2023.10.04

【JBA審判グループに聞く!(前編)】「2023-24シーズンのルールについて知っておくべきポイント」

[写真]=B.LEAGUE
バスケットボールコメンテーター

開幕前の恒例インタビュー『JBA審判グループに聞く!』。このインタビューは新ルールやJBA審判グループの取り組みについて紹介し、リスペクト文化醸成のためにスタートした企画の第4回。今回は新シーズンに向けて「プレーコーリング・ガイドライン」から知っておくべきいくつかのポイントを解説していただきます。
※各項⽬の映像・URL・文章は新シーズンへのルールの理解を深めていただく⽬的で使⽤しています。本インタビューで紹介している事象、選⼿、審判を批判や評価する⽬的のものではありません。

取材・文=井口基史

取材協力

前田喜庸(日本バスケットボール協会 審判グループ GM兼審判委員長)
JBA審判グループのゼネラルマネージャー。自身もBリーグ初年度からレフェリーとしてゲームに携わり、その後インストラクターとして後進の養成・評価を行ってきた。インストラクター部会長を経て、2023年度よりJBA審判委員長就任。

上田篤拓(日本バスケットボール協会 審判グループ シニア・テクニカル・エキスパート)
静岡県出身。bjリーグのプロレフェリー時代にはNBAレフェリーを目指し、日本人としては初となるNBAサマーリーグにてレフェリングを経験した。現在はJBA審判グループ シニア・テクニカル・エキスパートと国際バスケットボール連盟(FIBA)レフェリーインストラクターを務める。

ともにリーグとゲームの価値を高めよう

ーー今シーズンはこれまでにない注目が集まると思いますが、いかがでしょうか?
前田 ワールドカップで日本代表の活躍のおかげもあり、チケットの販売も好調、メディアの注目度も上がっていることは審判グループとしても肌で感じています。私たちもしっかりと準備し、リーグやゲームの価値を上げていきたいと思いますので、選手、ファンと力を合わせてより良いゲームを作りあげていければと考えています。

ーー今シーズンからファン・ブースターが観戦するうえで、ポイントを教えてください。
前田 JBAは定期的にプレーコーリング・ガイドラインというFIBAが示しているルールやレフェリーが特に気を付けているポイントを発信しています。新シーズンにあたり、FIBAに大きなルールの改正などはありませんが、ガイドラインとその文中にある【Video】をご覧いただくと実際のシーンが確認でき、よりわかりやすいのでご活用ください。

■イリーガルシリンダー(ルールのおさらい)

上田 イリーガルシリンダーは、シリンダーファウルとして昨シーズン(2022-23)からトップリーグで採用され、2023年4月からは国内各カテゴリーで適用開始されています。腕を上下する新しいレフェリーのシグナルに気付いた方もいるかと思いますが、多くのファウルの概念に共通する点もあり、知っておくと理解が深まると思います。

●基本的考え⽅
1. ボールを持っているオフェンスには、⾃⾝のシリンダー*の範囲でノーマルバスケットボールプレー**を⾏うための⼗分な空間が与えられなければならない 。
*シリンダーとは、コート上のプレーヤーが占める架空の円筒内の空間をいう。シリンダーの大きさ、あるいはプレーヤーの両足の間隔はプレーヤーの身長やサイズによって異なる。シリンダーにはプレーヤーの真上の空間が含まれ、ディフェンスのプレーヤーとボールを持っていないオフェンスのプレーヤーのシリンダーの境界は以下の通り制限される:
・正面は手のひらの位置まで。
・背面は尻の位置まで。
・側面は腕と脚の外側の位置まで。
手や腕は、前腕と手がリーガルガーディングポジションの範囲で上がるように、腕を肘の位置で曲げた状態で前に伸ばすことができるが、足や膝の位置を超えてはならない。
**ノーマルバスケットボールプレー(以下NBP)とは、ドリブルの開始、ピボット、ショット、パスをすることをいう。
2.ボールを持っているオフェンスが⾃⾝のシリンダーの中でNBPを⾏うとき、ディフェンスがオフェンスのシリンダーの中に⼊ってイリーガルなコンタクトを起こした場合は、そのコンタクトの責任はディフェンスにある。
3.ボールを持っているオフェンスが⾃⾝のシリンダーの外でNBPを⾏うとき、オフェンスがディフェンスのシリンダーの中に⼊ってイリーガルなコンタクトを起こした場合は、そのコンタクトの責任はオフェンスにある。

