2023.11.10

【インタビュー】河村勇輝が語るNBAの魅力「非日常を感じるようなもの」…渡邊雄太と八村塁にも注目

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10月25日、NBA2023-24シーズンが幕を開けた。各チームが82試合というレギュラーシーズンの長丁場を戦い、16チームによるプレーオフで王座を目指す。スーパースターのプレーはもちろん、渡邊雄太(フェニックス・サンズ)と八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)の活躍からも目が離せない。今回は幼少期からNBAを見ていたという河村勇輝横浜ビー・コルセアーズ)へインタビューを実施。NBAの魅力を語ってもらった。

インタビュー=酒井伸
写真=新井賢一

幼少期はジョーダンを参考にビハインドパスに挑戦

――父親の影響で幼少期からNBAを見ていたようですね。
河村 6歳か7歳ぐらいの時に見始めました。父親はマイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズ)が大好きだったので、自宅にはNBAに関する様々なビデオがありました。父親と一緒に見るようになり、NBAのことを好きになっていきました。

――1990年代のNBAを見ていたようですが、当時のリーグについてどのようなイメージを持っていましたか?
河村 自分が実際にバスケットボールを始めてみると、NBAは少し別競技というか、身体能力やスキルが本当に同じ人間なのかなと感じました。NBAは非日常を感じるようなもので、すごく楽しみながら見ていました。

――一番好きな選手はジョーダン選手だったようですね。当時は彼のどのような部分に魅了されていましたか?
河村 彼のドキュメンタリー番組を見る限り、本当に負けず嫌いで、バスケットボールでは誰にも負けたくないという強いメンタリティを持っていますよね。驚くような身体能力を活かしたプレーだけではなく、高いIQを活かしてズル賢いプレーも見せる。誰が見ても魅了されていたと思いますし、自分もその1人でした。

――ジョーダン選手のビハインドパスを参考にしていて、小学6年生の頃には実戦で完璧にできるようになっていたとうかがいました。
河村 彼のダンクやトリプルクラッチを真似るのは難しかったですが、ビハインドパスは自分でもできるんじゃないかと感じていました。まずは練習から取り組んでみないと始まらなかったので、ジョーダンのようなドライブを仕掛けて、ビハインドパスを出すシチュエーションを作って挑戦してみました。練習を重ねていくことで、相手の動きを見てパスを出せるようになり、実戦でも使えるようになりました。今でも完璧とは言えませんけど、失敗も重ねながら少しずつ自信がついていきました。

――NBA選手や田臥勇太宇都宮ブレックス)選手のパスが自身の原型ということですが。
河村 アシストよりもノールックパスがすごく衝撃的でした。チームメートを見ずにパスを出して、それに騙された相手ディフェンスの「ボールがどこにあるの?」みたいなリアクションも印象に残っています。自分もノールックパスを出せたら楽しいだろうと思いながら、練習や試合で試すようになりました。

――ノールックパスは受け手側との連係も大事になってきます。
河村 最初は難しかったですが、事前にビハインドパスの話をしてみるとか、パスを受け取ってもらえるように少しスピードを調整して投げてみるとか。チームメートにストレスなくプレーしてもらうために、自己満足のパスにならないように意識していました。

――近年のNBAについても聞いていきます。普段はどれくらいNBAをチェックしていますか?
河村 全試合をチェックしているわけではないですが、好きな選手をはじめ、(渡邊)雄太(フェニックス・サンズ)さんや(八村)塁(ロサンゼルス・レイカーズ)さんの試合は時間があれば見るようにしています。また、1試合をとおして見られなくても、ハイライトは絶対に確認しています。

――どのようなシーンで見ることが多いですか?
河村 移動時間で見ることが多いですね。ただ、Bリーグのシーズン中は、NBAとBリーグのバランスがすごく大事だと思っていています。自分がまずやらなければいけないのは対戦相手のこと。それが第一で、時間を割きながらNBAもチェックしています。NBAを見る時は試合によりますが、雄太さんや塁さんの試合は1人のファンとして見ています。日本人としてどれだけ活躍するのか、NBAでどのようなプレーをするのか、すごくワクワクしています。あとは好きな選手や参考になる選手を見ることが多いです。

河村の注目はサンズ、レイカーズ、ウォリアーズの3チーム

――日本人選手の活躍をきっかけに、NBAに興味を持ち始めた人もいると思います。NBAを楽しみたいという方に向けて、観戦ポイントを聞かせてください。
河村 バスケットボールの魅力としては、他競技と比較して展開がすごく速いこと。NBAは1クォーター12分の48分間で試合が行われ、多くの点数が入ります。1分、1秒、どの場面を切り取っても面白いことも魅力の1つだと思っています。身体能力を活かした迫力のあるプレーや、「そこから決めるのか」というような3ポイントポイントシュート……。NBAはバスケットボール選手の自分でも驚くようなプレーが繰り広げられているリーグです。

――今シーズンの注目チームを教えてください。
河村 雄太さんのサンズ、塁さんのレイカーズ。あとは(ゴールデンステイト)ウォリアーズです。

――その理由は?
河村 雄太さんはまた“KD”(ケビン・デュラント)とともにプレーできるので、(ブルックリン)ネッツ時代の共演が見られると思うとすごく楽しみですね。レイカーズはあの豪華メンバーの中に塁さんがいます。塁さんとレブロン・ジェームズ選手のやり取りをSNSなどで見ましたが、本当に夢があると思いました。塁さんがチームメートとどのようにマッチするのか楽しみにしています。ウォリアーズは僕の好きなクリス・ポール選手が加入したからです。

