Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
好評インタビュー企画「JBA審判グループに聞く!」は、新ルールやJBA審判グループの取り組みを紹介し、リスペクト文化の醸成を目的にスタートした企画で、今シーズンで6年目を迎える。今回は、2024-25シーズンをもってS級ライセンス定年によりトップリーグの舞台から退く、Bリーグ発足当初から活躍した谷古宇孝レフェリーと片寄達レフェリーに話を聞いた。後編ではレフェリーのプロ化や育成環境、ファン・ブースターへの思いなど、両氏の率直な言葉を届ける。


片寄達(カタヨセ トオル)レフェリー
・生年月日:1969年7月11日(55歳)
・出身:宮城県(所属:宮城県協会)
・経歴:仙台向山高校→東北学院大学
・担当した主なゲーム
2015年:リオオリンピック男子アジア予選ファイナル(中国vsフィリピン)
2016年:Bリーグ開幕戦(A東京vs琉球)
2017年:Bリーグファイナル(川崎vs栃木)
国内外でたくさんの機会を与えていただきました。(本人より)
インタビュー・文=井口基史
―レフェリーのプロ化について
谷古宇 加藤誉樹レフェリーとは、彼がプロになる前、学生時代から交流がありました。アマチュアレフェリーも、全員が高いプロ意識を持って取り組んでいますが、これだけバスケ市場が大きくなる中で、レフェリーのプロ化は必然だと思います。若いレフェリー達がプロを目指し、職業として審判をすることは大変なことですが、頑張ってほしいと思います。
片寄 プロ化は至極当然なことだと思います。bjリーグとNBLが一本化され、大々的にBリーグが始まり、各クラブも苦しい時期を乗り越えてプロとして努力されてきました。同じようにレフェリーも、プロとしてトライしていくべきだと思います。
まだプロ化の途中ですので、課題等はありますしあくまで私見ですが、例えば今後は、プロレフェリーはBリーグ専任となっていくことが、目指していくべき道ではないかと思います。プロ野球の審判員であれば、プロ野球の審判しかしません。また一軍の試合で審判をするためには、ファーム(二軍リーグ)で人生をかけて挑戦するという過程があります。個人的にはBリーグに所属し、Bリーグ専門のプロレフェリーとして活動できる体制が、将来の理想ではないかと思います。
―レフェリーのプロ化があと10年早かったら
谷古宇 私はバスケのコーチもしながら、レフェリーを続けてきました。チームは決して強くはありませんが、コーチを続けながらレフェリーができることが、面白みの一つでした。レフェリーだけになってしまうと、続けられていたか分からないと思います。

