18時間前

加藤誉樹レフェリー単独インタビュー【後編】…「スーパースターたちに囲まれているという意識は全くありませんでした」

NBAのスーパースターたちとコミュニケーションをとる加藤レフェリー [写真]=fiba.basketball
バスケットボールコメンテーター

バスケットボールキングのコンテンツとしてBリーグ開幕前の恒例となっている「JBA審判グループに聞く!」。この企画は来るシーズンから採用される新ルールの解説やJBA審判グループの取り組みについて紹介し、リスペクト文化醸成のためにスタートした。今回で5年目を迎えるが、本編に入る前にレフェリーとしてパリオリンピックに参加した加藤誉樹氏のインタビューをお届け。東京オリンピックに続いて2度目の五輪レフェリーとなった加藤氏に、話題となったアメリカ戦でのやり取りについても話をうかがった。

文・取材=井口基史

世界中で話題になったあのシーン

7月31日に行われた男子グループフェーズ・アメリカvs南スーダンで、アメリカ代表のアンソニー・デイビス(ロサンゼルス・レイカーズ)へアンスポーツマンライクファウル(UF)をコールした加藤レフェリー。NBAにはないルールであるUFについて意見を求める、NBAのスーパースター、レブロン・ジェームズ(レイカーズ)、ケビン・デュラント(フェニックス・サンズ)、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)、アンソニー・デイビスに取り囲まれたシーンが、世界中のバスケファンの間で大きな話題となった。

――憧れを持つ人が多いアメリカ代表と同じコートに立った気持ちを教えてください。
加藤
 普段はファンとしてNBAの試合も見ていますが、審判としてそこに立つとなると完全な仕事モードになってしまいます。話題になったあのシーンもBリーグの試合中に選手たちとコミュニケーションを取るのと同じ感覚でしたので、あのレジェンドたちに囲まれているという意識は全くありませんでした(笑)。

――NBAのスーパースターたちを束ねていましたね?(笑)
加藤
 NBAルールにはないアンスポーツマンライクファウル(UF)という種類のファウルでしたので、FIBA(国際バスケットボール連盟)ではどういう取り扱いなのか? アンスポーツマンライクファウルというネーミング(スポーツマンらしくないファウル)はどうなのか? など彼らもNBAとFIBAのルールの違いは認識していたはずですが、その確認のためのコミュニケーションでした。Bリーグでもよくある、フリースローの時間を利用した、プレーヤーからの丁寧な問いに、レフェリーとしても丁寧に答える、というやり取りでしたので、あの4人だという感覚はありませんでした。試合が終わってから携帯を見てみると、あらゆる人から同じ写真が送られてきていて、その写真を見てから初めて「あ、この4人があの場にいて、こういう風に見えていたのだ」とファンに戻ったあとに、ハッとさせられました(笑)。

――ニッポンの「タカキ・カトウ」を世界に知ってもらいました。
加藤
 個別の判定についてはコメントできない立場ですが、あのシーンをポジティブに捉えてくださっているバスケファンが多くいたことを後から知り、うれしかったです。現代のSNS文化では、誹謗中傷に苦しんでいる選手やレフェリーがいます。あのようなシーンもポジティブに楽しんでいただけたことは、恵まれていると感じました。

――レフェリーの判定もバスケの一部として楽しむ。象徴的なシーンでしたね。

パリ五輪の経験を日本のコートへ

パリ五輪がさらに上を目指すモチベーションを得たという [写真]=fiba.basketball


――パリ五輪を通じて得たものは?
加藤
 レフェリーであれば「一度は立ってみたい」と思うのが五輪男子決勝の舞台だと思います。しかし、FIBAの担当者が割り振りを決めるわけで、つまり自分でコントロールができないことですので、あえて目標にはしないようにしています。ただ、初めて選出された東京五輪の際は、男子決勝を会場で見ていても、自分がそこでレフェリーをする姿は想像できませんでした。

