選手の大学時代の写真を用いたカード)の発行をコンスタントに続けている。またユーロリーグカードの発行も手掛けており、2018-19年シーズンに新人王を獲得したルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)のカード化をNBA入りに先駆けて実現した。
何より同社はNBAにとって重要な選手(マイケル・ジョーダン、レブロン・ジェームズ、ベン・シモンズ)の直筆サインに関する独占的な契約を有しているので、今後もNBAカードには何らかの形で関わっていくものと思われる。
一方トップス社は、パニーニ参入後NBAカードに復帰する気配は全く見せていないが、2019年になって『トップスクローム』のバスケットボールカード版が突如インターネットにアップされた。トップスからの正式なアナウンスはまだ無いが、NBAカードではないにしてもバスケットボールカードへの復帰の足掛かりとなるならば嬉しいニュースには違いない。こちらは詳報待ちといったところだろうか。
前回と今回の2回にわたりNBAカードの歴史を駆け足で書いてきたが、実際のところここに書き切れなかった重要な出来事はまだまだ山のようにある。だがNBAカードの過去と未来は繋がっている。現在のカードに触れることで過去の出来事を知ることもたくさんあるはずだ。
そして月日が経てば、自分たちが慣れ親しんでいたカードがいつの間にかNBAの歴史の一部になっていることに気がつくだろう。この記事を読んでいる人にとってNBAカード収集が10年、20年と長く楽しめるような趣味になることを願ってこの項の締めとさせていただきたい。
文=soma
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