IRS導入など、この10年間で審判の環境も進化した(右が谷古孝レフェリー)[写真]=B.LEAGUE
片寄 正直、気持ちは揺れ動いたと思います。大袈裟ですが、人生投げ打ってトライしようと考えたかもしれません。
―S級やプロを目指す審判員への提言
谷古宇 Bリーグが大きく発展していくなか、JBA審判グループは若いレフェリーの発掘に取り組んでいます。例えば、過去には無かったBユースの各種大会、U18日清食品リーグなど、昔に比べチャレンジできる試合が増えています。B級ライセンスを持つ“高校生”レフェリーが、トップリーグ担当レフェリーと一緒に審判する機会がすでにあったように、これまでにない経験を積むことができています。そのような機会を経て、「私もあのようなレフェリーになりたい」という声が高まってほしいです。
片寄 日本バスケ界はこれからもっと大きくなり、Bリーグにはもっと発展するポテンシャルがあると信じています。選手・コーチ・スタッフ・クラブ職員の皆さんが、その発展のために取り組むのと同じように、レフェリーたちも同じ熱量で取り組む時代になってほしいです。
映像、マニュアル、テキストなどの整備により、今まで以上に恵まれた環境があります。そんな環境を生かしつつ、それらをクリアしただけで、できたつもりにならず、現場でリアルを経験し、「Genuine(ジェニュイン:正直な、誠実な)」な本物のレフェリーを目指してほしいです。全員に与えられる映像やマニュアルだけに頼らない、本物のレフェリーになれるかを追求して、一歩一歩階段を登ってほしいと思います。
今は多くの方が、S級とBリーグ担当レフェリーを目指していますが、しっかりとしたリーグになるためには、そんな本物のプロフェッショナルなレフェリーが必要だと思います。
谷古宇 プロ志望のレフェリーもかなり増えてきていますので、職業選択の一つになることはうれしいことだと思います。プロレフェリーが増えることにより、ゲームの市場価値がさらに高まると思います。
片寄 S級やBリーグを目指す過程で得られることは、仮にライセンスを取得できなかったとしても、その後の審判活動に必ず生かされるはずです。またS級やA級レフェリーを目指すことだけが、すべてではありませんので、所属協会の大会を支えることも大切な役割です。ただ過去に比べて、レフェリーにとってもチャンスの試合が増えていますので、年齢に関わらず上を目指してトライしてほしいなと思います。
―今後改善すべき点
片寄 レフェリーの立場から言うと不自然かもしれませんが、それぞれのレフェリーの経験値が、選手やコーチングスタッフと比べて、まだ浅い部分はあると思います。ただ経験が浅いことを隠す必要はないと思います。本当は分かっていなくても、分かったふりをしてしまう。自信がないのに、自信たっぷりに振舞ってしまう。コミュニケーション能力はまだなくても良いのに、不要なコミュニケーションで不信を招くなど、経験がないことを試合中、常に露呈しては良くありませんが、人間的な部分を正直に出していくことも、レフェリーとしてあって良いと思います。
選手、コーチとのやり取りは、人間と人間のやり取りです。見栄え、プレゼン、格好から入らず、プレーコーリング・ガイドやビデオクリップだけにとらわれず、人としての生き方を、素直に出していった方が、選手、コーチとの信頼関係が生まれるのではないかと思います。
―移動や宿泊などの環境面
谷古宇 移動方法、宿泊環境、レフェリーフィーなどは昔に比べ大きく改善されました。本業の仕事をしながら、担当試合前に過去の試合をスカウティングする負担は現在もありますが、アマチュアレフェリーもプロ意識高く、仕事の折り合いをつけて取り組んでいます。不満はないと思います。
片寄 試合に臨む環境は整備され、非常に良いと思います。むしろ普通以上の宿泊環境で、準備ができています。ただ若いレフェリーの中には、朝食の質の改善を望む声があるなど、私たちのような昭和世代のレフェリーが十分と感じていても、新しい価値観もあります。またそこはレフェリーの本質と違う部分、という意見もありますので、これからの課題なのかもしれません。
―片寄レフェリーはケガで全休のシーズンを経験
片寄 しっかり保険を適用していただき、充分に対応していただきました。アフターケアについても、割り当てていただく試合をゼロにすることなく、復帰スケジュールに応じて、レフェリーに復帰できましたので、ありがたく思っています。
―レフェリー育成の環境については?
片寄 繰り返しになりますが、試合に臨む環境は十分整備されたと感じますが、若手へのレクチャーなど育成環境については、もっと色んな立場の方が参画されると、より良くなるとは思います。昔はトップリーグを経験されたレフェリーも少なかったですが、今はBリーグを経験されたのちに、定年されたレフェリーも増えてきていますので、色々な角度や立場の人から、レクチャーがあっても良いのかと思います。

環境整備が進む中、審判OBを含め様々な角度からのレクチャーがあっても良いのではと片寄レフェリー [写真]=B.LEAGUE
―ファン・ブースターへのメッセージ
谷古宇 初めてトップリーグを担当したのは、まだガラガラのとどろきアリーナで、親会社の同僚たちが少数精鋭で応援していた時代です。今は満席のホームゲームが増え、多くのファン・ブースターが支えているのをレフェリーとして体感しました。これからは、もっとファン・ブースターをリーグもクラブも大切にしないと、すぐ飽きられる心配があります。昔から応援してくれている方々や、2023年、沖縄で開催されたFIBAワールドカップがきっかけでバスケを好きになってくれた方々も大切に、リーグも各クラブが、さらにファン・ブースターを増やしていくような取り組みで、野球やサッカーに追いついてほしいです。
片寄 Bリーグが予想を上回るスピードで大きくなり、今やチケットを買うのも難しい試合も増えてきているのは、間違いなくファン・ブースターの皆さんの熱量のおかげだと思います。もっとバスケを好きになってもらいたいですし、まだバスケを知らない方や、Bリーグを見たことがない方にも、広めていただけたらうれしいです。
私はプロ野球で育った世代ですので、相手選手へのブーイングだけでなく、味方選手にも愛あるブーイングが起きるのも、プロスポーツの文化の一つだと思います。そんなチームや選手に愛があるファン・ブースターが時には起こす、愛のあるレフェリーへのブーイングは、個人的にはウェルカムだと思います。もっともっとファン・ブースターが増えて、これからもバスケを楽しんでもらいたいです。
片寄レフェリーもB級レフェリーとして高体連、中体連での審判活動を継続中。二人のお子さんがバスケ部所属のため、それぞれの練習試合などでレフェリングを楽しんで続けているとのこと。
お二方とも、審判インストラクターのライセンス最上位となる、T級インストラクター取得を予定しており、シーズンを通してBリーグの試合などで、審判員の評価を続け、育成に携わる予定です。
今後のために、良い面も悪い面も率直に語ってくださったお二人に感謝します。Bリーグ創生期を支えたレフェリーの皆さんの貢献があってこそ、Bリーグは10年目を迎えることができました。次の10年でさらにバスケットボール界がより良くなるように、お二人の言葉をアーカイブとして残していきたいです(井口基史)。