2021.09.16

【JBA審判グループに聞く!(前編)】トップリーグ審判のカテゴリ分け基準・仕組みとコロナ対策について

コロナ禍においても、これまでどおりの運用を行うレフェリーに注目 [写真]=B.LEAGUE
バスケットボールコメンテーター

待ちに待った新シーズン開始直前! 昨シーズンにトライしたルールやJBA審判部の取り組みについて紹介し、リスペクト文化醸成のために始めた企画の第2回目! 今回はトップリーグ審判のカテゴリ分けの基準やコロナ対策について取材しました‼

取材・文=井口基史

取材協力

上田篤拓(日本バスケットボール協会 審判グループ シニア・テクニカル・エキスパート)
静岡県出身。bjリーグのプロレフェリー時代にはNBAレフェリーを目指し、日本人としては初となるNBAサマーリーグにてレフェリングを経験した。現在はJBA審判グループ シニア・テクニカル・エキスパートと国際バスケットボール連盟(FIBA)レフェリーインストラクターを務める。

高森英樹(日本バスケットボール協会 審判グループ アシスタントマネージャー)
神奈川県出身。新潟アルビレックスBBにて通訳~強化部まで13シーズンに渡り従事。現在はプロチーム所属経験を活かし、JBA審判グループにて審判派遣、研修などの運営を担当し、コートの外から全カテゴリーのバスケットボールを支える。

資格を持っていても簡単に笛を吹けないトップリーグ

――本企画に、今シーズンも協力いただきありがとうございます。今回はどのようにレフェリーがトップリーグ(Bリーグ、WリーグB3リーグ)ゲームを担当しているか、教えていただければと思います。
高森 基準や仕組みがあり、レフェリー個人でも、審判を派遣するJBA審判グループとしても、プロセスを経たうえで、臨んでいることを知っていただけたらと思います。まずB1B2B3Wリーグを担当できる審判ライセンスはB級以上とJBAの規程で定められています。2020年度の各ライセンスをもつレフェリーの人数は下記のとおりです。現在、約53,000人の審判ライセンス登録者がいらっしゃいますが、公認レフェリーのうち「約0.3パーセント」のレフェリーがS級です。

●S級ライセンス保持者153名
●A級ライセンス保持者297名
●B級ライセンス保持者4,904名

2021-22シーズンのトップリーグ担当審判員の人数は下記のとおりです。
●B.LEAGUE担当審判員 116名(B1B2B3リーグ)
B3だけを担当するA級審判員63名
Wリーグ担当審判員 38名

※16名がB.LEAGUEとWリーグを兼任

 基本的には当然上位のライセンスから担当者を選出することになります。開催される試合数をもとにリーグを安定して運営し、かつ担当審判員をコンスタントに試合へ派遣できる適正人数を設定して担当審判員を決定しています。S級ライセンス取得=トップリーグ担当というわけではないこと
も知っていただきたい点です。適正人数に加えてシーズンを通じた評価をもとに、担当から外れる可能性があり、プロではないレフェリーにも、プロと変わらない覚悟や準備が求められる、選手と同様に厳しい世界です。審判グループとしては試合開催日に必要なレフェリー数×1.5倍の人数を目安に確保し、体制を整えています。

――選ばれたレフェリーが担当されていること。プロ以外の方は家族や職場の協力が重要ということがわかります。
高森 下記のような割当てを回避し、どのカードを誰が担当するか、JBAで割当てしています。

●クラブ・選手との関係性(家族・恩師・教え子が所属、勤務先がメインスポンサーなど)
●連続節での同クラブへの割当て(平日ゲーム除く)
●所属とクラブフランチャイズの同都道府県担当(平日ゲーム、東京都除く)

 昨シーズンはコロナ対策のため、移動を控える割当てを優先しています。新シーズンは状況を見極めつつ、できるだけ通常割当ての準備をしていますが、状況に応じた柔軟な対応になると思います。水曜開催と土日連続開催の負担は、レフェリーも同じです。過去には、2週間ほど家を離れて遠征していただいたレフェリーがいたこともありましたので、負担が偏らないことも割当ての際には気を付けています。

――確かに負担軽減と同じバスケの仲間なので、どこかでご縁のある選手・レフェリーも多いはずで、余計な憶測をさせない割当ては大切ですね。
高森 インストラクターによる評価に基づいて「トップリーグ担当審判」の中にも男女リーグごとに下記カテゴリ分けがあり、同じライセンス保持者でも、評価により担当できるリーグと役割が決まります。仕組みをベースに、担当カードを割当てるという作業です。

B1              クルーチーフ                 カテゴリ1

                  ファーストアンパイア     カテゴリ1

                  セカンドアンパイア        カテゴリ1

B2              クルーチーフ                 カテゴリ1

                  ファーストアンパイア     カテゴリ2以上

                  セカンドアンパイア        カテゴリ2以上 

B3              クルーチーフ                 カテゴリ2以上

                  ファーストアンパイア     カテゴリ3以上

                   セカンドアンパイア       カテゴリ3以上

Wリーグ       クルーチーフ                 FIBAライセンスor カテゴリ1

                   ファーストアンパイア     カテゴリ2以上

                   セカンドアンパイア        カテゴリ2以上

――Bリーグ、Wリーグ、インカレ、ウインターカップも重なると難しい作業ですね。カーディングが決まらないと、着手できないというハードルの高さがわかります。
高森 審判インストラクターもライセンス制度になっており、認定インストラクターが各ライセンスの審査や評価を行いますが、トップリーグ担当審判員に対しては最上位のT級インストラクターがシーズンを通して判定やゲーム中の動きについて評価し、オンラインシステムでフィードバックしていただいています。それらの結果を踏まえて、定期的にJBA審判委員会のテクニカル部会で割当て会議をおこない、最終的には例えば天皇杯・皇后杯ファイナルラウンドやポストシーズンの割当てが決まるので、審判員の皆さんにとっても毎試合チャレンジだと言えます。

