2018.05.12
派手なガッツポーズも無用な雄叫びもない。時が止まって見えるような美しいフォームから放たれるジャンプシュートや、シュートに移るまでの一切の無駄を排した洗練された動き、そして要所で見せる切れ味鋭いドライブで、静かにアルバルク東京をけん引するのは田中大貴だ。
田中は他チームが羨むほどのタレントがそろうA東京において、「エース」と呼ばれる存在であり、日本有数のオールラウンドプレーヤーと言っても過言ではない。チームが苦しい時に状況を打破し、傾きかけた流れを引き戻すことができるのが、エースがエースと呼ばれるゆえんだ。しかし、田中をエースたらしめているのは、クレバーなオフェンスや、シャープなシュートだけではなく、192センチ93キロの恵まれた体を活かした屈強なディフェンスと、状況を瞬時に見極める大胆な判断力に依ることも大きい。
4月14日、アリーナ立川立飛で行われた名古屋ダイヤモンドドルフィンズとのB1リーグ第28節第1戦において、A東京は試合の大部分を支配しながら、残り0.6秒に逆転を許し、ダメージの残る敗戦を喫した。
続く15日の試合でも前日の大逆転劇で勢いに乗る名古屋Dに序盤のペースを握られ、苦しい試合展開を強いられた。A東京は前日の反省を活かし、スピードとテクニックを併せ持つリーグ屈指のインサイドプレーヤー、ジャスティン・バーレルにボールが渡ると、ダブルチーム(1人の選手に対して2人の選手がディフェンスをすること)を仕掛け、ボールがフリーの選手に渡るところでカットを狙う、トラッピングディフェンスを展開。相手の倍以上となる9スティールを奪うと、速攻から13ポイントを挙げ、第2クォーターの後半から第3クォーターに流れを一気に引き寄せた。最終的に73-63で勝利を収め、前日の雪辱を果たした。
勝負のカギとなった守備面での作戦遂行に大きな役割を果たした田中は、傾きかけた試合の流れを食い止めたチームのディフェンスについて「(ベンチから)トラップの指示はあった」と認める。続けて「ただし、コートの状況を見てプレーするのは選手たち。自分は状況に合わせて、ここは行かなきゃというところは、思いきって(ダブルチームに)行った」と、勝負所を見極め、自身の判断でチームを救うディフェンスを見せたことを明らかにした。
大逆転負けの教訓を活かしたわけだが、ダブルチームに行った自身の判断について「昨日、彼(バーレル)は好き放題にやっていた。今日も、彼でオフェンスを仕掛けてくることはわかっていた。ダブルチームに来る自分が見えていれば、別のところにパスをさばかないといけないので、自分で攻めたいプレーヤーからすれば、ストレスになると思った」と冷静に分析。また、「本来の名古屋Dのオフェンスではないと思うので、(トラップについて)あまり練習していない中でも、昨日よりもしっかりと守ることができた」と笑顔を見せた。
15日の試合では相手を63点に抑えながらも、第4クォーターは8得点を挙げるにとどまったA東京。試合をとおして38.6パーセントとシュート成功率も低く、チーム全体のシュートタッチはお世辞にも良かったとは言えない結果だった。オフェンスの停滞について田中は「今日の試合はオープンのシュート(フリーの状態でシュートを放つ状況のこと)は作れたのに入らなかった」と苦笑すると、「しかし、多くのシュートは打てているので、それが入るか入らないかはわからない。それが落ちた時に我慢してがんばる。これが簡単そうで難しい……」と、現時点でのチームの課題を挙げた。
「昨日は我慢できずに負けたが、今日は我慢できた。もっと我慢強いチームにならないと、自分たちが目指す場所には到達しない」と力強く語ると、最後に「去年の栃木ブレックスは、共通理解を持って我慢強く戦えていた。自分たちもそういうチームにならなければならない」と、昨季のリーグを制し、頂点に輝いたチームの名を挙げて、自分たちが目指す場所がどこなのかを明示した。
静かなるエースが口にした確固たる決意は果たして実を結ぶのか。レギュラーシーズンも残すところあと7試合。すでに「B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2017-18」出場を決めているA東京はどこまで成長できるのか。悲願の優勝に向けたA東京とエース田中に改めて注目したい。
文=村上成
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