2024.05.07

【山脇明子のLA通信】名門で過ごした八村塁のNBA5年目…やりやすさと自信を感じたシーズンに

ロサンゼルス在住ライターが八村塁の5年目を総括 [写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住。1995年に渡米、現在は通信社の通信員として、MLB、NBAを中心に取材を行っている。

八村塁に起こった3つの出来事

 ロサンゼルス・レイカーズの八村塁には、2023-24シーズンを前に3つの大きな出来事があった。

 1つは、「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」を欠場したこと。昨シーズン途中、ワシントン・ウィザーズから名門レイカーズに移籍し、「NBAプレーオフ2023」ウェスタン・カンファレンス決勝まで勝ち進んだ。自らの活躍もチームを大きく後押しし、「このプレーオフは、僕のバスケ人生ですごく大きかった。これを絶対に忘れないで次につなげたい」と話していた。

 またトップの位置に上がりたいという思いでいっぱいだった。制限付きではあったが、昨オフはフリーエージェントとして自身がチームを選べる立場で、もし他チームと合意したとしても同額を提示すればレイカーズに優先権があったことは、できればレイカーズに戻りたいと思っていた八村にとっては好都合だった。それと同時に、自分が成長しなければ何の意味ももたいないことは、わかっていた。だから、避難の声を浴びることを覚悟でワールドカップの出場を辞退し、自らの向上に努めた。

 2つ目は、レイカーズと3年5100万ドル(約78億円)で再契約したあと、夏のトレーニングをレブロン・ジェームズとともに行う機会に恵まれたこと。「レブロンは通常、誰かとトレーニングをしません。だから彼が僕と一緒にトレーニングをしてくれた時間にとても感謝しています。僕は彼から多くを学びました」。今シーズンの序盤には、「彼にもう一つチャンピオンリングをもたらしたい」と話していた。両手を広げて自らを迎えてくれたスーパースターへの恩返し。それは、八村にとって一つのモチベーションだった。

 そして3つ目は、自らを“ハーフの大将”に育てあげてくれた仙台大学附属明成高校時代の恩師佐藤久夫さんの他界だった。自らが出席すると、佐藤さんの親族に迷惑をかける可能性があるため、葬儀への出席は諦めた。だが、バスケットでの活躍をとおして「久夫先生」へ感謝を示したい気持ちと、“ハーフの大将”として自らが頑張り続けることで、次に続く選手につなげていくという思いはいつまでも変わらない。

 2024年のNCAAトーナメントでは、仙台大附属明成の後輩、菅野ブルースのステットソン大学が出場を決めた。八村の背中を追って渡米し、短大からNCAA1部の大学入りを果たした菅野は故障中だったが、同大の出場決定を聞いた八村は、「うれしい。僕が第一弾のハーフとして(仙台大附属明成に)入って、久夫先生もすごく良くしてくれていたので、もっとそういう子たちが出てきたらいいなと思います」と声を弾ませた。そして、「これからも、『久夫先生のために』というのもあります」としみじみと語った。

八村塁とチームメートの関係

レブロンとは師弟関係を築いた [写真]=Getty Images

 そういった思いを込めて臨んだシーズンも開幕当初は控え出場で3度の故障にも見舞われたが、2月4日(現地時間3日)の試合からスターターに定着。2月以降の1試合平均得点は、それまでの11.4得点から15.9得点に上がり、3ポイント成功率は、3月の14試合で47.3パーセントをマークするなど2月以降44.6パーセント。何よりもレイカーズは、八村がスターターとなって以降の32試合で22勝10敗と好成績を収めた。
 
 2月15日(同14日)のユタ・ジャズ戦では、自己最多の36得点を挙げてレブロンが欠場したチームを勝利に導き、「ゲームにインパクトを残したい。試合に勝ちたいし、チームのためにXファクターになりたい」と力強く話した。そう言った八村についてレブロンに聞くと、「そのとおり。塁はXファクターだ。スターティング・ラインナップに入ってからとんでもないプレーを見せている。塁がいいプレーをしている時は、自分達もいいプレーができている。だから彼には自信を持ち続けて欲しい」と話し、アンソニー・デイビスは、「僕らは、塁に多くのマッチアップを任せている。彼は僕が(ニコラ)ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)やヤニス(アデトクンボ/ミルウォーキー・バックス)についていない時、その役割を担ってくれている。デビン・ブッカー、またKD(ケビン・デュラント/ともにフェニックス・サンズ)もそうだ。僕らは塁のことを信じているし、彼はそういったマッチアップに対応できるところを見せている」と八村の守備面での信頼を口にした。

 チームメートとの絆の深まりは、八村のちょっとした動作の変化にも表れていた。2月28日(同27日)のロサンゼルス・クリッパーズ戦でレイカーズは、第4クォーター開始直後の21点差から、レブロンが19得点を挙げるなどで逆転勝ちした。同中盤からコートに立った八村は、同点の終盤3ポイントとレイアップシュートを連続で決めて5点リードに導いた。

 試合後、すでに盛り上がっていたクォーターの途中から入って、どのようにコートにいた選手と同じレベルのテンションに持っていけたのかを聞くと、「ベンチにいる時から集中力がなくならないようにしっかりチームの応援をしたり、レブロンが盛り上がっている時は自分も盛り上がったり、チームの流れに一緒にのっていくことが大事」と話した。

 以前は、チームメートがコートで奮闘している時も、落ち着いて見ている姿をよく見た。しかし今シーズンはベンチで一緒に跳び上がって喜んでいる姿もたびたび目にする。そう思っていた矢先の八村の言葉だった。

 短期間ではあったが、八村が「個人的な理由」でチームから離れ、戻ってきたあとウィザーズでともにプレーしたスペンサー・ディンウィディーは、2月にレイカーズと契約して再び八村とチームメートになり、すぐに以前との違いに気づいたという。「楽しんでいる。それがすべてをもの語っている、自信と明るい精神があれば、なんでも少しずつ良くなるものだ」。ディンウィディーは試合日の朝の練習後、楽しそうにシュート練習していた八村を見ながらそう言った。

 その例の一つが、仲がいいオースティン・リーブスとの関係だ。

 リーブスは言う。「彼は去年(トレードでレイカーズ加入後の)最初の2週間、飛行機で僕の隣に座っていたけど、話すのかどうかもわからなかった。でも彼のことを少しずつ知るようになって、今では彼を黙らすことができなくなっているよ。時々(喋らなかった)あの時に戻りたいと思う」と笑顔を見せた。

リーブスとも良好な関係だ [写真]=Getty Images

 ケミストリーはできていた。しかし「NBAプレーオフ2024」では、2020年のウェスタン・カンファレンス決勝でレイカーズに敗れ、ジャマール・マレーの左膝前十字靭帯断裂を乗り越えて昨シーズン王者にたどり着いたデンバー・ナゲッツにまたも敵わなかった。八村自身もレギュラーシーズンの時のような貢献ができず、オフシーズンの努力は完璧という形では実らなかった。

  レイカーズは5月3日(同2日)、ダービン・ハムヘッドコーチの解雇を発表。昨オフは「継続性」をテーマにしていたチームも変化を模索しそうだ。

 それでも八村は、今シーズン得た確かな手応えを胸に、前に進み続けるだけだ。

「昨シーズンと比べて、やりやすさと自信を感じています」。胸を張って言った。

取材・文=山脇明子

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