                                    指導対象           評価・審査対象  

T級(トップリーグ)       S級以下           S級以下          

1級                                S級以下           A級以下          

2級                                A級以下           B級以下          

3級                                B級以下           C級以下          

――レフェリーにとってもあの舞台はやはり特別なんですね。

高森 ビッグゲームだけが特別ではありませんが、目標ではあると思います。人員やコストの関係で、全試合カバーした評価はできませんが、できるだけ多くの試合で評価を行っていただいています。今まではインストラクターの皆さんに試合会場で評価していただいていましたが、昨シーズンからはコロナ対策で映像による評価を行っています。下記のように、FIBAが採用している評価基準をJBA用にアレンジし、T級インストラクターがチェックしています。この結果が、カテゴリ分けの材料になります。

レフェリーの行動は常にチェックされている [資料提供]=日本バスケットボール協会

粛々と進んでいる環境整備

――背景を知ると、環境整備がリーグの魅力を高めると思いますし、多くのプロレフェリー誕生を望む声が多いと思います。bjリーグでプロレフェリーとして活動された上田さんの意見も聞かせてください。
高森
 新シーズンに新たなプロレフェリーとの契約予定はありませんが、プロを目指すレフェリーの数は少なくありません。JBAとしてプロレフェリーの増員はミッションの一つに掲げており、組織内ではどうあるべきかの検討や、Bリーグとの意見交換も行っています。

上田 自分の経験からも、プロが増えることに反対する理由はありません。ただプロである以上は、成果を出したらサラリーが上がるなどの評価や、保証も考えないといけないと思います。同じ年齢層のプロレフェリーが、多くなりすぎることのリスクもあると思います。同じ時期に全盛期や引退を迎える可能性の高くなり、知識的にも経験的にも年齢層のバランスがあった方が、リーグや競技を長く支えるためには、いい循環だと考えています。

――スポーツくじが始まれば観る側の声も目も厳しくなるでしょうし、6シーズン目ならせめてファイナルは全員プロレフェリーであって欲しい。これだけチーム数あれば、東、西、B2B3などリーグ内に、それぞれ審判部担当部門があってもおかしくないと思いますが。
上田
 プロになりたい審判は多くいますが、実際プロになるために、費やしている準備や経験を積み重ねている人もいれば、単純にプロという言葉で、目指している方もいたりするのは、選手と同じ状況だと思います。彼らの気持ちを代弁するわけではありませんが、もっと判定や審判スキルを磨く時間や、トレーニングに費やせる時間を確保してあげたい、という気持ちは正直あります。プロになるメリットとは、ゲームへの準備時間を増やせることが、レベルアップにも、リーグの盛り上げにも一番意味が大きいと思います。

――新B1がNBAに次ぐリーグを目指すには、今のプロレフェリーの輩出ペースで間に合うのでしょうか?
上田
 方向性自体は見えていると思いますが、現実的に何人プロを生み出せるのか。それには何年かかるのか。いくら費用がかかるのか。どれくらいの生活環境を提供できるのか。など具体的なステップに入る時期は近いと感じています。そういうファンの声が高まることも、ポジティブなことだと思っています。ただ現在のプロレフェリー以外の審判は、ある意味プロを超える準備と、ハートを持って取り組んでいる方が多い方がほとんどで、その事実を横に置いて、プロの肩書がないというだけで、レベルが低いという見方は正しくないとも思います。

高森 一つの目安として、Bリーグ発足前の2016年に、JBAが発表した「JAPAN BASKETBALL STANDARD」に「2024年に20名のプロレフェリー輩出を目指す」とあります。当時と今は環境も変わりましたし、現実的にはあと3年で目標達成は厳しい状況かもしれません。2026年に向けたBリーグの改革も一つのマイルストーンとして日本にとって最適なプロ審判の人数や環境を検討・準備しています。

――新B1の動きもそうですが、スポーツくじ開始が2022-23シーズンからとすると、レフェリーの環境整備はスピードアップが不可欠と思いますが。
高森
 そうですね。新B1のチーム数や試合数がどうなるのか。平日ゲームがどれくらいなのか。プロレフェリーが何人必要か。そういうコミュニケーションも始まっていますし、審判のみなさんへスポーツくじに関する情報共有も行っています。ただプロの人数を増やすというより、コンスタントにトップリーグを担当していただくための環境整備にリーグと一緒に取り組んでいます。

――今シーズンも引き続きコロナ対策がテーマかと思います。
高森
 昨シーズン話題になったマスクはその一環です。プロの加藤・漆間の両氏に開発の協力をもらい、運動量があっても息苦しさがなく、飛沫や感染を防ぎ、かつ笛をくわえることができる工夫をしました。特注で作成し、全てのトップリーグ担当レフェリーへ配布しました。マスクをした状態を維持しながら、コート上に立てることをテーマにし、新シーズンも継続使用します。オフコートでの感染を防ぐ行動についても担当審判間で共有し取り組んでいますし、昨シーズンも取り組んできた検査体制など、コロナ対策は各リーグとコミュニケーションを続けています。

――新シーズンを機にリーグ戦の再会に携わる関係者に改めて感謝したいですね!
高森
 トップリーグレフェリーが一週間のどのような生活をしているか、本人たちがお話ししている動画がJBAのYouTubeチャンネルにありますので、機会があればご覧ください!

(加藤レフェリーが過ごすシーズン中の1週間の取り組みの例など)

後編は引き続き「2021-22シーズン プレーコーリング・ガイドライン」を解説していただきます!(井口)

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