■プロテクトシューター(ルールのおさらい)

上田 プロテクトシューターはワールドカップで見かけたシーンがあったかもしれません。新しいファウルの概念ではありませんが、改めて下記のポイントと映像を確認いただけるとイメージできると思います。

プロテクトシューターとは
1.ショットのためにジャンプをしたシューターが、怪我をすることなく安全にフロアに着地をできる権利を確保することをいう。
2.ショットのためにジャンプをしたシューターは、ジャンプをした元の位置に着地をする権利がある。
3.シューターがジャンプをした元のA地点とは違うB地点に着地をする際、ジャンプをする時点で先にディフェンスがB地点でリーガルガーディングポジション(以下LGP)を占めていない場合、シューターにB地点で着地をする権利がある。
4.シューターに着地をする権利が認められている場合、ディフェンスはコンタクトが起きないように最⼤限配慮をする必要がある。

■アンスポーツマンライクファウル(UF)(ルールのおさらい)

上田 首から上に対するコンタクトは、「どんな場合もUFに該当するのでは?」という誤解をしている方も多くいると思い、改めて整理しておきたいと思います。まず首から上の部分にコンタクトがあった場合でも「すべてがUFとなるわけではありません」のでご注意ください。

アンスポーツマンライクファウル クライテリア2に該当するケース
1.激しくイリーガルな「インパクト」が存在するか?(過度に激しい、相手を負傷させてしまう可能性などのインパクト)
※通常のバスケットボールのプレーであってもUFが適用されるケースは存在します
2.「ワインドアップとインパクト」または、「インパクトとフォロースルー」といったプレーが存在するか?→UF
3.エルボーの動きを水平方向(ホリゾンタル)に振っているか→UF
※肘を水平方向に激しく振る行為によって起こしたコンタクトはUF。例えばそのコンタクトが首から上ではなくても、水平方向に振ったエルボーが十分なインパクトでコンタクトを起こせば→UF
4.エルボーをスウィングすることによって相手の首から上などにインパクトをもってコンタクトを起こした場合→UF
※通常の動きとも判断できる一方で、「エルボースウィング」を伴う動きで相手を負傷させてしまうようなコンタクトの場合、UFと判断することがあります。肘を曲げて張ってしまっているか、コンタクト自体が危ないかなどを判断の要素として考えています。
5.By any Means(バイ・エニー・ミーンズ)といって、フェイクなどで空中に飛んでしまったあと、いずれにしてもファウルになると認識し、ファウルになるなら激しく相手にコンタクトを起こしたり、掴んだりするような行為を継続して→UF
6.通常の動きではなく、バスケットボールのプレーではないインパクト→UF

パーソナルファウルに該当するケース
パーソナルファウル(首から上へのコンタクトなどでも)と判定するケースがあります。
1.通常のバスケットボールの動きの中で起きてしまうコンタクトで、過度なインパクトを伴わないもの
例1) ショットのためにおこしたアップモーションの一連の動きのなかで起きてしまったコンタクトなど
例2) リバウンド時に、お互いに絡み合って手や肘が当たってしまったものなど

2.インシデンタル・コンタクト(エルボースティングや、WIFを伴わないもの)
バスケットを普通にプレーする中で、不可抗力で起きてしまったコンタクトと判断されたもの

[写真]=B.LEAGUE

■スローインファウル(ルールのおさらい)

上田 2022-23シーズンのトップリーグから採用していますので、ご存知の方も多いかと思いますが、間違いやすいので改めて整理しましょう。これまで第4クォーター、もしくは延長残り時間2分以降の状況で、スローインのボールがオフェンスの手から離れる前にディフェンスのファウルを宣した場合は、アンスポーツマンライクファウル(アンスポ)のクライテリア5の対象となっていましたが、国際大会やトップリーグでは2022年から、国内でも2023年4月からスローインファウルというパーソナルファウルに変わっています。これまではアンスポの罰則として相手チームにフリースロー2ショット+ポゼッションでしたが、変更によりスローインファウルの罰則として相手チームにフリースロー1ショット+ポゼッションとなっています。