――日本人選手がNBAのスター選手とチームメートになり、一緒にプレーするという夢のような時間が流れています。
河村 考えられないようなことですよね。プロバスケットボール選手の自分からすると、本当にすごすぎること。僕自身もこの時代に生きていて良かったと思っていますし、この素晴らしい出来事が多くの方に伝わるといいですね。

――今シーズン注目の3人を挙げてください。
河村 日本人選手以外では、マッチアップしたルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)選手とデニス・シュルーダー(トロント・ラプターズ)選手。この夏を経て、NBAでどのような活躍を見せるのか楽しみですね。もう1人は先ほども挙げたクリス・ポール選手。

――それぞれについて聞かせてください。まずはドンチッチ選手から。
河村 彼は相手選手をかわすため、自分の体からできるだけ遠ざけてパスを出すことがあります。自分もあのようなプレーをできるようになりたいと思い、意識して投げるように練習しています。実際の試合にも取り入れて、使えるシーンがあったので、彼との対戦で学べたことの1つです。

――マッチアップを経験し、「シュルーダー選手は別格だった」と振り返っていました。
河村 緩急の動きに特徴がある選手とマッチアップして、どのようにプレーしているのかを肌で感じることができました。緩急を使うためには、自分が脳で考えていることを体で実行しなければいけない。ストップする力、そしてストップしたあとにまたスピードを出す力はトレーニングで磨けると思っています。Bリーグにもポイントガードを本職とする外国籍選手が多くいて、彼らも身体能力というより、緩急の動きやスキルを持ち合わせた選手。彼らとのマッチアップを経験しながら、自分のものにできればいいと思っています。

――好きな選手として挙げたポール選手についてはいかがでしょうか?
河村 彼は“ポイントゴッド”と言われていますけど、ポイントガードとして理想的な選手です。ゲームコントロール力に秀で、アシストが多く、ターンオーバーは少ない。キャリアを通じて、アシストとターンオーバーの比率(アシスト÷ターンオーバーの数値)が限りなく高いんです。得点を取れる時は取れますしね。アンダーサイズながら、長年にわたってNBAでプレーしていて参考になると思っています。

「スマートな選手」を目指してレベルアップを誓う

――渡邊選手とは一緒にプレーした経験があります。彼と同じ時間を過ごして感じたNBA選手としての資質は?
河村 自分の体をしっかりと理解した上で、自分の体に対して正直になり、オーバーワークしないでコントロールするのは、当たり前のようでなかなかできないことです。まだ若い自分はあまり体のことを気にせずにやっていましたから。長いキャリアを歩むためには、自分の体と気持ちの両方をコントロールすることが必要だと感じました。あとは人間性の部分。雄太さんが自分たちよりも遅れて合宿に入った時、誰とでもコミュニケーションを取っていて、「これがNBA選手だぞ」という雰囲気がいい意味で全くなくて。チームメートとして同じ立場になり、いろいろなことを話して、共有してくれました。NBA選手である以前に一流の人間性を持った選手だと思いました。

――八村選手と今後、一緒にプレーする機会があるかもしれません。彼とのプレーについてどのようにイメージしていますか?
河村 すごくワクワクします。チームとしては塁さんへのマークが集中すると思うので、ほかの4人がいかに奮起できるかだと思います。塁さんはドライブや2ポイントのミドル、3ポイントと何でもできる選手なので、塁さんに合わせる意識を持ちながら、自分でもクリエイトしていくことが大切になると思います。

――夏の経験を経て、通用した部分、逆にこれから取り組まなければいけない部分を教えてください。
河村 スピードやクイックネスなど自分の強みはある程度、通用したと思っていて、トップレベル相手にも負けないという自信がつきました。ただ、そのスピードを最大限に活かすため、先ほども話した緩急の部分が必要になってきます。ディフェンスでは高さにディスアドバンテージがある分、平面やオールコートでそこを埋めていかなければいけないと思ったので、体をより強くしなければいけません。トム(ホーバス)さんがよく話していた“ヒットファースト”。つまり受けるのではなく、相手より先に仕掛け、そこで怯まない体の強さが必要です。

――緩急について詳しく聞かせてください。どのようなトレーニングに取り組んでいくのでしょうか?
河村 緩急のトレーニングというより、ストップをするために必要な筋肉をつけること。100パーセントの状態からストップするのはすごく負担が掛かるんです。トップスピードから止まる力はまだまだですし、今はまだ「100」から少しずつ「80」、「60」と抑えて止まるようなイメージ。「100」、「0」、「100」、「0」のような緩急にしたいんです。これができるようになれば、「80」から「0」などと柔軟に対応できるようになると思っています。

――夏の世界大会を経験し、「スマートな選手になりたい」とおっしゃっていました。自分自身が思う「スマートな選手」とは?
河村 バスケットボールの試合はお互いに流れがあり、自分たちの流れが40分間続くことはありません。試合の流れを瞬時に判断して、できるだけ自分たちの流れに持っていくためのプレーを選択することはポイントガードとしてコントロールする力。それをできる選手がスマートな選手だと思っています。僕には流れを把握する力が足りていないと思っていますし、チャンスが来た時に感情任せになることもあります。自制心というか、自分のことを客観的に見ながら、冷静にコントロールする必要があると思います。

――2024年に開催される国際大会を見据え、2022年3月に大学中退、プロ入りを決断しました。最後に、1年後に向けて聞かせていただけますか?
河村 2024年の国際大会に出場するため、いろいろなことを決断してきました。あと1年もありませんが、自分にできる最大限のことをしたいです。昨シーズンはシーズン終盤にケガをしてしまい、もっと準備できたなという思いがあるので、バスケットボールはもちろん、食事や睡眠など様々なことに気を遣って、いい準備をしたいです。

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