――2度目の経験で気持ちに変化はありましたか?
加藤
 今回のパリ五輪は、昨年のワールドカップを経験したことも加わり、東京五輪のときより、「決勝の舞台への距離は縮まっているかもしれない」という実感がありました。だからこそ割り当てがなく、悔しい気持ちも生まれましたし、届くかもしれないと感じたからこそ、もっと頑張りたいと思いました。今、モチベーション高くトレーニングできているのは、「アスリートが4年間をかけて次の五輪を目指して、寝る間も惜しんで頑張れるなら、自分も頑張れるだろう」という気持ちです。次のロサンゼルス五輪に選んでいただけるかは分かりませんが、選ばれておかしくないレフェリーになりたいですし、そのためにBリーグの1試合1試合を大切に担当していこうと思います。

――望めば海外挑戦も可能と思いますが?
加藤
 海外挑戦の話はありませんが、人生一回限りですし、トライしたい気持ちがないわけではありません。ただし、Bリーグも各国の代表クラスの選手・コーチが集まり、ユーロリーグやNBA、Gリーグに遜色ないステージになるように速いスピードで成長しています。過去にNBAサマーリーグに挑戦された、JBA審判グループ シニア・テクニカル・エキスパートの上田篤拓さんのご尽力もあり、NBAに近いプログラムを導入しています。私もプロレフェリーの漆間大吾さんも、過去にNBAサマーリーグに挑戦しましたが、日本国内でも最先端と変わらない取り組みをしています。まずはしっかり地に足を付けて、Bリーグでレフェリングを極めていくことが重要だと思います。

日本のレフェリー環境の課題とは

――世界の頂点を見て、日本のレフェリー環境についてはどう思いますか
加藤
 レベルが上がってきているBリーグのゲームに対して、限られた時間で準備をして試合に臨んでいるレフェリーが大多数です。私もかつては1日が48時間あればいいと本気で思うくらい、仕事とレフェリー活動の両立に悩みました。プロになり、レフェリー活動に集中できていなければ、ワールドカップや五輪に選出される今の私はいなかったと思います。プロレフェリーの数がもっと増えたらいいという声は、間違いないとは思いますが、私に言えることは、1人でも多くの方がレフェリーにより時間を使って集中できる環境になり、お互いにスキルアップできる状況ができたら、ということです。

――最後に全国のファン・ブースターへメッセージをお願いします。
加藤
 ワールドカップ、パリ五輪と続いたことで、ますます注目が高まるバスケットボールを正しいルールの理解をもとに試合を見ていただくと、不必要なフラストレーションがなくなりますし、もっと楽しめるきっかけになると思います。ぜひルールへの理解を深めていただけるとうれしいです。私たちも全国のレフェリー、テーブルオフィシャルと一丸となってバスケを盛り上げる一端を担えればと思いますので、引き続き叱咤激励をお願いいたします!

ルールを理解することでもっとバスケが楽しめると、加藤レフェリー [写真]=fiba.basketball


パリ五輪では、さまざまな競技で、選手やレフェリーに対しての、誹謗中傷が問題となりました。正しいルールの理解のもとに、1つのケースをディスカッションすることは、バスケを楽しむ延長線上ですので、もっと楽しみたいですよね。一方で1つの判定で批判を浴びるレフェリー、1つの操作で批判を浴びるテーブルオフィシャル――。応援をしているチームに不利に働くと、割り切れないことがあるかもしれません。忘れがちになりそうなのが、レフェリー、テーブルオフィシャルも最善を尽くそうとしている一人の人間だということ。誹謗中傷により、心を病んでしまうレフェリーについても教えてもらいました。レフェリーを志す人がいなくなってしまう現実は、これからのバスケの世界にプラスになることはない。発展していくバスケ界で、みんなで考えるべきテーマが見つかったインタビューになりました(井口基史)。

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