スローインファウルとは
1.第4クォーターもしくは各オーバータイムでゲームクロックに2:00が表⽰された以降のスローインで、ボールがまだ審判の⼿の中にある、あるいはスローインをするプレーヤーの⼿の中にあるときに、コート上のディフェンスにファウルが宣せられた場合に適⽤される。
2.スローインをするプレーヤーの⼿からボールが離れたときに、スローインファウルの適⽤は終わる。
3.ファウルがアンスポーツマンライクファウル(以下UF)のクライテリア(C1、C2)に合致する場合はUFを適⽤する。
4.ディフェンスのチームファウルの数に関わらず、ファウルをされたプレーヤーに1本のフリースローが与えられる。
5.ゲームはファウルが起きた場所に最も近いアウトオブバウンズからスローインで再開される。
6.ショットクロックは通常のパーソナルファウルのあとと同様に取り扱われる。
7.スコアシートには通常のパーソナルファウルと同様に記録され、そのクォーターもしくはオーバータイムのチームファウルに加算される

2021ー22シーズンまでの罰則
アンスポーツマンライクファウル→2ショット+ポゼッション

2022−23シーズンからの罰則
スローインファウル→1ショット+ポゼッション
上田 なお、このファウルでチームファウルが5つ以上になった場合は、チームファウルのペナルティシチュエーションの処置であるフリースロー2ショットではなく、「スローインファウル」の処置を優先します。「スローインファウル」はレフェリーのシグナルがなく通常のファウルのシグナルを行います。罰則がフリースロー1ショットのテクニカルファウルと似ていますので、ゲーム残り2分のスローイン時にファウルが起きた場合は注意が必要です。

■ディスクォリファイングファウル(2023シーズン新ルール)

上田 ディスクォリファイングファウルに該当する行為について、文言が追加されましたのでご紹介します。これまでもプレーヤーやチームベンチに座ることを許された人物による「相手チーム、審判、テーブルオフィシャルズ、コミッショナー(同席している場合)」に対する著しくスポーツマンらしくない行為はディスクォリファイングファウルとなっていましたが、今回「観客」に対する同様の行為に対してもディスクォリファイングファウルとなることが追加されました。

第38条-7 ディスクォリファイングファウル
条文:ディスクォリファイングファウルとは、プレーヤーや、チームのチームベンチに座ることを許された人物による以下の著しくスポーツマンらしくない行為に適用される。
・相手チーム、審判、テーブルオフィシャルズ、コミッショナー(同席している場合)や観客に対する行為。
・自チームのメンバーに対する行為。
・意図的に用具・器具を破損する行為。

■ゲームの進行を遅らせる行為=ディレイオブゲーム(2023シーズン・トップリーグでの取り組み)

井口 先日Bリーグ競技運営グループから試合時間の短縮について、下記のように務めているとメディアに対してアナウンスがありました。こちらはルール変更ではなく、リーグ全体として意識していく必要がある部分ですね。

試合時間の短縮への取り組み
*現状、平均試合時間が2時間を超えてきている
*不要な試合時間の増加を防ぐことで、競技/興行価値と 顧客満足度の向上へ
*闇雲に試合時間を短縮するのではなく、
⇒競技規則に則った、スムーズな試合進行へ

上田 1秒でも遅れたら「すぐディレイオブゲーム」いうわけではありませんが、スムーズな試合再開や、試合時間の短縮には試合に参加するすべての人の協力が必要ですので、再度、ディレイオブゲームについてご確認ください。

[写真]=B.LEAGUE

【2023バスケットボール競技規則の解説(インタープリテーション)第18/19条】
それぞれタイムアウトは1分間である。両チームは、審判が笛を吹きコートに招き入れたあと、速やかにコートに戻らなければならない。ときおり、1分間を超えてタイムアウトを引き伸ばすことで利益を得るとともにゲームの遅延も引き起こしている。審判によってそのチームのヘッドコーチには警告が与えられる。そのヘッドコーチが警告に対応しない場合、追加のタイムアウトが宣せられる。そのチームにタイムアウトが残っていない場合、ヘッドコーチにゲームの遅延行為(ディレイオブゲーム)によるテクニカルファウルが宣せられ、「B1」と記入される。ハーフタイムのあと、チームが時間通りにコートに戻らなかったとき、そのチームにタイムアウトが宣せられる。この場合に宣せられたタイムアウトは1分間与えられることはなく、ゲームは速やかに再開される。

