2023.12.10

【山脇明子のLA通信】不完全燃焼の状況から次第に本来のパフォーマンスを見せる八村塁

開幕直後の苦しい状況が好転してきた八村 [写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住。1995年に渡米、現在は通信社の通信員として、MLB、NBAを中心に取材を行っている。

2023−24シーズンも渡邊雄太(フェニックス・サンズ)、八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)を筆頭に、バスケットボールの本場、アメリカで多くの日本人選手がプレーする。そんな彼らの活躍を取り上げるとともに、どんな思いでプレーをしているのかに注目。LA在住ライター、山脇明子氏がレポートする。

文=山脇明子

ケガをきっかけに本来の自分を取り戻す

 文句を言いたくもなる時もあるだろう。だが、八村塁にとってまたも絶好のチャンスが訪れたのではないだろうか?

 今オフ、フリーエージェントになり、レイカーズと3年契約を交わした八村は、ワールドカップに日本代表として出場することは断念したが、その時間をレブロン・ジェームズと練習し、心身ともに自らを高めることに費やした。

「優勝(を目指せる)チームに入って、シーズンに対するモチベーションも違います。メンタル的にも体的にもこの夏、準備できたと思います」。トレーニングキャンプ開始を前にした八村は、期待感に満ち溢れていた。

 ところが、だ。開幕戦の対ナゲッツでは、シューティングで調子に乗れず、7点を追う形で突入した第4クオーターに出番がなく、14分39秒の出場で終わった。昨季のプレーオフ西カンファレンス決勝で身長211センチのニコラ・ヨキッチのマッチアップを任せられるなど、好守に奮闘した相手だった。だが、同じように重要な役割を任せてもらうことができなかった。

 続くサンズ戦でも、12分29秒のプレータイム。レイカーズが第4クオーター開始時の12点差から追い上げ、接戦の末、逆転勝ちした劇的なホーム開幕戦だったが、最後の12分はプレー機会がなく、試合後は「ちょっと意味がわからないです。何があるのか、どうなっているのかわからない」と混乱した様子だった。

 オフシーズンに努力したのだ。出してくれれば活躍できる自信はあった。それなのにプレー機会を与えて貰えない。八村がそう思うのも無理はなかった。

 そんな八村について、よくアドバイスをくれる先輩ディアンジェロ・ラッセルは、「塁は答えを見出そうとしているところだ。彼ならきっと見つけるよ」と話した。弟を見守るかのような口調だった。だがそれは、結局はコーチではなく、八村自身が解決しなければならないということだった。

ラッセル(左)は八村について「彼ならきっと見つけるよ」と話した [写真]=Getty Images


 そのきっかけとなったのが、左目の打撲と脳震盪規定の管理下に入ったことで、その後4試合に欠場した時だ。戦線離脱した9日間、八村はチームメートたちの戦いぶりを観た。そして気づいたことは、チームの課題が第1クオーターだということ。「僕らはここ10試合ぐらい第1クオーターで負けていました。だからゲームを見ていて、ベンチから出た時はエナジーを持ち込もうと思いました。ディフェンスにおいてもオフェンスにおいても、リバウンドもすべてをしっかりやって、ゲーム(の流れを)自分が変えないといけない。どうやってエネルギーを持ち込めるかを考え、復帰以降はそれをやっています」と八村。また「自分がどのようにチームに絡めるかがわかった」と手応えを掴み、表情が和らいだ。

 復帰戦となる対ロケッツでは、最初の得点をダンクで決めるなどガンガン攻め、25分34秒のプレーで、フィールドゴール14本中10本、スリーポイントは3本中2本成功とチーム最多の24得点。8リバウンド、2アシスト、2スティール、1ブロックショットも決めた。試合には敗れたが、ラッセルは「僕らはダメだった。でも塁は良かった。彼は守備では多才だし、攻撃では相手より有利に立てる。これからどんどん良くなっていくよ」と、ついに「見出した」八村について誇らしげに話した。

 以降八村は、11月22日のマーベリックス戦で鼻骨を骨折するまでの9試合で、1試合平均26.1分出場し、13得点4.1リバウンド、スリーポイント成功率は46.2パーセントをマークした。

苦しい状況をポジティブに捉えてさらに成長

 今季優勝を目指すレイカーズは、昨季から所属しているレブロン・ジェームズアンソニー・デイビスジャレッド・バンダービルトと八村のフロントコートにトーリアン・プリンスクリスチャン・ウッドジャクソン・ヘイズとキャム・レディッシュを加えた。レディッシュは2年目がプレーヤー・オプションのベテラン・ミニマム契約で、当初は戦力として注目されることはなかったが、綿密なディフェンス力を発揮し、ぐんぐん存在感を見せつけていった。そして11月10日のサンズ戦からスターターにのし上がると、一気にオフェンス力を伸ばした。

 ウッドは、開幕2戦目のサンズ戦でケビン・デュラント相手に好守を見せるなど、ロールプレイヤーとしての役割を果たし、ヘイズは出場時間が安定しない中でも、出番を得れば、大きな声を出し、力一杯プレーしてインパクトを与えようとしている。

 また今年のサマーリーグで活躍し、自らがNBAでプレー時間を得る価値がある選手であることを証明した2年目のマックス・クリスティは、レディッシュの故障欠場に伴い、11月22日のマーベリックス戦からスターターになると、カイリー・アービング(マーベリックス)、ドノバン・ミッチェル(キャバリアーズ)、タイリース・マクシー(セブンティシクサーズ)というNBA最高級のスコアラーを相手に好ディフェンスを披露。「僕の仕事はベストプレーヤーを止め、攻撃でもチームを助けること。隠すまでもない」と頼もしい。

 八村は、11月19日のロケッツ戦で、勝負所の第4クオーターにフル出場し、チームの勝利に貢献したあと、そのように起用された理由について、「ディフェンスが一番大きいと思います。僕が、オフェンスができるということはみんな知っているので、ディフェンスでいいところを見せ、動きができたところが、最後まで残れた理由じゃないかな」と言った。

「オフェンスだけじゃなくて、他のことでも活躍しようと意識してやっています」と八村。壁にぶつかり、悔しい思いをしながらも前を向き、乗り越えている。

 ただ、優勝獲得の力になりたいと誰もが意気込むこのチームでは、同じ気持ちで日々努力している選手との競争だ。

 だからこそ、チャンスなのだ。

 レイカーズのダービン・ハムヘッドコーチは、八村についてこう言った。

「塁はいろんなことができる素晴らしい選手。まだ若く、まだ発展途上。もっと上手くなれる部分はたくさんある。でもまずはアグレッシブで自己表現できる八村塁が見たい」

レイカーズのハムHCも八村に期待を寄せる [写真]=Getty Images

 まだシーズンは4分の1を消化したばかり。これからもチームメートと刺激のし合い、競争のし合いは続くだろう。だから成長できる。

 可能性は、無限大だ。

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