その他のディレイオブゲーム
1.バスケットを通過したボールに不必要に触れてゲームの進⾏を遅らせること。(1度⽬は警告、2度⽬はテクニカルファウル)
2.笛が鳴ったあとなどで審判にボールを返さないこと。(1度⽬は警告、2度⽬はテクニカルファウル)
3.スローインの際、ボールを持つことを拒否する、またはスローインをすることができる状況でありながらスローインをしないことで、ゲームの進⾏を遅らせていると判断できるもの。(1度⽬は警告、2度⽬はテクニカルファウル)
4.ボールがすばやくスローインされることを妨げること。(1度⽬は警告とバイオレーション、2度⽬はテクニカルファウル、第4クォーターもしくは各オーバータイムでゲームクロックに2:00が表⽰された以降は1度⽬でもテクニカルファウル

■ヘッドコーチチャレンジ(HCC)のタイムアウトについて(2023シーズン新ルール)

上田 ヘッドコーチチャレンジを請求できる事象が発生した直後にタイムアウトが認められ、そのタイムアウトの最中でHCCが請求された事例について、これまで明記されていなかった対応方法が追加されました。すでにタイムアウトが始まった後でHCCが請求された場合、そのタイムアウトは中断せずに最後まで続けられ、HCCによるレビューはタイムアウトの後で行われます。またその間、一度請求されたHCCは取り消すことはできません。昨シーズンのトップリーグでは、本事例の対応はFIBAの競技規則にまだ明記されていなかったことから、国内では暫定的にHCCが請求された時点で、すでに始められているタイムアウトを取り消し、ただちにレビューを行う対応をとってきましたが、今シーズンよりFIBAが示した対応で行っていきます。

■ケイデンス・ホイッスルの国内での対応について(2023シーズン・トップリーグでの取り組み)

・ケイデンス(Cadence)とは「リズム・律動・調子など」
上田 ここ数年のFIBAが目指す判定技術の傾向として「ケイデンス・ホイッスル」という言葉があります。レフェリーが使う言葉で「ファウルの絵ができてから笛を鳴らす」という表現があり、意味は観ている側からも、ファウルだと認識できるタイミングまで待ってコールしていこうという心がけです。その背景は、ファウルではないフィフティー/フィフティーのコンタクトなどではプレーオンにするなど、むやみにゲームを止めすぎない目的からです。そのため今後国内でFIBAが示すケイデンスの傾向が浸透していくと、笛が鳴るのが遅いと感じる場面があるかもしれませんが、FIBAが目指す世界的な傾向の技術だと認識していただければと思います。

現状のケイデンス・ホイッスルについての整理
・FIBA現状:コールやプレーの内容を問わず、全てケイデンス(待ってから吹く)傾向
・国内:全てのプレーやコールではなく、その場面にフィットするものについて理解を深めてケイデンス・ホイッスルで対応
※速く笛を鳴らすという意味ではなく、継続して「ファウルの絵ができているか」、プレーが「スタート・ディベロップ・フィニッシュ」と継続する考え方は持ちつつ、その中で必要以上に待つ必要がないケースについて理解を深めていく

ケイデンス・ホイッスルの必要な主なケース
・ボディとボディの競り合いのドライブからリングにたどり着くものなど、RSBQの観点からプレースルーできるかどうかのケース
・ブロックショットかどうかの見極め
・プライマリレフェリーにまず判定を任せ、その後、別のレフェリーがアングルの違いなどからコールされなかった明らかなファウルを取り上げるケース(ヘルプ・コール)

主にケイデンス・ホイッスルの必要のないケース
・UF(C2)やDQなど、タイムリーなリアクションを必要とするケース…怪我の予防
・ショットの肘や手に対するイリーガルなコンタクト、プロテクトシューター(シューターの足元に入ってのコンタクト)
・ブロックorチャージなど大きなインパクトのあるイリーガル・コンタクト

RSBQとは「コンタクトの影響の判断基準」
R(リズム)S(スピード)B(バランス)Q(クイックネス)

今回も勉強になるルールの詳細について、JBA審判グループにご協力いただきました。

後編はW杯で活躍したのは日本代表選手だけじゃない! 「W杯で貢献した日本人レフェリー」について!

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